StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

丁寧に創り込まれた演劇作品

12月のとある休日。大阪大学箕面キャンパスの大講義室で「語劇祭」が開催された。2日にわたり21専攻が出演し、およそ1,500人もの来場者が観劇に訪れた。劇のテーマは、それぞれの国の童話をもとに学生たちがアレンジを加えたものや、完全に一からシナリオを描いたオリジナル作品まで多様。劇中は、学生らが専攻する言語で劇が展開される。観客向けに、台本の字幕を各言語と日本語で表示しながら、その翻訳をはじめ音響・衣装・照明・小道具制作などすべての役割を学生で担っている。

劇の完成度も非常に高い。劇が始まる前に、その言語を話している国や地域の歴史・文化・暮らしなどの紹介プレゼンがあり、その話だけでも観客は興味をそそられる。日本で生活する者にとって親しみのある英語や中国語、フランス語、スペイン語などの言語から、スワヒリ語、ペルシア語、ハンガリー語などあまり国内では耳慣れない言語まで、多彩な語劇が披露され、まるで各国を旅しているような気分で楽しめるのだ。

さて、紹介プレゼンを終えると、いよいよ劇が開幕。会場の照明が落とされ、一気に臨場感が増す。パッと、スポットライトが照らされた先には、民族衣装などをまとった学生の姿。背景の壁には、建物や街並みなどそのシーンの画像が投影され、すらすらと台詞を語りはじめた。聞きなれない言語で、理解が難しくても、常に字幕が投影されているため、何を話しているのかは理解できる。しかし、劇そのものの創り込みや学生たちの豊かな表現に目を奪われ、字幕を追う暇がないというのが実際のところだ。代わる代わる場面が展開し、その度に手作りの小道具が設置され、背景画像や音響も効果的に織り交ぜながら、物語は進行する。各専攻によって違いはあるが、時間はおよそ20分〜30分程度。中には1時間もの大作に挑戦する専攻もあった。これは「学生発表会」というよりも、「語劇祭」の名のとおり「観劇」に来たという手応えが、確かにある。観終えたあとの満足感や、馴染みのなかった国・地域への新しい興味。こんな素晴らしい時間と体験を生み出せる学生たちの準備の過程には、どんな努力や想いがあったのだろうか。

学業と両立しながらの準備・稽古

語劇祭の開催にあたっては、学生による「語劇祭実行委員会」が中心となって当日までの準備や広報、マネジメントなどを担う。希望すれば誰でも委員会のメンバーになることができ、今年委員長を務めたスワヒリ語専攻2年生の甲斐想奈さんと、ペルシア語専攻3年生の渡辺夏生さんも、自らの意思で委員長に立候補した。前の委員長から仕事を引き継ぎ、新学期がスタートする4月から語劇祭の準備は始まる。まずは、今年の語劇祭に参加する専攻募集から。前もって各専攻の意向は尋ねているものの、その年の専攻の人員や方針によって、出演の有無が変わったりする。だから語劇祭の出演は義務ではなく、学生たちの「やってみたい」というモチベーションによって動き始めている。各専攻によって、過去に演じた台本を用いたり、一からシナリオを作成したりとスタイルはさまざまだが、夏頃までに台本作成とその翻訳が完成する。まずは学生の力でやってみて、各専攻の教員や先輩の手も借りながら仕上げていく。その台本をもとに配役や、音響・照明などのスタッフを割り振り、授業の空き時間や放課後などを活用して稽古に取り組む。

ただでさえ、日々の課題や学業で多忙な外国語学部生。稽古や準備と、学業の両立は簡単ではなく、中には学生のモチベーションが保てず、うまくチームワークできないという専攻も。そうした専攻のフォローやケアをすることも、実行委員会の役割のひとつだ。「それぞれの専攻に、何か問題や困っていることはないか、こまめにコミュニケーションを取るようにしています」と甲斐さんは話す。

演じることで、言語が自分のものになる感覚

「豊中キャンパスで開催されるまちかね祭やいちょう祭に負けないお祭りをつくりたい」。そう意気込みを語った渡辺さんは、語劇祭を盛り上げるべくさまざまなアイデアを盛り込んだ。劇が始まる前の紹介プレゼンを必須にして導入したり、今年初めての取り組みである「グランプリ」企画を盛り込んだりと、観客にとっても、学生にとっても、語劇祭への興味関心が高まるよう務めた。甲斐さんも、留学中の学生から現地の動画を送ってもらい、会場で放映するなどの企画を考え取り入れた。2人をはじめとする実行委員会メンバー約30名の努力が功を奏し、観客数は昨年よりも300人ほど増え、会場は絶えず多くの人で賑わった。「楽しんでくれているお客さんの姿や、出演を終えた学生のみんなの表情を見て嬉しさとやりがいを感じました」と2人は笑顔で話す。

語劇祭は外国語学部生の集大成というビッグイベントでもありながら、言語や文化を学ぶ者としての成長や手応えを感じられるそうだ。台詞を覚え、役になりきり演じることで、話している言葉が自分のものになっていく感覚。その時代背景や、登場人物の暮らしぶりを想像し、劇を通じてその国や地域の文化への理解を深めていく。単に言語をスキルとして習得するだけではない、本物の学びの場でもあるのだ。その躍動感あふれる観劇体験を、ぜひ皆さん自身でも味わってもらいたい。



■大阪大学外国語学部 語劇祭

大阪大学外国語学部の前身である大阪外国語大学の時代から、およそ80年にわたり引き継がれている伝統行事。それぞれの専攻の言語による劇を披露するとともに、開催にあたっての運営は学生が中心となって進行し、実行委員会がその全体マネジメントを担っている。

[Web]https://www.osaka-u.ac.jp/ja/event/2023/12/10625


(本記事の内容は、2024年2月発行の大阪大学NewsLetter90号に掲載されたものです)

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