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阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

植物由来で耐衝撃性に優れた機能性素材を 阪大と『協働』で研究開発

トチュウエラストマーという新素材

Hitz(バイオ)協働研究所は、大阪大学の産学連携拠点であるテクノアライアンス棟(吹田キャンパス)内に設立。8、9階に400平方㍍を超えるスペースを持つ。

主な研究テーマは、「トチュウエラストマー」という、超高分子量ポリイソプレン(天然ゴムの仲間で硬質のゴム素材)を主成分とする機能性素材。「トチュウエラストマーはトチュウという植物が生成する天然ポリマー。ゴムでも樹脂でもない性質を持っています。天然ゴムより耐衝撃性に優れていて、副材として樹脂などと混合することで強度が向上します。植物性バイオマスですので、環境にも優しい。天然ゴムのようなアレルギーも起こらず、抗菌性も発揮します」と、同研究所の中澤慶久所長(大阪大学特任教授)は言う。

日立造船の新規事業

実は「トチュウ」とは、健康茶で知られる茶などの原料としても利用されている落葉高木。日立造船が1987年にバイオ事業部を設立して杜仲茶の製造・販売を行い、94年に杜仲茶ブームを巻き起こしたという経緯がある。

このトチュウエラストマーを、石油資源に替わる植物由来の新たなバイオマス資源として利用しようと、98年に日立造船と大阪大学が研究開発をスタート。バイオテクノロジーや代謝物解析など、トチュウを主材料とした研究が行われ、10年に「Hitzバイオマス開発共同研究講座」を工学研究科に設置。その後、より多面的な産学協働を行うため、「Hitz(バイオ)協働研究所」を開所。大阪大学内に拠点を完全移行したことで、産学連携がさらに順調に進み、研究開発の内容が高度化してきた。

トチュウ一筋の人生

資源植物学を専門とする中澤所長は、かつて日立造船で杜仲茶事業を立ち上げたメンバーの一人。「入社以降、約30年、杜仲茶の商品開発から販売、トチュウエラストマーの研究開発までトチュウ一筋の人生です」。Hitz(バイオ)協働研究所には、大阪大学の教員のほか、日立造船からの招へい教員・研究員、ポスドク・大学院生など多様な人材が集結し、幅広く重層的な活動を展開している。「営業担当の齋藤浩招へい研究員が、全国の展示会などを駆け回り、トチュウエラストマーや阪大との産学連携などに関するPR活動をしています」と話す。

大阪大学を拠点に 新しい産業の創出をめざして

基礎研究から応用研究にいたるまでを阪大で

Hitz(バイオ)協働研究所として再発足して3年目。「約10年前から取り組んでいる基礎部分では、トチュウが高分子量ポリマーを作るメカニズムや遺伝子などが分析できました。また、バイオマスを扱うために重要な、植物の特性や栽培方法などの基礎的データが得られました。協働研究所として取り組んでいる応用部分では、トチュウエラストマーを各種ポリマーや金属など他の物質と混ぜ合わせる実験を繰り返し、従来のバイオ系素材の弱点だった強度を補完できることが分かりました。トチュウエラストマーはバイオ系で耐衝撃性を出せる唯一の素材。認知度を上げ、さまざまな産業への応用をめざしたいと考えています」

阪大内でもトチュウを栽培

現在の課題はトチュウエラストマーの量産と安定供給だという。「研究開発と異なり、事業化にはトン単位のオーダーが必要になります。また他国(中国)に農園を持ち栽培していくことの難しさもあり、基礎研究担当の鈴木伸昭招へい准教授が、遊休地などを活用した国内栽培を模索中です」。すでに薬学研究科附属薬用植物園(吹田キャンパス)で品種改良も行われ、8000本ほどのトチュウが栽培・準備されているという。

新たな「産・産・学連携」も誕生

同研究所の大きな特徴は、大学内にありつつも企業側が研究開発のイニシアチブを取れること。さらに、新たな動きとして、産学連携にとどまらない「産・産・学連携」の研究開発システムが生まれつつある。「テクノアライアンス棟には他にもさまざまな企業の研究組織が移設され、『産・産』のプロジェクトが始まっています。トチュウエラストマーに関しても、阪大を拠点として、他社と一緒にモノづくりにまで携わっていきたい」と中澤所長。

阪大の新しい産学連携のかたち

Hitz(バイオ)協働研究所の歴史は、大阪大学の産学連携の歴史そのものであり、代表的な成功事例の一つといえる。中澤所長は「阪大が窓口となることで、トチュウエラストマーというイノベーションの芽に、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などの公的資金が注入され、日立造船の経営に多くの負担をかけず、中長期的視点で開発を続けてこられました。大阪の気質をもち、産学連携を発展させようとする意志が高い阪大だからこそできること。トチュウエラストマー研究は、阪大とのタッグでしかなし得なかったことだと思っています」

また、人材育成にも力を入れており、キャリアデザインなどの授業も担当する。「ここで研究する学生全員が日立造船に来るわけではないのですが、他社に行っても連携できるというのが大きいですね。学生には、『あきらめない』人になってほしいです。10年に1回物事を成し遂げられればよいのです」

アカデミックと産業界の融合を

今後のさらなる目標は多様な素材の開発。「医学部・歯学部などと、生体系の素材開発の研究を進め、医・歯・工連携といったプロジェクトに取り組みたい」と意欲満々。「企業が中央研究所のような組織を持ち研究開発をする時代は終わり、これからは大学というアカデミックな組織と融合し、そこから産業界と連合していくシステムが重要。そのためのチャレンジをHitz(バイオ)協働研究所で行っています。試行錯誤しながら、ぜひ成功させたいですね」

(本記事の内容は、2015年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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