阪大StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

学びは、道を拓く力を授ける。
そんな一味違う阪大での学びの教科書(ストーリー)

「心」のエキスパートの新卒採用へ チームワークの相乗効果を生む即戦力に。
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公認心理師プログラム

人間の心は繊細で複雑だ。そして現代社会は、あらゆる場面で心をむしばむストレスに満ちあふれている。公認心理師法が2017年9月に成立し、心理分野で日本初の国家資格となる「公認心理師」が誕生した。心の病を抱える人のサポートのみならず、その予防までを含む広範な活動が期待される。大阪大学人間科学部・人間科学研究科では、資格がスタートした直後の18年度に「公認心理師プログラム」を開設。学部生・院生が副専攻として、公認心理師試験の受験資格を得るための単位取得と実習が行える。プログラムを担当する平井啓准教授に話を聞いた。

静かに進行する心の不調

 公認心理師の資格を持つ平井准教授は、日頃から阪大病院等で予防に繋がる「営業活動」を続けている。「相談窓口に来る人は心の不調を既に自覚している人。来た段階で深刻な状態ということも多く、治療のタイミングが遅れがちだ」

 普段から病院内を巡回してスタッフと顔見知りになっておく。新任の看護師や研修医ともれなく会話の機会をもち、いざという時の相談のハードルを下げて、不調の兆候が出始めた段階で、いち早く情報をキャッチするための「種まき」をしている。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きた2020年、医療従事者は気の休まらない多忙な日常を過ごした。目の前の任務に集中している間は、心身の疲労や不調には気付きにくい。むしろ状況が一段落した頃から、問題が目に見えるようになる。

 「コロナ患者のための病床が一時空床に近づいた秋ごろ、スタッフのモチベーション維持に関する相談が増えてきた」。その後は再び感染者が増加。「自身の感染リスクへの懸念もあるが、『この状態がいつまで続くのか』という不安が大きくなっているようだ」と平井准教授。

 一方、企業ではテレワークが推奨され、人と人が顔を合わせる機会が激減した。コミュニケーションの観点でも新たなストレスが生じている。例えば、これまでは会話で済んでいたこと、もしくは相手の表情などから自然に読み取れていたものが得にくくなった。正しく伝えようと言語化を丁寧にすればするほど作業量は増える。その積み重ねは、心の問題の火種となりかねない。

心の健康を取り巻く環境が複雑さを増す中で、心理専門職への期待が日々高まっている。

 

現場でのスキルを重視

公認心理師は「保健医療」「教育」「福祉」「司法・犯罪」「産業・労働」の五つの領域をカバーする資格で、平井准教授は「人の心と行動にアプローチできる専門的技術と知識を持った人」と位置付ける。

 「公認心理師試験」に挑戦するには、法が定めた受験資格を満たさねばならない。大学を経由する場合、学部で25科目の履修と実習80時間、大学院で10科目と実習450時間が条件。実習時間を十分取ることで、現場の状況に応じた対応スキルが身に着く。

学部段階から5領域全ての現場に赴き、実務担当者の仕事ぶりを体験する。濃密な実習をこなせるよう、阪大では1学年あたりの定員を学部生で20人、院生で15人に絞った選抜制を採用している。

チームワークの要に

 心理の専門職としては、複数の民間資格が知られる。中でも「臨床心理士」は創設から30年以上が経過し、医療や教育の現場でカウンセラーとして幅広く活躍中だ。こうした中、活動領域が重なる公認心理師が新設されたのはなぜか。

公認心理師法は①心理状態の観察・分析(心理アセスメント)②心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助(心理カウンセリング)③支援の必要な人の関係者に対する助言・支援(コンサルテーション)④心の健康に関する教育や情報発信――の4業務を定める。

 ①と②は心の不調を抱えた人に「聴く」仕事で、これまでも臨床心理士がカバーしてきた。公認心理師を特徴付けるのは③や④だ。支援が必要な人の生活環境まで立ち入り、他の専門職とのチームワークで問題を未然に防いだり、治療をスムーズに進めるための「助言」が求められる。

 医療現場ではこれまで、臨床心理士がカウンセリングで患者の治療に影響する重要な情報を得た場合でも、医師と共有されないケースが散見された。他の領域の現場でも、情報共有が進まないことが少なくなかったという。こうした問題は、臨床心理士に課せられた「守秘義務」と医療者の中で共有されている「集団守秘義務」の違いが壁になっていた。

平井准教授は「公認心理師は『多職種連携』を前提に制度設計された。豊富な実習経験を背景に、資格取得時から各領域の事情を理解しており、医師や教師らと共通の言語でコミュニケーションを取って情報共有し対応を助言し、チームとして行動できる」と解説する。阪大では、心理ケアの能力はもちろん、特にコンサルテーション能力の養成を重視している。

 

「予防」に向け重責

心の不調は心だけに起因するとは限らない。

 「死の恐怖」を克服したがん患者でも、激しい痛みによって心的なダメージを受けることがある。少年犯罪やいじめの現場では、生育歴や家庭内での虐待状況などを知ることで初めて、原因や課題に迫ることができる。

 またIT化の急速な進展に伴い、現代人が処理をしなければならない情報量は公私問わずどの場面でも爆発的に増大を続けている。こうした環境変化に適応できず、与えられた時間内に仕事をこなせないと、ストレスが積み重なって心の不調の導火線となる。

阪大の公認心理師プログラムはスタートから2年が経過し、課程を終えた院生が社会で活躍する段階を迎えた。ある企業では公認心理師資格をもった人材を総合職として採用することで、社員の心のケアに配慮した人事制度設計にも生かそうとするなど新たな動きもある。心理の専門人材が心の不調の原因まで立ち入り、他の職種と連携しながら予防策を確立する中心的な役割を果たせば、心の健康を巡る社会的な負担にも、プラスの変化をもたらすはずだ。公認心理師資格をもった人材は、今後、企業や組織に欠かせなくなるだろう。

 

◆     公認心理師プログラムの詳細はコチラ

URL:https://www.hus.osaka-u.ac.jp/ja/content/kouninshinrishi.html

(本記事の内容は、2021年2月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

 

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