阪大StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

学びは、道を拓く力を授ける。
そんな一味違う阪大での学びの教科書(ストーリー)

教育を「場所」と「時間」の鎖から解き放つ オンライン授業が示す 新しい道
教育を「場所」と「時間」の鎖から解き放つ オンライン授業が示す 新しい道

教育を「場所」と「時間」の鎖から解き放つ オンライン授業が示す 新しい道

全学教育推進機構教育学習支援部

新型コロナウイルス感染症は世界の教育機関に対して「授業のあり方」の再構築を促した。これまで当たり前だった対面授業が、感染予防の観点から実施困難になり、ネット空間を経由した学びが2020年度からの日常と化した。大阪大学でオンライン授業を展開するにあたり、教員、学生をサポートする役割を担った全学教育推進機構教育学習支援部の佐藤浩章准教授に、ウイズ・コロナ時代の授業を通して見えてきた、新しい教育とオンライン・コミュニケーションのあるべき姿を聞いた。

「不自由さ」上回る「便利さ」

 大阪大学では、2020年度の春夏学期の授業を全てオンラインに移行し、予定通り4月9日に開始した。新入生向けの授業も準備期間を設けて4月20日から始まった。授業のつくりかえや新入生の心のケアに、教職員とも奔走し、急ピッチでの対応となった。オンライン授業の実践を積み重ねる中で、オンラインならではの利点がはっきりと見えてきた。

 全般に出席率が向上し、通常なら中途脱落する学生が少なくない多人数教室の授業でも、出席率があまり落ちなかった。提出される課題の質も概ね向上した。これまでの対面授業では多人数教室で教員の表情まで見える学生はごく一部。オンラインなら集まった全員が、画面越しに教員と顔を突き合わせることができる。質問などのフィードバックに、教員がきめ細かく対応できることも大きなアドバンテージとなる。

 少人数教室でも収穫はあった。佐藤准教授が受け持つ学生17人のクラスでは、3〜4人ずつに班分けしたディスカッションを、ビデオ会議システム「Zoom」を利用してリアルの教室以上にスムーズに進められた。課題を採点する時は赤ペンで直す過程を動画撮影して、返信時に添付した。教員側の思考を可視化する狙いがあり、何度も再生して確認する学生もいたという。

 そして授業の規模を問わず、内容を動画で保存できることが、学びの形を大きく変えた。これまで何度も日本の大学生の学習時間の短さが問題視されてきたが、この前学期はどの学年も軒並み増加傾向に転じているようだ。動画学習の場合、学生は理解している内容を早送りし、難しい部分だけを繰り返し再生できる。授業内容を各自の到達度や学習意欲に合わせる「個別最適化学習」が期せずして実現された。

 一方、教員の側にとっても変化があった。授業の動画は自身の授業を振り返るツール、いわば鏡となり、画面の向こう側の学生からどのように見えるのかを意識して授業を一から考える機会となった。佐藤准教授は「教員が授業の設計の重要性を改めて理解した。今後も試行錯誤が続くだろう」と話す。

 

「開かれた大学」であり続けるために

 知識だけならオンラインで手に入る。人間同士が顔を突き合わせなければ得られない学びは何だろうか?

 多くの卒業生や著名な研究者と繫がれるコミュニティーの存在は、大学の価値を高める要素の一つだ。また実験や実習は目の前で起きる事象を観察し、手を動かしてこそ習得することができる。キャンパス内でなければ不可能なこと、ネット上でのバーチャル空間でも可能なことの選別がこれからの課題になる。

 また海外の学生が大阪という場所に滞在できない時に、それでも大阪大学が魅力的な場所であり続けるために何ができるか、大阪大学の真価がこれからは問われていく。佐藤准教授は今後の授業の進め方について、「オンラインと従来の対面授業を併用して柔軟に使い分けるハイフレックス(=ハイブリッド+フレキシブル)授業が必要だ」と言う。

 大阪大学には現在、高校時代に起業して東京を拠点に働く学生や、自身の研究テーマのため九州で地域おこしのNPO活動をしている学生も在学する。こうした学生が、遠隔地で他の学生と同レベルの授業を受けられるとすれば、大阪大学はより多様で、優秀な学生を世界各国から迎え入れるチャンスを手にすることになる。

 

「以前と同じ」なら後退

 

日本ではこれまで、都市部に資本と人が極端に集中し、学びや就職の機会に都会と地方の格差が生じていた。オンラインという手段を活用することによって、立地上のハンディを一気に縮めることもできる。むしろ密閉・密集・密接の「3密」リスクに常にさらされる都市部が立地上不利になる状況すら想定される。

 2021年度が始まる段階で世の中がどのように変化しているか、見通すことは難しい。佐藤准教授は「たとえ新型コロナウイルス感染症の流行が終息してもバック・トゥー・ノーマル、つまり、以前に逆戻りすることは避けなければならない」と訴える。新型コロナを巡る試行錯誤の積み重ねで得た教訓は、今後に生かされなければならない。オンラインと対面とでは人間関係の構築方法は異なる。どちらが正しいというわけではなく、単にモードが異なるのだ。「例えば、オンラインでは対面以上に笑顔を見せること、オーバーリアクションをとることが大切」と佐藤准教授。そして学生たちには「これまで誰も経験できなかったことを経験してラッキーだと思ってほしい。オンラインは今は新しい動きであるけれど、今後これが当たり前となり価値観が変容するタイミングがきっと来る。だからこの経験の中で感じたことを記録しておきなさい」と事あるごとに語っているそう。「学生を見ていると、オンライン上でもすぐに自分たちで遊び方を見つけてコミュニケーションをとっている。結構したたかですよ。今の学生はおそらく“コロナ世代”と呼ばれるでしょう。でも、こうした世代から新しい社会のイノベーターが出てくるはず」と、窮屈な生活を強いられている若者に期待とエールを送る。

 

 

● 全学教育推進機構教育学習支援部

 高度な専門性と深い学識・教養・国際性・デザイン力を備えたグローバル人財の育成に寄与することを目指して、各種FD/SDプログラムや授業コンサルティングなどを通じた教育支援、ICTやオンライン教材を活用した主体的・対話的で深い学びのための学習支援などに幅広く取り組んでいる。

[Web]https://www.tlsc.osaka-u.ac.jp/

 

(本記事の内容は、2020年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

 

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