初公演の来場者満足度は98.6%
「コンセプトやシナリオ、演出プランでは、プロにも負けていないはずです」。そう語るのは、「お化け屋敷制作プロジェクト Geist(ガイスト)」を立ち上げた文学部3年生の溝口瑛士さん。1年生の秋、USJのホラーイベントに触発された友人と「自分たちでお化け屋敷を作ろう!」と、「マイナーサークル発足ブーム」に乗ってSNSで発信すると、たちまち10人も集まった。「これはもう裏切れない」と、サークルの初代代表になった。学祭で他団体と差別化できる「本格派」を目指し、お化け屋敷づくりの研究が始まった。
初公演は2023年11月、大阪大学まちかね祭。『怨霊の祠~待兼大学旧実験棟~』と銘打ち、細かな演出や設定を多数盛り込んで「来場者が悲劇的な母娘の供養に挑む物語」を展開した。企画のほとんどを演劇経験のある溝口さんが手がけ、数名の幹部で引っ張った。強烈なメイクや衣装を演出した外国語学部4年生の高山花美さんは「『モテホラー』なメイクでは迫力が足りなくて、自己流で仕上げました」と笑う。直前まで人集めに走り、開催すら不安だったが、来場者満足度は98.6%を記録。自信を得て、サークルの勢いは一気に加速する。
翌年5月の大阪大学いちょう祭では、新メンバーを加えて『怨霊の祠』をリニューアル再演。会場設計やSNS広報の強化などにより、来場者数1000人超の大盛況に。いちょう祭で最も魅力的な出展団体「キングオブ阪大」に選ばれた。ほどなくして、初の外部公演の依頼が舞い込む。準備期間2週間というタイトスケジュールで新作お化け屋敷『ミチヅレ』を完成させ、6月の毎週末に愛知県の豊川稲荷のお祭りで上演した。その後も、京都の妖怪イベントに参加したり、箕面市のお祭りでのお化け屋敷にアドバイザーとして協力したりと、メンバーの経験値や専門性を磨いた。24年秋、2回目のまちかね祭では、新作『人身御供(ひとみごくう)』を上演。老若男女の来場者をのべつまくなしに震え上がらせ、大学祭の名物団体としての風格を感じさせるまでになった。
明るく、オープンに、自分も周りも盛り上げる!
Geistが大人気団体に進化した理由は、知力か、体力か?あるいはホラーのセンスなのだろうか? 実は溝口さんが大事にしてきたのは、サークルの雰囲気づくりだという。「メンバーのモチベーションが続くかどうかは、すごく微妙な心の働きに左右されます。だからみんなが楽しく取り組める工夫をずっと考えていました。例えば、お化け屋敷のバックヤードは一つに繋げて、お菓子や飲み物をたくさん並べています。孤立空間で延々と人を脅かす『作業』だけなんて、絶対辞めちゃうと思ったので」。高山さんも「メンバーと一緒に来場者をキャーって怖がらせるのが、すごい快感なんです」と話す。自分たち自身を明るく盛り上げ、高めあう。すると、新しいアイデアがどんどん生まれ、自主的にクオリティが上がっていく。演出を担当する基礎工学部2年生の萩原陽人さんは「最初は瑛士さんの情熱的プランを忠実に再現するっていう楽しさだったんですけど、今はキャストの動きや台詞も自由度を上げています」と変化を語る。
もう一つの特徴は、学外の様々な地域での活動だ。豊川稲荷で初めて外部公演をした際、主催者や地元紙から「お化け屋敷のために来てくれた人も多く、祭全体が盛り上がった」と高く評価され、利益の一部を寄付して市役所での式典にも招かれた。それを機に、“お化け屋敷を通じて社会貢献・地域活性化をかなえる”をモットーに掲げ、活動フィールドを広げるようになったという。イベントのための単なる人手ではなく、企画・提案ができるエンタメ集団として各地を盛り上げるGeist。こうなると、もはや学生サークルの域を超えたプロのお化け屋敷制作集団だ。
次世代へGeistをつなぎ、金字塔へ
活動の規模拡大にともない、運営面も変革期を迎えている。溝口さんは「ワンマンプロデュースだと一代で終わってしまう」と考え、直近の『人身御供』ではほとんどの実務をメンバーに託しつつ、公演を成功に収めた。24年12月に2代目の代表となった萩原さんは「組織の土台固めに注力したい」と話す。「マニュアルや体系をしっかりと作って、誰か一人に負担が偏らないように、みんなが無理なく楽しめるようにしていきたいです」。担い手としての想いを新たに、次に向けて動き出している。ホラーが好きで立ち上げ初期から参加している高山さんは、今年度で卒業だ。「お化け屋敷を作るという一つの目的を通して、メンバーの自主性も団結力も高まった」と、この2年間を振り返った。
溝口さんは語る。「最近は学生芸人ブーム。でも次は、学生お化け屋敷ブームを起こしたい。各大学で競うようにお化け屋敷が制作されて、その源流のGeistが金字塔になれたら」。野望が受け継がれ、Geistの名声と恐怖の悲鳴が各地に響く日を、震えて待とう……。
■ 大阪大学お化け屋敷制作プロジェクトGeist(ガイスト)
2022年9月に発足した、お化け屋敷を通じて社会貢献・地域活性化を叶えることを目指すプロジェクト(学生サークル)。本格派お化け屋敷の制作・運営を手がけ、大阪大学の学祭「いちょう祭」「まちかね祭」での公演の他、学外での公演にも様々なかたちで携わる。2024年いちょう祭の出展団体の中から来場者投票で選ぶ「キングオブ阪大」総合1位を受賞。
[Instagram] @ou_geist
[X] @ou_geist
(本記事の内容は、2025年2月発行の大阪大学NewsLetter 92号に掲載されたものです)
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