StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

人材育成を巡る学校と社会の「分断」を埋めたい

労働経済学や人的資源管理論を研究し、教育学の分野にも造詣が深い松繁教授は、人材の育成を巡って学校と社会の間で断絶があると指摘する。「教育学は社会に出てから教育がどう役に立っているか、社会で実際どんな人材育成をしているか、あまり気にしていない。一方で労働経済学や人的資源管理論の側も学校で何が勉強されているか、キャリアにどう生かされているかもあまり考えてこなかった。人は連続して成長し続けていくものなのに、なぜ断絶があるのか」。何とか分断を埋めるべきではないかという強い意識がきっかけになった。

社会人とのギャップを埋める 企業の人事担当者とつくりあげる教養科目

企業人事部のノウハウを大学のカリキュラムに移植

松繁教授は実際に企業を訪ねインターンシップや新人研修の現場を調べた。「多くの企業は『どんな学生が来てもウチで鍛える』と、自信を持っている。新人研修やインターンシップは大学のカリキュラムに全く引けを取らず、資料やフィードバックまでしっかりできている。現場で『企業の人材育成のノウハウを大学に持ち込みたい。企業にも大学が何をやって人材を育てようとしているか分かってほしい』と思い立ち、人事担当者に『一緒にやりませんか』と声をかけた」と語る。

柿澤准教授は松繁研究室を経て複数のコンサルティングファームに計10年以上勤務し、人事分野も含め様々な実務経験を持つ。「文系の大学教育と社会が求めるスキルの間で乖離、ギャップがあると私自身感じていた。しかし、通底するものはあるはず。そのギャップを少しでも在学中に埋めることができれば、社会人としてよりスムーズなスタートを切れるのではないか。企業のスタッフと協働する課題解決はそのための非常に良い経験になると、松繁先生と一緒に考えた」。

社会人とのギャップを埋める 企業の人事担当者とつくりあげる教養科目

学生に「働く社会人に接する」貴重な機会を

プログラムはグループワーク中心で4授業各20人程度。4社の20〜30代主体の人事部関連部署スタッフも指導に参加する。テーマは、「未来の『はたらく』を考える」、「SDGs事業と自らのキャリア形成」、「社会に提供できる安心・安全・健康のサービスを創造しよう」、「最先端技術を用いた未来の街づくり」。

初めて顔合わせした学生同士で一定の期日までに課題解決の考察をまとめ、企業の上席スタッフや関係する自治体関係者等が同席する場でプレゼンテーションを行い、不十分な点の指摘を受けたうえで改善し、最後に再度審査を受けるという形で進められる。「社会で人材育成をしている人の知恵を借りる。学生にとってはプレゼンなど実践で『普段の勉強の知識が役立つ』『まだ不十分』と大学教育課程の早い段階で確認ができ、専門を勉強するモチベーションにもなる」と松繁教授は語る。

授業では、各企業スタッフが個々のキャリアを歩む中での実体験を、学生たちに紹介する時間もある。人事異動や転勤、転職、成果を上げた仕事や課題解決への取り組みを含む失敗や成功の経験等、初めて聞く社会人の話に学生は「会社で働くって面白い」と目を輝かせる。

一般的に、学生にとっては普段の大学生活だけでは「社会人とは何か」、「働くということとは何か」をイメージしにくい。企業とともに進める産学を「縫接」する授業を受講することで社会人の実像に触れるだけでなく、物事を整理する、交渉する、限られた時間内で結論を出す、協力する等など社会人としての基礎能力を養うことを目指している。

受講生アンケートでは「とても面白い」や「実践で生かせる専門分野の価値を再発見できた」等、評価は非常に高く、受講リピーターも多い。企業側も「予想以上に潜在能力の高い学生が多く、阪大生は個々の能力が高い」と評価する。

「産学縫接」で企業側にもメリットを

プログラムをより実りあるものにするには、大学側だけでなく、企業にとっても「やってよかった」と思える成果が求められる。松繁教授は「例えばこの授業で学生を指導した企業の若手担当者が近い将来には管理職となり、授業で体験したことを部下の育成に役立てることができれば」と語る。学生たちに対しては、授業で培った課題解決の経験を活かし、「自身の専門知識を実践で活かす場があるということを経験し、そのような視点を持って勉学に取り組んでもらいたい。社会人になるための助走としてこのような授業を受講してもらえればと考えている」と背中を押した。また、「産学が協力して彼らの成長を支える仕組みを作っていきたい」と語った。今回の取り組みのような形で大学と企業の協働を通じて、課題解決能力を身につけた次世代人材を育てうる可能性は大きく広がっている。

社会人とのギャップを埋める 企業の人事担当者とつくりあげる教養科目

2020年度に「大学院等高度副プログラム」を履修したWAN NUR AMIRAH BINTI WAN ROSLI(ワン・ヌル・アミラ・ビンティ・ワン・ロスリ)さん(大学院言語文化研究科博士前期課程1年)

私は日本文学を探究しながら高度副プログラムで専攻以外のジェンダー論、グローバリゼーションも学びました。他の国の人たちの考え方を聞いて、今まで知る機会もなかったことを学び、自由に議論もでき、幅広い視野で物事を考えられるようになりました。自分の研究室以外にも教員との繋がりが増えて、気軽に質問できるようになったことも大きいです。また、たくさんの授業を受講したおかげで上手にタイムマネジメントできるようになったことも副産物ですね。

●全学教育推進機構

全学共通教育の企画開発と実施推進、さらに、教員の授業改善、学生の主体的学びに関する支援を行う組織。

[Web]
https://www.celas.osaka-u.ac.jp/about-us/

(本記事の内容は、2022年2月の大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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