StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。


「大阪大学の学生たちは、この半年間で千載一遇の国際交流の機会に巡り合っています」と竹村景子理事・副学長は話す。開催中の大阪・関西万博には、各国の元首クラスが次々と来阪しており、中にはゆかりの言語の専攻がある外国語学部を表敬訪問する要人も。万博会場でのナショナルデー等のセレモニーでは、学生たちが磨き上げた語学力で歓迎のスピーチを行う機会もあり、各国の要人や現地ネイティブと直接話せる貴重な「教室」となっている。

背景には、外国語学部を持つ唯一の国立総合大学という阪大の独自性への高い評価がある。竹村理事は「排外的な空気が広がるこの社会で、言語や文化が違っても、お互いを理解しようとする意思さえあれば、ちゃんと心を通わせることができると学生たちは体感してくれたでしょう」と期待を寄せる。世界中の「地域」との交流によって繰り広げられる、豊かな実践的国際教育の模様の一部を紹介する。


ブルガリア・ナショナルデー 5/18@大阪・関西万博 ブルガリアパビリオン前など

来阪した大統領や駐日大使を前に、外国語学部の4人と外国学専攻の大学院生1人がブルガリア語で3分間のスピーチを披露。「学生の真摯な勉強の成果に、ブルガリアの方々が感銘を受けたと聞いています。国旗をフェイスペイントした学生さんもいましたね。ふふふ」(竹村理事)



モザンビーク・ナショナルデー 6/16@大阪・関西万博 ナショナルデーホール「レイガーデン」

式典にはポルトガル語専攻の学部生38人が招待された。「地道な語学の勉強に悩んでいたけれど、現地の方たちと会話できて愛情を再確認した学生もいました」(竹村理事)。5/31には、箕面キャンパスで「ポルトガル語圏アフリカ諸国独立50周年」イベントも。「関係5カ国を紹介する学生スピーチが素晴らしかったと、来賓の大使も感心していました。



タンザニア・ナショナルデー 5/25@大阪・関西万博 ナショナルデーホール「レイガーデン」

式典では「タアラブ」という東アフリカ沿岸のスワヒリ文化圏で親しまれている音楽が披露された。竹村理事は「現地では観客が踊りながら歌手に〝おひねり〟を渡すけど、まさか……と思ったら、お札が飛び交い始めて(笑)。私は一応、行きませんでした」。招待されたスワヒリ語専攻の学生たちは授業外で初めてネイティブと会話し喜びをかみしめた。



世界スワヒリ語デー記念イベント 7/7@大阪・関西万博 フェスティバル・ステーション

この日はユネスコが制定した「世界スワヒリ語の日」。2年生22名と大学院生2名が「Ngonjera」という、スワヒリ語の伝統的な四連詩を朗唱。「練習はハラハラしましたが、本番では会場一体で盛り上がった」(竹村理事)。この日は、ザンジバル国立大学と阪大の文系部局間での学術交流協定調印式も行われた。



ハンガリー大統領が箕面キャンパス来訪 5/23@大阪外国語大学記念ホール

日本で唯一のハンガリー語専攻を持つ阪大。タマーシュ大統領はハンガリーの歴史や言語、文化への誇りを、情熱を込めて挨拶した。専攻の学生は、合唱、プレゼン、留学をふまえたスピーチなど、1年生から4年生まで趣向を凝らして歓迎。「大統領は学生の向学心に感激されて、最後は沢山の記念撮影に応じていただくなど、充実した交流ができました」と竹村理事。




ブルガリアとの交流 阪大が知的発信地  語学開講から6年 学生の好奇心と発案 無限に        

大阪大学がいま、ブルガリアとの教育・交流の発信地となっている。6年前の<ブルガリア語>開講に始まり、<古代教会スラブ語><バルカン学>の寄附授業が次々と誕生。国内の大学で唯一というトリアーデ(3本柱)を受け持つのがブルガリア出身のブラジミロブ・イヴォ氏だ。教室から生まれる小さな風は、キャンパスも国境も越え、知的好奇心の無限のうねりを生んでいる。人文学研究科の藤原克美教授とブラジミロブのお二人に、学生たちの情熱的な取り組みについて聞いた。


まずは万博での学生の様子から。5月のナショナルデー(上掲)に、会場の外で現地テレビ局の直撃取材を受けた学生たち。アドリブで「古代から現代まであらゆる時代のブルガリア語に興味があります」や「ソフィア国立図書館で本を読みたい」と流ちょうに答えていたという。

 「子どもの頃に読んだ夏目漱石や壺井栄のブルガリア語訳の記憶から日本に興味を抱きました」と話すブラジミロブ氏は、阪大の文学研究科で修士号を取得。阪大と交流協定のある名門ソフィア大の専任講師で、ブルガリア語やブルガリア文化を広めるために派遣されている。<ブルガリア語>の授業は研究外国語として2019年度からスタート。受講者はロシア語専攻が多いが、他言語の学生の関心も高いという。<古代教会スラブ語>の寄附授業は23年度から。藤原教授は「キリル文字の起源は古代のブルガリア地域にあります。古代教会スラブ語はロシア語学習者にとっても大事な講義です」と話す。国内では阪大にしかない<バルカン学>は23年度に始まり、毎年100人ほどが履修する。現地のソフィア大の専門家が英語によりオンラインで講義し、ブラジミロブ氏をコーディネーター役に、半島の多様な歴史、文化、言語、宗教、複雑な地政学などを公平な視点で学ぶ。3講座はいずれもブルガリア教育科学省、ブルガリア科学アカデミー、ソフィア大学の寄付も活用しながら運営されているのが特徴だ。

 阪大生の熱意から誕生したイベントが「ブルガリア語弁論大会」だ。23年から大使館主催で始まり昨年で2回目。会場は「本場」の阪大外国語学部だ。昨年は参加14人中10人がブラジミロブ氏の教え子(京大生や神戸市外大生を含む)。「ソフィアでの夢の一日」をテーマに「大使特別賞」を受賞した外国語学部の3年生は、今秋からの現地留学で夢を実現させる。

さらに、学生たち自らの動きにより、外国語学部伝統の「語劇祭」で初めて「ブルガリア語劇」の上演が決まったという。藤原教授は「阪大にとって空白地帯だったバルカン諸国の言語の学びから、学生たちの多様な挑戦が生まれています」。ブラジミロブ氏は「すべて私にとっては教育と交流のプロジェクトです。国民がお互いに興味を持って両国の関係がもっと近くなるとうれしいですね」と学生たちに期待を寄せている。


(本記事の内容は2025年10月発行の 大阪大学NewsLetter 93号 に掲載されたものです。)

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