学生たちの手で、夢を形に
飛行機づくりは、夢やロマンにあふれている。しかし現場は、もっと地道で、時間も労力も要するものだ。
2025年7月末に開催された「鳥人間コンテスト2025」。その挑戦の道のりは、前年度大会が幕を閉じた2024年秋から始まっていた。活動の主軸を担ったのは新3 年生たちだ。「前年の飛行記録は4 キロ弱。それを上回る10キロが目標でした」と、パイロットを務めた南波圭吾さん(工学部3年生)は振り返る。
人力飛行機は毎年、新作だ。前年の反省点を洗い出しながら、パイロットの体重や体格に合わせて設計を見直し、機体を一から組み上げていく。製作は部位ごとに班を分けて進められ、歴代の先輩が残した設計図や、蓄積された技術・ノウハウを足がかりに、学生自ら設計図を引く。冬から春にかけて試作と調整を重ね、やがて翼幅30メートルを超える機体が、少しずつ形を成していく。
日々、授業を終えた学生たちは部室に集まり、時間の許す限り製作に没頭する。作業が深夜に及ぶことも決して珍しくなかったという。albatrossは授業や研究ではなく課外活動であり、参加はあくまで自主的だ。それでも部室には、毎日のように誰かの姿がある。強制ではないが、離れがたい。その雰囲気づくりを担ってきたのも3年生。副代表を務めた倉本茉央さん(工学部3年生)は「製作と同時に、幹部メンバーだけで話し合いの場をこまめにとるようにしていました。ものづくりの楽しさや、仲間と過ごす時間は大切にしたい。でも、それが馴れあいにならないよう、製作には本気で向き合っていました」と語る。
2005年の設立以来、albatrossは尾翼を持たない「無尾翼機」にこだわり続けてきた。しかし2023年、さらなる長距離飛行を目指し、尾翼付き機体へと大きく舵を切る。伝統を変えるという決断は、決して容易なものではなかった。現在のメンバーにとって、尾翼機は「最初からあるもの」のようだが、全く新たな機体構造に挑戦した先輩たちの葛藤と覚悟を、全員が意識している。その決意を受け継ぎ、2025年大会用の機体には「白夜」と名付けた。2023年からの「ひので」「太陽」と続く名称の流れを汲みつつ、「沈まない太陽」に未知なる景色への思いを込めた。
挑戦を支えた、見えない努力
学生たちに立ちはだかる壁は、製作面だけに留まらない。そもそも、飛行機の製作や運営には多額の費用がかかる。その総額、およそ300万円。大学からの活動支援金を活用するほか、卒業生から募った寄付や、大学祭での売上を活動費に充てる。それでも資金は十分とは言えず、幹部を中心に会費の額を引き上げるなど、自身の財布を痛める決断も迫られた。さらに、鳥人間コンテストへの出場には厳しい書類審査というハードルも。これを通過しなければ、本戦への出場権すら得られない。実際albatrossには、数年間にわたって出場権を得られなかった時代もあった。そこで彼らは、審査書類そのものにも工夫を凝らした。PR文に盛り込んだのは、「大阪三つ巴の戦い」という企画。大阪府内の他の出場校2 校に果たし状を突きつけ、自分たちが下剋上を達成し、「大阪の空を制する」——そんな大阪最強の座をかけた物語性を盛り込んだのである。こうした取り組みが主催者の目に留まり、見事出場が決定した。
大会前日まで機体の微調整は続いた。限界まで手を入れ、いよいよ学生たちは、完成した機体とともに琵琶湖へと向かった。
初優勝はゴールではなく、新たなスタート
大会当日、空を飛ぶのはパイロット一人だ。操縦桿を握った南波さんは、体力と精神力の限界に挑んだ。機体「白夜」は琵琶湖の空へ舞い上がり、飛行距離を伸ばしていく。やがて機体は遠ざかり、視界から消えた。送り出す仲間たちは、小さなモニターを囲み、ただ祈ることしかできない。コックピット内には、前年のパイロットの言葉が残されていた―「負けんな」。前年の記録を越え、飛距離が伸びるごとに、メンバーの声援と興奮は大きくなっていく。そして、11キロメートル地点のパイロンでの旋回を成功させ、15,473.51メートル地点で着水。目標に掲げていた10キロを大幅に更新したうえ、暫定1 位という結果が表示された。思いもよらない展開に、見守っていたメンバーの喜びは一気に頂点へと達した。
後に控える他校の結果を待つあいだ、緊張の時間が続いたが、最後まで首位を譲ることはなかった。優勝が決まった瞬間について、南波さんたちは「正直、現実味がなかった」と笑う。だが、家族や仲間、OB・OGから次々と祝福の言葉が届くにつれ、少しずつ達成感が込み上げてきた。悲願の初優勝は、誰か一人の力ではない。全員の積み重ねが導いた結果だった。
大会後、チームは代替わりを迎えた。現代表を務める古橋功誠さん(工学部2 年生)は「目指すは20キロ。先輩方の力も借りながら、新しい景色を見に行きたい」と意気込みを語る。初優勝は終着点ではなく、新たな挑戦の始まりだ。手作りの翼で、限界を超え続ける。挑戦はどこまでも続いていく。
■ 大阪大学飛行機制作研究会albatross(アルバトロス)
2005年創設。吹田キャンパスを拠点に活動する大学公認団体。毎年、読売テレビ主催の「鳥人間コンテスト」への出場を目標に、人力飛行機の設計・製作を続けている。「第47回鳥人間コンテスト2025」にて初優勝を達成。
[Instagram] @albatross_2005
[Web] https://ykn-st.github.io/albatross/
[X] @alba_handai
(本記事の内容は、2026年2月発行の 大阪大学NewsLetter 94号 に掲載されたものです)
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