StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

■ 子どもの「やり抜く力」はどう育つ? 「粘り強さ」の萌芽を科学する


人間科学研究科 人間科学専攻 博士後期課程3年 石川 萌子 さん

 「誰よりも粘り強い研究者になりたいです!」と意気込む石川さんが挑むテーマは、子どもの「粘り強さ」。困難な課題に直面しても、あきらめずに取り組み続ける力は「Grit(グリット)※」と呼ばれ、将来の目標達成に深く関わるとされている。その力をもつ子どもの特徴や、それを育む環境を科学的に明らかにする研究だ。

 実験で用いられるのは、開けられない木箱だ。子どもが課題にどれほどの時間向き合い、どのような方法を試すのかを詳細に記録し、発話や視線、行動の変化を分析する。言葉による自己評価が難しい幼児に対し、かけた時間や行動そのものを指標とする点が、研究のユニークなポイントだ。実験からは、複数の戦略を自ら考え、試行錯誤できる子どもほど、粘り強く課題に取り組む傾向があることが示された。また、周囲からの応援や声かけといった環境要因も、粘り強さに影響を与えることが明らかになっている。

 さらに石川さんは、基礎工学研究科と連携し、ロボットによる応援が子どもの挑戦を後押しするかも検証。実験結果から、人だけでなくロボットも 「挑戦を支える存在」になり得ることが分かり、教育・保育の現場に新たな支援の可能性を示している。

 「『頑張ること』を大切にしていた自分の幼少期を思い出し、子どもの粘り強さについて興味を持ちました。自分の興味を思う存分深めていけるところが、研究のおもしろさです」と石川さん。学外では、公認心理師として子育て相談に携わり、研究と実践を行き来しながら知見を深めている。石川さんの歩みが、子どもたちの生き方や挑戦を支える新たな知のかたちを描いている。

※「 Grit」とは 粘り強さと情熱を構成要素とするやり抜く力


■ 「つくる楽しさ」を抗菌技術に 青色レーザで拓く純銅の可能性


工学研究科 機械工学専攻 博士前期課程2年 吉田 環 さん

 「自分の手でものを作るのがとても面白いんです」と語る吉田さん。オリジナルのレーザ装置を使って、「純銅コーティング」の研究に取り組んでいる。

 「純銅」は強い抗菌・ウイルス不活化作用をもち、感染症拡大を防止する素材として注目を集めている。しかし、軟らかく強度に課題がある上、電気自動車の普及に伴って銅の使用量が増加し、資源枯渇が危惧される。これらの課題を解決しつつ高い抗菌性を実現する鍵となるのが、青色レーザを用いた「マルチビームレーザ金属堆積法」。ステンレスなど強度の高い基材の表面に純銅をコーティングすることで、純銅の使用量を抑えられるのだ。

 純銅が青色光を吸収しやすい特性に着目し、純銅粉末を均一に加熱することで、緻密で高純度な皮膜形成を可能にした。基材を大きく溶かしながら純銅粉末を供給する従来手法と比べ、銅の純度を保ち、基材へのダメージも抑えられる。この技術は精密加工を得意とし、手すりやドアノブ、医療機器など、社会への幅広い応用が期待されている。

 吉田さんの研究室は企業との共同研究や国際学会での発表も多く、自身も積極的に参加することで、「様々な分野の方との交流が研究の刺激となり、さらに挑戦しようという前向きな気持ちになった」と振り返る。研究と並行して、自然科学系女子学生による組織「asiam(アザイム)」の活動にも参加している。小学生向け科学教室や女子高生への進学相談では「研究を噛みくだいてわかりやすく伝える力」が養われたと語る。春からは医療機器メーカーに就職予定。自らの手を動かして培った研究力と、対外的な活動を通じて得た視点や経験を、「社会貢献につなげたい」と展望を語った。


■ 顕微鏡で探る水素社会の未来 触媒研究への挑戦が導いた、グローバルな舞台


基礎工学研究科 システム創成専攻 博士後期課程3年 金 庚民 さん

 顕微鏡の魅力に魅せられ、「世界を大きく動かすグローバルな研究」に没頭している金さん。取り組むのは、「セリア(CeO₂)」と呼ばれる触媒が重要な役割を果たす「水性ガスシフト反応」の仕組み解明だ。

 水から水素を生み出す水性ガスシフト反応は、次世代エネルギー社会を支える重要な化学反応として知られる。しかし、その反応の仕組みは長らく明らかになっていなかった。

 金さんは「原子間力顕微鏡」を用い、セリア表面を原子レベルで直接観察することで、触媒反応が起きている“現場”を捉えることに挑戦。さらに、学外研究機関との共同研究を積極的に進めるとともに、自ら研究費を獲得し、実験環境の整備にも取り組む。研究と環境づくりに同時に力を注いできた結果、反応に深く関わるセリウムイオン(Ce3+)を、世界で初めて実像として捉えることに成功。計算シミュレーションが主流だった触媒研究において、実験によって反応の核心を直接捉え、研究ステージを大きく前進させた。

 この触媒反応の研究は、水素社会の実現にとどまらず、金やプラチナといった希少な貴金属に頼らない触媒開発への可能性もひらく。成果は国際的にも高く評価され、海外の大学から招待講演を依頼されるなど、グローバルに注目を集めている。20234年には、ノーベル賞受賞者と若手研究者が交流する「リンダウ・ノーベル賞受賞者会議」に日本代表として参加。「世界トップレベルの研究者が集う場で、自分の研究をいかに魅力的に伝えるかを学べた経験は大きかった」と語る。原子ひとつひとつに向き合うその探究心は、エネルギーや環境の未来を見据えている。国境を越えて活躍する金さんの今後に、期待が高まる。



(本記事の内容は、2026年2月発行の 大阪大学NewsLetter 94号 に掲載されたものです)

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