阪大StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

答えのない世界でどう生きるか?
楽しむこと──
そんな阪大生が描くその後の人生(ストーリー)

庭に願いを。 異色のガーデンデザイナー 世界に花ひらく
庭に願いを。 異色のガーデンデザイナー 世界に花ひらく

庭に願いを。 異色のガーデンデザイナー 世界に花ひらく

佐藤未季さん(ガーデンデザイナー)

ひとは、自然とともにある。花を愛でたり、森を歩くと、心と体が癒される。科学的に、自然との接触がストレスの軽減や精神的な疲労を回復するという検証結果も複数報告されている。2020年は、感染症の流行から自宅で過ごす時間が長くなり、家庭菜園を始めた方も多いのではないだろうか。大阪大学法学部卒業生の佐藤未季さんは「緑の癒しの力」に自身が救われた経験から、大きく人生の舵をきり、7年間に及ぶ法曹界への挑戦に区切りをつけ、ガーデンデザイナーへと転身した。ガーデニングの本場イギリスへ渡り、一から技術や考え方を身に着け、紆余曲折を経て、2019年、庭のオリンピックとも称される 「RHSチェルシーフラワーショー」に初挑戦でゴールドメダルを獲得するにまで至る。慣れないウィズコロナの生活に、心が疲れてしまう人もいるだろう。自然の力に魅せられて、緑の力で人を救いたいと邁進する気鋭のガーデンデザイナーに話を聞いた。

「訪れる人の幸せと健康を」庭に込めた願い

 佐藤さんは、出身の北海道を拠点に活動している。独立後、ともに仕事をするランドスケープデザイナーの柏倉一統さんから、チェルシーフラワーショーへの挑戦を打診された。突然の提案に驚いたが、「ずっと憧れのチェルシー、よし、行くか!」と出場を決意。

 どんなコンセプトの庭を表現するか、締切の直前まで二人で話し合った。「ガーデンデザイナーが、庭をデザインする根底には、『人を幸せにしたい』『緑の空間で癒されて元気になって欲しい』と人の幸せへの願いが込められていると思う。その想いを、自分たちのアイデンティティにのせた『Health & Happiness』というコンセプトを庭に表現し、追求しました」と佐藤さん。「アジアには古来から『魯班尺(ろばんじゃく)』と呼ばれる風水の寸法があって、吉と凶の寸法があります。吉の寸法で区切った空間は居心地がいいとされています。私たち日本人も、その吉の寸法を知らず知らず生活に取り入れています。例えば、お茶室の四畳半くらいのサイズがそうです」。

 幸せを願う寸法として魯班尺を取り入れ、健康を願うものとして昔から伝わる薬効のある植物を選んだ。「私たちが育った地域には、見渡すと薬効のある植物がたくさん生えていることに気づいて、ハーブの文化がある英国で漢方を紹介すると面白いのでは」と、二人が辿り着いたアイデアは「漢方の庭」。佐藤さんの実家は薬局を営み、柏倉さんも幼少期に祖母によく薬草を煎じてもらったなどの原体験があり、漢方は二人の原点でもあった。

 「もう一つ表現したかったのは、冬のシーズンが6カ月もある北海道ならではの『春が来た喜び』です」と話す。「漢方の庭」には、鉄でできた樋と石の間を「雪どけの小川」が喜びをたたえて流れ、漢方植物がその脇でそっと揺れる。大地の恵みの循環と人々の健康を想う優しさが、魯班尺で区切られ幸せを願う空間に見事に表現されていた。

 観覧した人たちからは「Clear & Crispという感想を多くもらいました。シンプルだけれど、単純ではなくて、すごく落ち着く。何とも言えない温かさがあるねって」。新しい気付きもあった。「小川の側に、パーゴラという木のアーチで囲まれた空間を四畳半くらいになるよう設計したんです。工事に協力してくれた方の指摘で気付いたのですが、魯班尺で全て設計したのに、配置がぴったり黄金比だったんです。人が心地よいと感じる空間に、東も西もないのだな」と驚きを口にした。

 

優しさの連鎖。つながりで掴んだ栄冠

 佐藤さんたちの挑戦を語る時に忘れてはならないのが、異例の数のスポンサーだ。一次審査通過後わずか10日間で、最終審査での造営費用2,000万円分のスポンサーサインを用意する必要があった。既に名の知れたデザイナーには大企業が1社単独でスポンサーになることが多いが、初挑戦の二人には難しかった。奔走するも、北海道の震災とも重なり、暗雲が立ち込めた。しかし、二人の挑戦の噂を聞きつけた知人や大学時代の友人らが、支援を呼びかけ、その輪はみるみる拡がり、現地の造営が始まってからも応援したいという声が止まなかった。最終的に451社/名にのぼり、大会本部からも「大会始まって以来のことだ。日本人はなんて優しいんだ!」と驚きと称賛の声が上がったという。

 佐藤さんは「本当にありがたかったです。帰国後、テレビや雑誌などに出させていただいたので、とにかく御礼を伝えたいと思いました。でも逆にご覧になった方から『めちゃ嬉しかったわ』『ありがとう』というお声をいただけて(笑)」と感慨深い。最高峰の舞台に無名の日本人が挑戦し金賞をかっさらう姿は、多くの人々の心を打った。

 

ウィズコロナ時代の豊かな暮らしのために。

 2020年大会は、新型コロナの影響で中止に。「大会で知り合ったフィンランドのデザイナーは連続出場が決まっていたんです。すごくショックだったはずなのに、彼女は『乗り越えたら絶対に楽しい世の中が待っているから!2021年、もっとすごい庭を造りに戻ってくるよ!』とすぐに発信していて。情熱をもって進もうって勇気をもらいました」と前を向く。

 佐藤さんらが、幸せと健康に加えて意識することがある。「『ひとが使って完成する庭』を心掛けています。楽しいコミュニティ、緩やかな心地よい繋がりがうまれる庭です。木陰でお茶やお酒を飲んだりして笑顔がうまれたら」と微笑む。今秋オープンの恵庭市の公園にも、例えば、子どもたちが隠れん坊できる1m丈のイネ科植物を植栽したり、屋外ライブラリーには落ち着いた色彩の花をそろえたりと、使う人たちが楽しめる工夫をちりばめたという。

 「オンラインで便利になるのは素敵なこと。でも、コロナ後は今よりも『人と人がふれあって生きていきたい』という気持ちが強くなるように思うんです。お庭や公園で楽しめて、自然に触れて心が癒されれば、きっと本当の豊かな暮らしが待っているのでは」と佐藤さんは言う。

 人との距離を求められる新しい生活様式にこそ、心の豊かさを育む要素を大事にしたい。

 

チェルシーフラワーショー挑戦までのドラマチックな物語は、前後編をご覧ください。

前編後編

 

● 佐藤 未季(さとう みき)

北海道幕別町出身。2004年3月、法学部法学科を卒業。英国Writtle College、Inchbald School of Garden Designなどにて造園やガーデンデザインを学ぶ。帰国後、旭川北彩都ガーデンの植栽設計や十勝ヒルズなどの公開庭園のデザインを手掛ける。16年に未季庭園設計事務所を開業。19年、英国チェルシーフラワーショーで金賞受賞。

[公式サイト]https://www.miki-designs.com/

[YouTube]【2020年秋OPEN予定!】恵庭市「花の拠点」設計者にZoomインタビューTALK 6 ▶

 

(本記事の内容は、2020年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

 

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