StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

「全教員担当制」で多種多様な授業

すべての阪大生が開く「学問への扉」

標高77・3㍍の待兼山周辺に広がる豊中キャンパス。「学問への扉」は約3400人の学部1年生が必修科目を学ぶことが多い同キャンパスを中心に開講しており、愛称は地名から「マチカネゼミ」だ。入学直後の春~夏学期の授業で、1クラスの基本は17人以下。内容は千差万別だがグループワークがメインのクラスが多い。異分野の学生たちと一緒に関心のある事象を学びながら、レポート作成やプレゼンテーションなど、学生としての基礎的な能力も身につけていく。

特徴的なのが「全教員担当制」を阪大として導入したことだ。「ビブリオバトル入門」(書評)、「わたしたちの暮らしと放射線」(放射線解析)、「缶ジュースを冷たく飲む方法」(熱工学分野)、「脳と心に効く薬」(医療分野)。タイトルを並べるだけで、その多様性は一目瞭然だ。時間割の関係で学部によって受けられる授業は限られるが、それでも約70クラスから選択できる(希望者多数の場合は抽選)。普段は授業を受け持たない組織も授業を担当しており、宇野教授は「大学全体が新入生に『ウエルカム』という姿勢を見せることで阪大というコミュニティの一員になったと実感してもらう」と狙いを語る。

すべての阪大生が開く「学問への扉」

学部混合で「違う視点」を知る

授業によって割合こそまちまちだが、文系と理系の学生が半々のクラスも。そんな学部混合の意義は、多様な意見を交わすことにある。「ポップカルチャーと情報社会」と題しメディア・リテラシーを教えている村上教授は、学生たちの議論を活発にするためSNSでの「炎上」事案や、人工知能に関する話題など、あえて絶対的な正解のないものを扱っている。村上教授は「理系と文系で見え方が全然違うことがある。どちらが正しいということではなく、別の視点があるという気づきがあるだけで、その後の学び方、考え方が大きく変わってくる」と話す。専門性は各学部で自然と身につく。だからこそ、学部1年生の段階で異分野に触れ、主体性や想像力を育てるきっかけを作る。

始まって分かった「メリット」

想定していなかった利点も見えてきた。マチカネゼミは活動重視のため、点数ではなく、成績評価は合否判定。村上教授は「成績評価にとらわれることなく思ったことを言ってくれる学生が多い」と笑顔を見せる。

ある理系の担当教員は「文系の学生は分からないことを『分からない』と質問してくれるのが新鮮だった」と語っている。宇野教授によると「学生は自分の専門分野について『分かっていないと思われたくない』から、質問しないことが多い。その授業で理系の学生はタジタジだったが、文系の学生の質問をきっかけにクラス全体がよく発言するようになったようだ」とのこと。専門外の学生の質問が呼び水となり、クラス全体の理解が深まるのだという。教員も学生から刺激を受けて、よい循環が生まれているのだ。

学問「へ」の扉

阪大の目玉授業になることを目指す「学問への扉」。ネーミングにも特別な思いが込められている。宇野教授は「開けたら学問がありますよ、ではない。学問に至る扉、(学問の)道に進むためのきっかけにしてほしい、という意味を『へ』の一文字に込めた」と振り返る。そう言われると、受動的な学びから主体的な学びへと切り替わっていくベクトルが見えるような気がしてくる。

阪大ならではの特色を持った授業がそろうマチカネゼミ。扉の先には、どんな世界が待ち構えているのだろうか。「阪大生には自分の専門分野だけに閉じてほしくない。人は生涯にわたっていろいろなことを学び続けていくことになる。社会に出てからも『私これ知らんから』と避けるのではなく、専門を超えていろんな視点で物事を見ることができる柔軟な思考をもってほしい。マチカネゼミで学んだことが、いつか何かで活躍できるきっかけになるはずだ」。村上教授は学生たちに向けて、そう呼びかけた。

2020年度に学問への扉を履修した 植田雄士さん(文学部2年)

すべての阪大生が開く「学問への扉」

僕は哲学専攻なのですが、統計にも興味があり理系の「データのみかた」を履修しました。数式の話になるのかなと考えていましたが、ネット上に公開されているなじみのある数字を使って議論ができて、理系の学生と同じ土俵で学べました。関心を持っている「科学哲学」の学習にも生かせそうです。1年生は専攻する分野をいち早く勉強したいという気持ちがあると思いますが、勇気を持って違う分野に踏み出すと視野が広がって面白いですよ。



● 学問への扉(愛称「マチカネゼミ」)

少人数セミナー型の学部1年次必修科目。学部・学科を問わず、250のクラスから自由に選択することができる。

● 全学教育推進機構

全学共通教育の企画開発と実施推進、さらに、教員の授業改善、学生の主体的学びに関する支援を行う組織。

[Web]

https://www.celas.osaka-u.ac.jp/about-us/

(本記事の内容は、2021年9月の大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

          一味違う阪大での学びの物語『学びのStoryZ』に戻る
       阪大研究者、阪大生、卒業生の物語『阪大StoryZ』に戻る

share !