■リチウム酸素電池の実現に向けて AIと導く未来の一手
基礎工学研究科 物質創成成功 博士後期課程1年 石原 菜々子 さん
「機械学習を使ってみんなが知らないことを発見する瞬間がすごく嬉しいんです!」そう語る石原さんは、「リチウム酸素電池」の実現に向けて、機械学習を用いたシミュレーションによる研究開発方法を模索している。
現在のリチウムイオン電池より非常に軽く、長持ちするリチウム酸素電池は、実現すればEVや長距離ドローンなどの航続距離が数倍にも伸びる究極の電池。今は充放電わずか20回で止まってしまう壁を乗り越えようとしている。ボトルネックは、放電後に生成される「過酸化リチウム(Li2O2)」がイオンの通り道を“詰まらせる”こと。この問題を従来どおりの実験ではなくシミュレーションで攻略する道を選んだ。機械学習モデルを使うと、1 か月かかる原子レベルの計算が1 日程度で完了。研究の規模が広がり、新しい事実の解明に期待が高まる。まずはシミュレーション上で、過酸化リチウムの構造にある欠陥の動きにヒントがあることを発見し、電池研究を次のフェーズへ押し上げた。
機械学習を積極的に活用しながらも、「スピーディに結果を導き出せるからこそ、数字の裏にある科学的根拠を考え意味を見失わないこと」という指導教員からのメッセージを、石原さんは常に胸に留めている。また、女子高で親しかった先輩が基礎工学部で研究を楽しんでいる話を聞いて進学を決めた経験から、同じように、理系女子学生の環境変化による心理的ハードルを少しでもカバーしたいという想いも。自然科学系女子学生による組織「asiam(アザイム)」のスタッフとして進学相談会に参加し、対話を大切にしている。女子高から理系進学のハードルも、研究の壁も、軽やかに越えていける石原さんの今後に期待が高まる。
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■源氏物語を「家」の呼び方から読み解く 千年の古典文学研究に、新たな視点を
人文学研究科 日本学専攻 博士後期課程3年 飯田 実花 さん
日本の古典文学において、膨大な研究史を誇る『源氏物語』。遡れば、鎌倉時代から研究がなされた記録があるという。およそ千年もの蓄積がありながら、飯田さんは、新たな研究フィールドを切り拓くという快挙をみせた。テーマは、「邸第呼称(ていだいこしょう)」。物語に登場する「家(邸第)」の呼び名である、「院(いん)・宮(みや)・殿(との)」の三語の用例に着目。意外にも先行研究は見当たらなかった。きっかけは、巻をまたぎ〈○○宮〉が〈○○殿〉へ呼び替えられる謎。同じ家を指しているのに、なぜ呼称が揺れるのか?そんな疑問が、「キャリアウーマン」を目指していたはずの飯田さんを文学研究の世界へいざなった。54巻ある物語をまずは目で読み、文中に登場する「院・宮・殿」をリストアップ。その数、400例。どのような文脈で、誰に、どのように呼ばれているかを洗い出し、数々の歴史資料を手に取りながら、用例の法則を明らかにしていった。邸第の「格」など、当時の貴族社会に流れていた空気感が表現されているのではないかと飯田さんは見ている。これまで人物が主流だった呼称研究において、「家」に着目した功績は高く評価され、中古文学会賞を受賞。源氏物語に限らず、古典文学への理解を一層深める新たな指標をもたらした。
モチベーションは「言葉・文字一つひとつの書かれ方や背景に向き合い、作者の狙いを考えることが楽しい」と飯田さん。かつて気持ちが沈んだ時に読み、心を震わせる面白さに「救われた」という『うつほ物語』にも、次の研究の目を向ける。一千年、読まれ続ける「強さ」に敬意を払い、研究者として物語を深く正確に読み解くことが、平安朝文学への恩返しだ。
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■持続可能な工業プロセスを拓く低コスト還元反応! 水素ガスを用いたクリーンプロセス
工学研究科 応用化学専攻 博士後期課程3年 久田 悠靖 さん
「クリーンで低コストな還元プロセスを実現したい」。久田さんは、重金属・副生成物フリーの還元反応実現に向け、機械学習を用いた有機合成研究を行っている。
私たちの暮らしに馴染み深い「アミノ酸」を合成・変換する工程では大部分が還元反応を経ているが、高価な貴金属触媒と大量の副生成物が、製造現場でのスピードとコスト面で足かせになっていた。「ものを早く・無駄なくつくるというプロセスに関心があった」と言う久田さんは発想を一変。ホウ素ベースのFLP触媒+水素ガスだけで反応を起こし、副生成物は“水”だけというクリーンプロセスを打ち立てた。さらに触媒候補は機械学習を用いて設計。計算上で数万通りの組み合わせをふるいにかけ、“当たり”だけを合成・実証する手法により、研究は一気に加速した。提案された“当たり”が実際には合成できないという苦労もあったが、研究を進めた結果、貴金属・副生成物フリーで後処理を短工程化。工業スケールへの応用も可能。つまり、低コスト×低環境負荷で量産できる新しい工業プロセスが、自らの研究から誕生した。多くの文献に触れ、企業では取り扱えないような多様な試薬を柔軟に、実験的に扱えたことが、研究を飛躍させる土台となった。
留学経験も研究の糧になったと語る久田さん。培った機械学習のノウハウにより留学先でも成果を挙げた。大阪と世界で磨いた研究力を、次は大規模なスケールで形にしようと、来春から製薬企業で研究者として活動する。ブレイクスルーを見据える瞳に、揺るぎない熱が灯る。
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(本記事の内容は、2025年10月発行の大阪大学NewsLetter 93号に掲載されたものです)
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