StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

藤野陽生助教が将来を模索し始めたのは「人間とは何か」を真剣に考えていた高校生の頃。周囲の人の精神的に辛い状況を目の当たりにし、「自分も何か役に立てないか」と心理学を志し、大阪大学人間科学部へ。臨床心理士を目指す者が多い中、「どういうことなのか」を追求することに楽しさを感じ、研究者の道へ進んだ。

奨励賞受賞につながったのは、統合失調症患者の認知機能に関する研究。「統合失調症の幻覚・妄想などの症状は薬物療法の進歩で改善が見込めるようになったが、その先にある社会復帰は難しい。このギャップを何とかしなければ」との思いから、統合失調症患者の認知機能の指標を探ろうと、患者と健常者、計数百名を対象にした大規模調査を実施。調査の結果、「臨床現場で経験的に知られていたことが科学的に裏打ちできた」という。この成果を活かして、「薬物療法のみでなく、スキルトレーニングやアセスメントなどの支援体制の充実を図っていきたい」と語る。

多忙な研究生活を送る藤野助教の趣味はフルート演奏。高校時代の吹奏楽部ではテナーサックス担当だったが、柔らかな音色に魅かれ、大学入学後にアルバイトをして念願のフルートを手に入れた。「楽器演奏は気分転換になる。調和が大切な吹奏楽での経験は、カウンセリングでの患者さんやご家族に心を配るイメージと重なるところがある」と語る。

また、心に困難を抱える人や不登校・発達障害の児童らのために、心理教育相談室で、箱庭を用いた表現療法やカウンセリングなどの心のケアを実践している。

「心理的に支えていくことを通じて、少しでも患者さんの生活の質を向上させたい」静かに語る藤野助教の思いは熱い。

●藤野陽生(ふじの はるお)

2009年大阪大学人間科学部卒業。同人間科学研究科人間科学専攻博士課程を経て、13年同臨床心理学講座助教。専門は臨床心理学。統合失調症患者における認知機能障害の研究を中心として多様な研究を行っている。

(本記事の内容は、2015年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

share !