■ 定着した人気
「実は大阪大学のどの学部の入試より、受講者選抜の競争率は高いかもしれません」と語るのは、福田教授。【S】のファーストステップ「体感コース」には定員130人に対して例年700人近い応募がある。【め】はホップ・ステップ・ジャンプの3段階コース全てで選抜が行われる。コースを上がるごとに、小中学生がサイエンスの“精鋭”集団のようになっていく。現在、3コース合わせて約90人が在籍中だ。【F】も、参加費や宿泊費などは自己負担ながら、応募高校は増え、広がりをみせる。大槻教授が「今年3月の『待兼山会議』は参加校の4割が近畿圏外で」と語ると、【S】を運営する福田教授が「それは素晴らしい」と驚いた。
■ アカデミアの「真剣さ」が、未来への投資
小中高生向けプログラムの魅力はどこにあるのだろうか。
【S】は大学で濃密な学びと研究の時間を過ごすことが、高校生のその後の興味や進路選択に確かな影響を与えている。修了後に提出される感想には「参加は私の人生の転機になりました」などと書く受講生も少なくないという。福田教授は「高校生のやる気を満たすプログラムができている」と自信を示す。
科学が好きな子ばかりの環境だという【め】。過去の受講生に、大学生レベルの科学の知識があるものの、学校では周囲になじめないという中学生がいた。実験の時、初めは室外で見ているだけだったが、室内がにぎやかになってくると中に入り、次回からは普通に教室内で仲間と話せるようになった。「多様でありながらも同じ興味を持つメンバーに会えて、その子の居場所になれたのかなと思います」と吉田特任助教は振り返る。
【F】で高校生に向き合うのは、国際公共政策などを専門とする大学教員たち。「高校生は、世界の環境から身近な話まで社会問題を自分のものと捉え、どうにか解決したいという熱い思いを持っている」と大槻教授。高校生一人ひとりの知恵と学びが結実する最終日、「文系ができることはたくさんあると毎年気づかされます」。
高校までの学校生活では馴染みの薄い、大学のアカデミックな真剣さ。これに直接触れることで、小中高校生も真剣になる。これが大阪大学の「高大接続」で起こっていることだ。
「高校生が大阪大学を好きになり、入学してくれる学生が増えればうれしいが、それ自体が目的ではない」と福田教授は言う。「高校生のうちからモチベーションを持ってもらうと、大学院への進学率も高くなる。プログラムを通じて社会全体、未来に対して投資していると考えています」。
吉田特任助教も「大学進学者や科学に興味を持つ子の数を増やすための投資と思っています」と口をそろえる。「10歳の頃には科学者になりたいとの意思に差が出始め、実際に科学系の進路を選択するには、自身や社会と科学との接点を理解できるよう、継続的に働きかける必要があることを示唆する英国の調査があります。若者が本気で研究者を目指す、大きな効果があると信じています」。
【S】や【F】の初期に参加していた高校生は、現在20代半ば。実際、福田教授によると、報告のあった学生だけでも「博士課程への進学率は、全国平均の約10倍にもなっている」。阪大から海外大学院へ飛び出し「宇宙ニュートリノの起源を説明する新理論」の論文をまとめた修了生もいる。
■ プログラムを続ける価値
もう一つの共通点は、「どのプログラムも人材の循環ができている」(福田教授)ことだ。それぞれの受講者や発表者が大学生になり、今度はアシスタントなどの運営側として活動を支えているのも共通している。【F】は、運営のほとんどを担う学生団体Flagshipに、多くの【F】経験者が加わっている。高校生に寄り添いつつ研究や発表への助言ができる、頼もしい阪大生だ。「学生たちが自ら高校へ出前授業に出かけ、スポンサー探しをして11年間活動を続けてきた結果、知名度も上がりました。教員としてサポートをしっかり続けていきたい」と大槻教授は力を込めた。
時代に合わせ、持続可能な形で活動を継続するため、模索は続く。【S】は今年度から、自ら考え、課題を設定し、解決法を探せる高校生を育てるべく「チャレンジコース」を新たに設けた。【め】も、単発や1、2週間の短期で受講できる有料の新プログラム導入を検討している。吉田特任助教の「新たな講座の担当などを学内の先生にお願いに行くと、ご快諾いただけることがとても多くて。大阪大学のそんな下地に、すごく助かっています」という意見に、全員が頷いた。学生・教員・職員が支え合いながら、次の次の世代の「研究の芽」と向き合い続けることに、大きな意味がある。
■ SEEDSプログラム
2015年にJST(科学技術振興機構)の支援を受けスタートした。ファーストステップの「体感コース」は高校生約130人が対象で、毎年約半年間の開講。受講者は「芸術を通して脳科学を学ぶ」「ロボットを操る」など大阪大学ならではの多分野の数十のテーマから2つの研究体験をしたり、9回にわたる各界最先端の専門家の講義を聴いて仲間と議論したり、また、留学生と英語で交流したりもする。幅広い学問を体感し、視野を広げるのが目的だ。セカンドステップの「実感コース」に進んだ高校生約20人は、理系研究室に配属され、「厚さ数原子の新奇物質の特異な性質を解明しよう」などの本格的なテーマに基づく自主研究に取り組んで、約半年後に成果を発表する。
■ めばえ適塾
2018年、小中学生を対象にしたJSTの支援プログラムとして始まり、24年からは中谷財団の助成金を受ける。プログラムは3段階。最初に、放射線の可視化や電気パン作りなどの実験を行う「サイエンス教室」と科学を学ぶ上で不可欠の「統計教室」を「ホップコース」で受ける。続く「ステップコース」では、主に中学生が実験計画立案からデータ分析、発表までの技術を学ぶ。修了者のうち研究室で実施したい研究計画を立案でき、許可された受講生は「ジャンプコース」に進み、マッチングした研究室で実際に自身の研究を深める。
■ 学生団体Flagship運営の「FGLC」「待兼山会議」
「文系高校生の学習成果を発表する場が少ない」と高校から相談された国際公共政策研究科 松繁寿和教授(当時)が2015年、研究科主催で始めた2つの高大接続イベント。毎年夏の「フューチャーグローバルリーダーズキャンプ(FGLC)」では、個人応募の高校生がグループ別に国際課題研究を行い、独自テーマ(例:水上生活者の身近な水環境に対する衛生面の改善)を3日間でまとめ上げる。春休みに2日間開催されるのが「待兼山会議」。高校16チームが自校での探究学習の成果を発表し、学び合う。いずれも大学教員の審査により、最優秀賞等が決まる。運営を担うFlagshipは当初の松繁ゼミ生有志団体から24年に公認課外活動団体となり、現在は法学部などの学生25人が所属。
(本記事の内容は2026年10月7日発行の 大阪大学NewsLetter 95号 に掲載されたものです。)