国際連携研究リスク統括室について
設置の背景と目的
今日の研究活動は、国際連携やオープンサイエンスの推進によって、かつてないスピードと広がりで発展しています。これは、新たな知を創造し、社会課題を解決するために不可欠な流れです。
一方で、研究の国際化・オープン化は、意図しない技術流出や利益相反・責務相反といった、これまでにない多様で複雑なリスクを伴うようにもなりました。
このような状況を踏まえ、大阪大学は、研究者が不測のリスクに煩わされることなく、安心して国際連携や挑戦的な研究に邁進できる環境を整備するため、「研究インテグリティ・マネジメント室」を発展的に改組し、令和7年10月に「国際連携研究リスク統括室」を設置しました。
本室は、オープンサイエンスを力強く推進するための「攻め」の姿勢と、研究の健全性や研究成果を脅威から守る「守り」の姿勢を両立させる、全学的なリスクマネジメントの中核を担います。
本室の役割と特徴
本室は、研究担当理事の指揮のもと、以下の2つを両輪とした活動を行います。
1.研究リスクそのものに関する『研究』
2.研究成果に基づく『全学的なリスクマネジメントの実践』
この「研究と実践の往還」が、本室の最大の特徴です。単に規則で管理するのではなく、リスクの構造を科学的に分析・研究し、その知見を基に、実効性の高い具体的な支援策を研究者に提供することを目指します。
そのために、「リスクIR・研究ユニット」と「リスク管理ユニット」の2つのユニットを設け、データに基づいた戦略的なリスク分析・研究機能と研究に基づいたリスク管理機能を融合的に整備しました。
主な取り組み
本室では、複雑化する研究リスクに的確に対応するため、学内の専門家や関連部署と緊密に連携しながら、以下の取り組みを学際的に推進しています。
事業1:研究リスク管理のための研究機関向けデューデリジェンスプロセス開発事業
国際連携や研究活動に伴うリスクは、これまで個々の経験や感覚で語られることが多く、その全体像を客観的に捉えることは困難でした。
本事業では、この複雑な研究リスクを科学的なアプローチで解き明かす、すべてのリスクマネジメントの基礎となる取り組みを実施します。
具体的には、文系、理工学系、ライフサイエンス系といった各研究分野の特性を深く理解した上で、それぞれの活動に潜む特有のリスク因子を特定します。次に、それらのリスク因子が互いにどう影響し合っているのか、その因果関係を「リスクマッピング」などの手法を用いて分析し、複雑なリスクの構造を可視化します。
この取り組みの目的は、リスクの全体像を正確に、かつ客観的に把握することにあります。これにより、個々の研究者や事務担当者の負担を闇雲に増やすことなく、「把握漏れ」や「過剰な管理」を防ぎ、真に効果的で合理的なリスクマネジジメントを実現するための確固たる土台を築きます。
事業2:研究セキュリティ・インテグリティツールを用いたリスクマネジメントモデルの構築
国際連携を進める上で、相手方のリスクを調査する「デューデリジェンス」は不可欠です。しかし、多くの大学では、専門人材の不足や既存の外部サービスが高価であるといった課題を抱えています。このリスク管理レベルの格差は、日本の研究力全体にとっての大きな課題です。
そこで本事業では、内閣府の事業として大学間で連携し、安価で実践的なリスクマネジメントツールを構築しました。
この取り組みの最大の特長は、単にデータを提供するだけでなく、各大学における「生きた知見」をデータベース化し、共有する点にあります。これにより、経験の浅い担当者でも的確な判断を下すことが可能となり、参加機関全体で知見を蓄積・発展させていく持続可能なエコシステムの構築を目指します。
事業3:「研究インテグリティエコシステム創生コンソーシアム(RISE)」の設立と運営
巧妙化・多様化する研究リスクに、各大学が個別に立ち向かうには限界があります。真に実効性のある対策を講じるためには、組織の壁を越えて知見や成功事例を共有し、協力して脅威に立ち向かう「面」での取り組みが不可欠です。
そこで大阪大学では、日本の大学・研究機関の知見を結集する新たな協力体制として、「研究インテグリティエコシステム創生コンソーシアム(RISE)」の設立と運営を主導しています。これは、参加機関が共に学び、支え合うことで、日本の学術界全体の健全な発展を目指す取り組みです。
コンソーシアムの主な活動は、【RSDDシステムの利用】【実務者向け研修の共同開発】【有効な対策(ベストプラクティス)の策定】【政府への政策提言】など多岐にわたります。個別の大学だけでは成し得ないこれらの活動を通じて、日本のアカデミア全体の国際的な信頼性を高め、研究者が安心して挑戦できる環境を未来へと繋いでいきます。
研究インテグリティエコシステム創生コンソーシアムは こちら
事業4:研究リスクマネジメントを担う専門人材の育成(研究開発マネジメント人材に関する体制整備事業)
優れたツールや仕組みも、それを使いこなし、的確な判断を下せる「人材」がいてこそ真価を発揮します。この新しい専門分野を担う人材の育成は、日本の大学全体にとって喫緊の課題です。
そこで本事業では、大阪大学が持つ知見とノウハウを凝縮した「研究リスクマネジメント専門人材育成プログラム」を開発しました。本プログラムは、これから業務に携わる方向けの「初級」から、総合的な分析力の習得を目指す「中級」まで、受講者の経験に応じたコースを用意しています。
研修の特長は、単なる知識の習得に終わらない実践的な「双方向の学び」です。実際のケーススタディを用いた演習や、参加者が自機関の課題を持ち寄って議論する場を通じて、現場で直面する問題を解決できる本質的なスキルを養います。これにより、各機関のリスク管理を主導できる専門家の育成を力強く後押しします。