StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

■生物はなぜ左右非対称?臓器の形成過程をタンパク質まで遡る。


理学研究科 生物科学専攻 博士課程3年生  山口明日香さん

「生物の身体や臓器がいつも同じ向き・同じ位置に形成されるのはなぜだろう?」山口さんは、「左右非対称性」を研究テーマに、生物の根源的な原理原則に向き合う。例えば、人間の心臓は左側にあり、肝臓は右側にある。カタツムリの殻の巻き方も左右非対称だ。たくさんの細胞が集団で同じ方向に動きながら身体のパーツを作り上げる様子は、「水族館で見る魚の群れのよう」。左右を決定している遺伝子や細胞の働きと、それによる臓器の形成を、ショウジョウバエをモデルに研究を進めている。
具体的には、腸が左右非対称にねじれる過程に着目。ショウジョウバエでは、腸管は最初、左右対称に形成されるが、発生が進む中で右向きにねじれて左右非対称になる。このねじれの方向は、ミオシンというタンパク質が決定していることが先行研究により既に明らかにされているが、ミオシンがどのように腸のねじれの方向を決めるのか、分子メカニズムはブラックボックスであった。山口さんは、核心に切り込むべく、ミオシンのタンパク質構造に注目した。研究を進めると、アクチンフィラメントと呼ばれる細胞骨格との相互作用が、腸のねじれの方向の決定に重要であることを発見。これは、生物が形作られていく根源的なメカニズムの解明が一歩前進したことを意味する。
「生き物のからだづくりを、分子の観点から階層縦断的に理解を深めたい。生物の左右非対称性がどのような進化の過程を辿ってきたのかも興味深いです」と話す山口さん。今後の活躍に期待が膨らむ。

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■音楽が聞こえるとき、脳に「予測」が響いている。前人未到の音楽理論を切りひらく。



人間科学研究科 基礎心理学研究分野 博士課程3年生  石田海さん  

私たちが日常生活で音を耳にするとき、「音楽」と「環境音」を自然に聞き分けている。この聞こえ方の違いは、どのように生まれているのか? 石田さんの仮説は、「予測」だ。つまり、音を聞いている人が音楽特有の規則性を見出し、次に鳴る音を「予測」できると,音が音楽として聞こえるのではないか、と考えた。
「予測」を音楽が聞こえるための条件とした発想は先行研究にはなく、研究手法そのものから石田さんが独自に考案・構築している。実験で使用する音源は自ら作曲。阪大生を対象に、新しい音楽体系で作成した音源を繰り返し聞かせて学習してもらい、既存の音楽にはない「新しい音楽」の予測を作り出そうとする研究も行っている。学習が進むと、音楽の予測に関連した神経反応が、脳波として表れてくることも確かめた。

「次のステップとして、その人がどんな音楽の予測をもっていたかを読みとるために、機械学習の手法を用いて研究しているところです。将来的には、音が音楽として聞こえ始める過程を解明したり、人がリズムや音楽に『ノる』ことを予測の観点から説明したりできるかな。辿り着きたい成果に対して、現在地は20%くらいですね」。
東京の大学の教育学部で声楽を専攻していたが、歌唱や演奏よりも人が音楽を知覚する過程に興味を持つようになる。大学院進学を機に、大阪大学で音楽と脳の常識に挑む独自の研究に取り組み始めた。この先も、ここで研究者としてのキャリアをひらいていく予定。「純粋に、自分の学問的な好奇心を満たせることが面白くて楽しいんです」と、早くも研究者の横顔を見せた。いつか、まったく新しい「予測」音楽理論を完成させる日がくるのかもしれない。

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■ 「ここならできる」 特別な光と凍結を組み合わせ、薬理学の進歩に貢献。


工学研究科 物理学系専攻 博士課程1年生  川上千穂さん

薬剤が生体に及ぼす影響や作用のメカニズム等について研究する「薬理学」。実は、薬剤が生体内にどのように取り込まれ、どう作用しているのか、1細胞単位で観察する方法は未だ確立されていない。これに対して、川上さんの研究は光物理の側面から、薬理学を発展させる可能性を秘めている。研究テーマは、ラマン散乱光によって物質の化学構造や分子特性を解析する「ラマン顕微鏡」の感度を高め、薬理学に応用するというもの。創薬や医療への貢献が期待される基礎研究だ。川上さんが所属する藤田研究室では、ラマン顕微鏡に「クライオ技法(急速凍結固定)」を組み合わせた観察手法を確立。これにより感度の向上が認められたが、薬の臨床試験への応用はまだまだこれからだ。
学部時代は物理に興味を持ち、半導体関連の研究に取り組んだ一方、「医療に貢献したい」という思いも抱いていた。大学院進学を考えるタイミングでこの研究に出会った川上さんは、フィールドチェンジに踏み出した。「研究に取り組み始めて3ヶ月。まもなく先輩から研究を引き継ぎ、私が主担当になります。プレッシャーもありますが、先生や研究室仲間の力を借りながら、成果を積み上げていきたい」と話す。
研究活動のほか、自然科学系女子学生による組織「asiam(アザイム)」での活動も。女子高生へ進学アドバイスを行ったり、他学科の学生と交流したりしながら、“理系=女子にとってハードルが高い”、“理系=研究職”というイメージを変えようと、アクションを大学内外にも広げる。「大阪大学で培った行動力や研究力を強みに、人の健康や生活に貢献したい」と、今後の展望を語った。

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(本記事の内容は、2024年9月発行の大阪大学NewsLetter91号に掲載されたものです)

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