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弁護士志望からガーデンデザイナーになった、法学部卒生の人生ストーリー〈後編〉

阪大法学部卒のガーデンデザイナー、佐藤未季さんの人生を追う『旅立ちと挑戦のStoryZ』。前編に続いて後編では、ガーデンデザイナーとして歩み始めてから、表舞台で活躍されるようになるまでの道のりや、今年の「チェルシーフラワーショー」に向けた活動、そして学生へのアドバイスを語ってもらいました。

 

休みの日にも、“ウフウフ”できるものを。
ガーデンデザイナーとしての道を、歩みだす。

— 絵やデザインを描くようになってからは、ガーデナーからガーデンデザイナーのほうにシフトしていったんですか?

そうですね。3年生の卒業の時に、ガーデンデザインの授業で生徒賞をいただいたことも、きっかけのひとつでした。最もデザインの優れた生徒に与えられる賞なんですが、先生からもめちゃくちゃ褒められて。本格的な製図を描くのは初めてだったんですけど、成果を認めてもらうことができて、「やっぱり私は、ガーデンデザインの仕事でごはんを食べていきたい」って思いましたね。

— 楽しいし、描けるし、褒めてもらえるし。

そう。司法試験の勉強をしていた時は、休みの日に「さあ、六法全書み〜よう♪判例集、フフフ♪」って楽しい気分には全くならなかったけど。植物事典や、デザインブックというのは、休みの日でもウフウフしながら開いていたんですね。それは、残念ながら法学部時代には味わえなかった楽しさでした。

— 植物やデザインを学ぶのは、苦じゃなかったんですね。

学生の時は、“ウフウフ”を知らなかったんです。目標に向かって、苦痛の中で勉強をするのが当たり前だと思っていました。でもそうではなく、10努力して1しかできないものもあれば、10努力して7できる、さらには10努力して12できるものだってある。その中で、私にとって司法試験は10努力して2〜3くらい。もうちょっといってほしかったですけどね(笑)。

— その人の適正といいますか。

そうですね、もとは私も、法学よりも生物や数学が得意だったし。司法試験は、何度トライしても合格できなくて適正のなさを痛感したけど、デザインを手がけてからは、「私はこれでいいんだ、この道で生きていこう」って素直に思えました。

 

ラブレターを送って、研修に参加。
植物オタクの知識が、花ひらく。

—3年間リトルカレッジで学ばれた後は、どうされたんですか?

「The Inchbald School of Garden Design」(以後、インチボルド)といって、イギリスでも一番の老舗といわれているガーデンデザインの学校がロンドンにあったんです。そこを卒業すれば、もう食べるのに困らないっていわれているくらい、スパルタな学校でして(笑)。最後に、そこで1年学びました。

— さらにもう1年学んだ理由って何ですか?

この仕事で生きていけるようにならないと、日本には帰れない。いい加減、自立もしないといけないし、みっちり経験を積んでから帰らなきゃっていう強い想いからです。大人の留学なので。あえて、レベルの高い学校を選びました。

— 入学するの、難しそうですね…。

どうでしょう?私の場合は、リトルカレッジで描いた図面を持って行ったら「いいよ」って(笑)。それからは、実際の仕事現場と同じ環境で学びました。お客様のもとへ行ってヒアリングして、設計して、お客様にプレゼンして、フィードバックをいただいて、再度プレゼンして、あわよくば購入いただいて。プロと同じ目線で学ぶことができました。

— その中で印象的な学びって何ですか?

まずは、コンセプトを大事にするということ。インチボルドでは、デザインの手法は教えてくれるけど、ゴールは教えてくれません。その人に合った手法で、その人ならではのデザインが求められる。この姿勢は、今回出場が決まった「チェルシーフラワーショー」にも生きていると思います。それと、アダム・フロストさんとの出会いが大きかったです。

— 具体的に聞かせてもらえますか?

アダムさんは、チェルシーフラワーショーにも出展されている有名なガーデンデザイナーです。アダムさんのもとでも学びたくて、ラブレターみたいな手紙をアダムさんに送って交渉しました。そしたら「来てもいいよ〜!」って。


アダム・フロストさんとのツーショット

— どんどん行動力が増していますね!

それで、学校の長期休暇の度に、事務所に通って研修させてもらっていました。

— 手紙を送るなんて、それこそ怖くないですか?

いやもう、ドキドキ!でもやってみようって。そしてアダムさんの事務所へ行った初回から、植栽設計をやってみろと言われて、一所懸命にやったんです。そしたら、「ミキは植物のフィールが分かるんだね」って褒められて。その言葉は、私の宝物です。

— すごいですね。植物のフィールが分かるって、自覚はありましたか?

うーん。もしかしたら、はじめに植物の特性や生態を学んでいたから、園芸学の知識が生きたのかもしれません。

— 植物事典を見るのが好きだとお話されてましたけど、そういうところでも自然とインプットされていたのかもしれないですよね。

そうですね。「この植物の隣には、この子が生えているのか」「この子がいるってことは、この土地は乾燥しているんだ」とか。昔から植物は好きだったから、萌えますね。学んでいるというより、遊び感覚。そうしているうちに、知識が積み上がっていく感じです。

 

イギリスで、ガーデンデザイナーとして働く。
夢が叶ったと思いきや、無念の強制帰国。

インチボルドの卒業が迫ってきた頃、なんとアダムさんから「ミキは頑張っているから、研修や仕事をしながら、もう少しイギリスにいないかい?」とお声をいただいたんです。もう、本当に嬉しくて。「私、ここで働く。夢が叶った!」と思いました。でも、ここで私は日本へ帰国したんです。

— え!?どうして!?

その年、イギリスの政治的な事情で、ビザを取得できなくなってしまったんですね。イギリスに、ガーデンデザイナーとして在留できなくなってしまいました。

— それは無念ですね…

弁護士へ相談に行ったら、「彼氏さんはいますか?」と言われて。私、仕事ばかりしていたから、恋愛に興味が向いていなかったんです。街なかのパプで飲み仲間を増やすとかではなく、森の中で過ごしちゃった。もう、ガーーーンって感じですよね。それで帰国しなくちゃいけなくなって、泣きながらスーツケースを引きずって日本に帰りました。空港までの道も涙で覚えてないくらい、ショックでした。

— それは悔しい想いをされましたね…。

知り合いから偽装結婚をすすめられて、ちょっとだけ気持ちがゆれました。でもやっぱり、乙女な心が「偽装結婚は嫌だ」って。法学部で培った正義が許さなかったんですよね(笑)。

 

「まさか自分が、地元で働くなんて思ってもみなかった。」幕別町でガーデンデザイナーとして活動し、独立へ。

— 帰国されから、どのような活動をされたんですか?

まずは就活を始めました。するとちょうど、ランドスケープ・アーキテクチャーの会社で研修生を募集していたから、「研修させてください」って言ってみたら、OKをいただきました。するとなんと初仕事が、旭川市から依頼された公共工事だったんです。まだ卒業ホヤホヤなのに、初仕事がビッグプロジェクトって、すごく怖かったです。

— 研修生とはいえ、すぐに声をかけた行動力が素晴らしいです。その後は?

研修が終わってから、また就活を始めました。すると、幕別町にある「十勝ヒルズ」で、ガーデンデザイナーを募集しているという話を教えていただいて。オーナーにお会いして、働くことになりました。

— 幕別町って、佐藤さんの地元ですよね?

そうです。10年ぶりに地元に帰って、まさか地元で働くことになるなんて、私も親も想定外でした。それからは3年間、所内のガーデンデザイナーとしてお庭を手がけていました。





佐藤さんが手がけた「十勝ヒルズ」のガーデン

残念ながら取材時は一面の雪景色でした

— 今は独立して、個人で活動されていますよね。

はい、今は独立して4年目になります。未だにそわそわしてますよ(笑)。でも、この仕事で生きていくという想いはブレません。それに、まだまだ学びも多くて。植物の世界はとても奥深くて、「あなたこの場所でも育つのね!この環境ならいけるんだねえ」と、オタクをさらに極めているところです(笑)。

— 素敵です。お仕事で、どんな時にやりがいを感じられますか?

お庭を見てくださった方が、「癒やされたな、笑顔になれたな、楽しかったな」って思ってもらえたら、私もつくって良かったと思います。心地いい空間になるように、植物の選定や配置など、実は見えないところで計算をしてつくっているんですけれど、私の描いていたストーリーが形となって、お客様にも喜んでいただける。かつて、私がランドアートを見て救われた時のしあわせな気持ちを、人にお渡ししている感覚です。


デザインスケッチを描いて、具体的なイメージをふくらませていく。

 

憧れのチェルシーフラワーショーへ。
自分のアイデンティティを生かした『漢方の庭』。

— さらに佐藤さんは、「チェルシーフラワーショー2019」への出場が決定されていますよね。おめでとうございます!イギリスで開催される世界最大のフラワーショーと聞きましたが、ご出場されるなんて本当にすごいです。

ありがとうございます。これは私個人の活動ではなく、ランドスケープデザインを手がける柏倉さんとの共同制作です。

— 一緒に出場されたきっかけは何ですか?

柏倉さんとは、以前からお仕事をご一緒させていただくことがあって。2年前くらいから、いつかチェルシーに出たいね!って話をしていたんです。そうしたら、2018年の夏頃に、「未季さん、今年出しましょう」って、くしゃくしゃのスケッチを手に、柏倉さんが声をかけてくださったんです。そこから生まれたのが、『漢方の庭』。

— なぜ漢方なんですか?

私と柏倉さんのアイデンティティを表現したいなと思って。このアイデンティティを大切にする考え方は、インチボルドで学びました。私たちの共通点や想いを形にした時に、「漢方」という答えにたどりついたんです。それからは仕事を終えてから、柏倉さんの事務所で夜通しデザインを練っていって、締切の数時間前になんとか完成しました。

— 本気じゃないとできないですよね。

ほんと、合宿みたいでしたよ(笑)。第一審査に合格することができたんですが、その倍率もとても高くって。私がダメだった司法試験よりも難しいものでしたが、なんとかパスできました。

 

前代未聞のスポンサー数を記録!
300を超える人たちに支えられながら、またもう一度、イギリスの舞台へ。

一次審査に合格したのはいいものの、大きな壁にぶつかったんです。それが、最終審査に進むには、10日間で1,700〜2,000万円の資金調達をしなさいというもので。

— 10日間で!?それは実現できたんですか?

その間に震災(2018年9月6日の北海道胆振東部地震)に遭ったこともあり、期間中に満額を達成できなかったんですが、なんとか出資してくださるスポンサーを集めることができて、最終審査に進むことができました。

— それが、フラワーショーへの出展ということですね。スポンサーはどうやって集められたんですか?

大企業に依頼をして、スポンサーになっていただくケースが大半なのですが、私たちは資金を集められるほどの知名度も、海外での実績もなかったので、スポンサーになっていただけそうな企業さんへ地道に足を運びました。

— まるで飛び込み営業ですね。

はい。私は営業経験もなかったので、慣れないスーツとヒールを履いて、ひたすら探し回っていました。でも、なかなか上手くいかなくて。そんな時に助けてくださったのが、阪大卒の先輩だったんです。

— ここで、阪大でのつながりが生きてくるんですね!

その方は行政書士をされているんですが、「未季ちゃん、お金集めてるの?知り合いに電話してみるわ」って、弁護士やIT企業の社長さんなどをご紹介いただいて。それから、銀行へ融資の相談に行った時には、融資は受けられなかったけど、担当部長さんが応援してくれて一緒に企業さんを回ってくれたり。またまた阪大卒の記者の方が記事を書いてくださったり、アカペラサークルの後輩が支援してくれたり。

— 人が人を呼んでくれている。つながりがどんどん広がっていますね。

そうなんです。SNSで告知文を発信したら、20年くらい会っていなかった友人から「未季ちゃん久しぶり!何してるの!?」ってメッセージが着て支援してくれたり、小学校の幼馴染がいきなり電話をしてきて、「新聞を見たよ、応援するから!」って言ってくれたり。グラフィックデザイナーの方からは、「パンフレットをつくります」って、お金だけじゃないサポートもしてくださって。あちこちからお問い合わせをいただいて、どんどんスポンサーになってくださる方が集まってきたんです。

SNSでの告知文はこちら

— 鳥肌が立つエピソードですね。

ほんと、奇跡ですよね。最終日は、柏倉さんの事務所のFAXがつながらないくらい、たくさんの方から支援のご連絡をいただいて。結果、300人以上ものスポンサーの皆さんからサインをいただくことができ、その金額は1,400万円に達しました。まだ満額には達していないけど、本部には「今もどんどんスポンサーが集まってきているから、随時更新していきます。お願いします。」という英文を送りました。そしたら、「最終審査に載せました」というお返事をいただいたんです!

— 本当におめでとうございます。300人ものスポンサーを集めるって、楽な道のりではなかったと思います。

本部からも、300人以上もスポンサーが集まるなんて前代未聞だと聞きました。「嘘でしょ!?日本人って、優しいしすごい。世界的にも注目されているし、こんな愛にあふれた話はない!」って。

— ではいよいよ、現地での最終審査ですね。

はい。今は、引き続きスポンサーを募りながら、庭をつくるための現地視察や、苗の調達をしているところです。漢方の苗は入手しづらく、苦戦していたのですが、イギリスにいた時にお世話になった日本人の先輩とその周りの方々にも、たくさんサポートしていただきました。ハーブ界でとても有名な方が、「この苗はうちで作る!」って言ってくださったり。



現地での準備視察のようす

— みなさんの支えがあってこその、チェルシーフラワ―ショーなんですね。目標は何ですか?

金賞です。できれば、カテゴリでも最優秀の「ベストインショー」。

 

これまでやってきたことは、すべて無駄じゃなかった。阪大で学んだこと、阪大で出会った人が、今につながっている。

— お話を聞いていると、北海道出身だということ、そして阪大で学んだこと、弁護士を目指していたこと、イギリス留学、すべてが今につながっているように思いました。

そうですね、司法試験ダメかもって思った時に、次の目標を見つけるのを諦めていたら、きっと今の私はないと思います。そもそも、阪大に行っていなかったら、スポンサーを紹介してくれた友人にも会えていなかったし、資金も集まっていなかったかもしれません。

— 本当に、ご縁ですよね。

7年も司法試験に費やすなら、建築のほうへシフトしておけば良かった、もっと早く学部転換してたほうが良かったんじゃないかって、もやもやすることもあったんですけど。今ふり返ると、すべて無駄じゃなかった。大阪大学へ行って、いろんな人に会って、いろんな勉強をして、とことん司法試験と向き合って。ぜんぶ、本当に良かったなって、全肯定できます。

— まわり道だと思っていた道も、実はそうではなかったのかもしれないですよね。

今ふり返ると、そうですね。

— では最後に、学生に向けてメッセージをお願いできますか。

自分が20歳くらいに戻ったとして、言われて嬉しかった言葉…なんだろう。「恥ずかしがらずに、いろんなことにトライしてみてほしい」っていうことですね。自分の才能がどこで咲くかも分からないし、怖がっていても扉は開かないから。

— 挑戦を重ねてきた佐藤さんだからこそ言える、説得力のある言葉ですね。

実際やってみても、「あんまり好きじゃないな、楽しくないな、向いてないのかな」って気持ちがゆらぐこともあるかもしれないけど、自分が納得するまで試してみたらいいと思います。特に学生って、時間がたっぷりあるから、失敗してもリカバリーしやすいと思うんです。アルバイトでも、絵を描くことでも、なんでも、いっぱいトライしてみたらいいんじゃないでしょうか。

— ありがとうございます。チェルシーフラワーショー、応援しています!




佐藤さんが植栽設計を手がけた「旭川北彩都ガーデン」にて

 

前編はこちら

◆◆◆ 後日談:速報 ◆◆◆
チェルシーフラワーショー2019で、佐藤さんと柏倉さんがデザインされた「漢方の庭」が、見事【金賞】(SPACE TO GROW部門)を受賞されました!
すばらしいお庭の完成、本当におめでとうございます!

 

(本記事の内容は、2019年3月 マイハンダイアプリ内マガジン『まちかねっ!』に、特集 mappa! Vol.06 として掲載されたものです)

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