StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

■臨床の現場と基礎研究の懸け橋に。「こういう選択肢もあるんだ」


大学院医学系研究科 博士課程3年
森田 裕子さん

病院で理学療法士として中枢神経障害の患者のリハビリテーションを担当した後、基礎研究の重要性を感じて研究者に転身した異色の経歴の持ち主だ。「臨床の現場と基礎研究は、かなり離れた存在。そこをつなぐ懸け橋になりたい」と意気込む。

視覚障害や手足の麻痺・感覚障害が生じる「視神経脊髄炎」の疾患について、病態の解明と治療方法の開発を目指して研究を続けている。修士課程では、抗体を視神経に直接投与することで重篤な症状が生じる動物モデルを確立。免疫細胞の活性化抑制により、視神経障害を緩和できることも示し「大阪大学女子大学院生優秀研究賞」を受賞した。博士課程では、更なるメカニズムの解明に挑んでいる。

水泳部だった高校時代に肩のけがを負い、リハビリの世界に関心を持った。大学で理学療法学を専攻し、資格を取得後に地元・千葉県の病院で重度の脊髄損傷を負った患者などを担当した。やりがいを感じる一方で、回復を見込むことが難しいケースもあり「障害のメカニズムを明らかにすることが重要」と痛感し、大学院の門をたたいた。当初は基礎的な知識や技術の習得に苦労し「大変なところに来たと思った」というが、今では「まだ誰も見たことがない新しいことを見つける」研究に、面白さを感じているという。

自然科学系女子学生による組織「asiam(アザイム)」にも所属。未来の理系女子を増やそうと、小学生向けの科学教室などにも参加している。将来を悩む若者に「理学療法士だった頃は、周囲に基礎研究を志す人はいませんでした。私自身キャリアという面では悩みましたが、研究をやっていてよかったと思っています。選択肢はたくさんあるので、諦めずに自分の好きなことに取り組んで欲しいと思います」とエールを送る。

■ビッグデータで解き明かすヒトの腸内微生物叢


大学院医学系研究科 博士課程4年
友藤 嘉彦さん

「見えていなかったものを見えるようにできた達成感」が研究を支える。ゲノム解析分野で注目の解析手法「メタゲノムショットガンシークエンス解析」。網羅的に大量のDNAデータを解析可能で、友藤さんはその新たな手法の開発研究で高い評価を受ける。

一般に、メタゲノムショットガンシークエンスを用いると、細菌以外の微生物やウイルス解析に加え遺伝子解析が可能となり、系統情報の解像度も高い。一方で、「扱うデータ量が膨大で、解析方法など確立していない部分があり、研究者らが試行錯誤している段階です」とその難しさも明かす。

東京大学医学部では免疫学教室に入ったが、コンピュータを使って遺伝子のビッグデータを解析する技術の必要性を強く感じ、「国内トップランナー」の岡田随象教授(遺伝統計学)の指導を受けたいと大阪大学に。ビッグデータを多くのソフトウェアの組み合わせで解析する手法を開発し、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患の患者の腸内で特定のウイルスが減少している特徴を21年に解明。翌年には日本人の腸内微生物叢のデータベースも構築して公開し、民族差や疾患との関連があることも示した。23年には、ゲノムから細かい個人情報を推定できることを示し、データを有効活用する上でのプライバシー保護の重要性を提唱した。「自分たちの研究はもちろん、構築されたデータベースを活かして世界中で取り組まれる研究が将来、病態の解明や治療につながればと思います。今後は他の領域にもこの技術を活かしていきたい」と意欲を見せる。

学部時代は水泳などをやっていたスポーツマン。研究の楽しさを部活に例える。「きつい練習の後に得られるような楽しさで、普段はやはり大変」。楽しげに語る笑顔の中に、研究者としての粘り強さをのぞかせた。

■平安時代の「法会漢文」研究 第一人者を目指す


大学院文学研究科 博士課程3年
小西 洋子さん

平安時代の貴族社会では、造寺や造仏、忌日法要などの法会(仏教儀礼)に寄せて「願文(がんもん)」と呼ばれる漢文が作成された。主催者の依頼を受けて一流の文人が手がけた文章は、漢詩や仏典の故事が盛り込まれ、文学的技巧も駆使されている。しかし、これまであまり注目されてこなかった。

小西さんはこれを「法会漢文」と名付け、新たな研究ジャンルとして提唱する。

きっかけは、京都女子大学文学部から修士課程に進む際の受験対策だった。漢文を学ぶため平安時代の漢詩文を集めた『本朝(ほんちょう)文(もん)粋(ずい)』を読み、願文を知った。願文は主催者の願いを反映した内容で、法会で僧侶の朗唱後、寺院に奉納されたという。「ほとんど研究が進んでいない分野で、挑戦してみたいと思いました」。

その後、大阪大学に編入し、研究は8年目に入った。最近は、漢学者の慶(よし)滋(しげの)保(やす)胤(たね)が、冷泉天皇の第二皇女・尊子内親王の四十九日法要などに際して作成した願文2本を読解。どちらも直前に完成した仏教の教学書『往生要集』の内容を色濃く反映し、当時の貴族社会と仏教思想の結びつきの強さが浮かんだ。また、後の来迎図や能など美術や芸能に及ぼした影響もうかがえるほか、「平安末期には、『平家物語』にも願文が引用されています」と話す。

読解は大変だが、表現の背景にある中国文学の故事や典拠が分かれば面白さを感じる。また、亡霊との対話などが描かれた願文もあり、「ホラー好きとしては、かき立てられることもあります」と笑う。

今年度で博士課程を修了予定だが、今後も研究を続けるつもりだ。「美術史や仏教史、日本史にもつながるので、領域横断的な研究も進めたい」。目指すのは「このジャンルの第一人者です」と、はにかみながら語った。


(本記事の内容は、2023年9月発行の大阪大学NewsLetter89号に掲載されたものです)

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