取材にあたったのは、学生映像制作サークル「OUT+V(アウトブイ)」の四條能伸さん(基礎工学部3年)と小野京香さん(外国語学部1年)。小野さんが取材し、四條さんが動画を撮影した成果は、全学ディスプレイシステム「O+PUS(オーパス)」にて学生に向けて放映するメディアミックス企画でもある。
大阪工場に入った途端、2人は「ええっ、広い」「こんなにきれいなの」と思わず叫んでいた。概要説明・ビデオ解説を受けた後、バスに乗ってさっそく場内見学。約54万5000平方㍍(甲子園球場の約14個分)の敷地内に7つの製造工場。バスは工場の建屋の中を走る。両サイドで30㌧以上のブルドーザー、10~200㌧の油圧ショベルなどが組み立てられ、まさに「製造業の雄」としてそびえ立つ。
「女子大生でも楽しめる、すごい工場」と語る小野さんはロシア語専攻。場内には各国から来る見学者に合わせて、さまざまな言語のディスプレイが用意されており、ロシア語表記も。担当者からは「ロシアにも工場があり、プロ級のバレエ評論ができる社員もいる」と聞かされて、小野さんは「私も行きたいなあ」とため息を漏らした。
「どうして、製品はどれも黄色なんですか」と尋ねた小野さんに、担当者は「とてもいい質問」と前置きしたうえで、「建機は様々な場所で動くのですが、注意を喚起して安全に作業できるようによく目立つ黄色にしているのです」と答えてくれた。
「200㌧の車体を私が動かした」
さあ、今回の一番の見せ場がやってきた。世界各地で活躍する車体重量約200㌧もの油圧ショベル「PC2000」を操作するのだ。高さは7㍍以上、アームを延ばした長さ約12㍍。一度で20㌧超の土砂をすくう容量12立方メートルのバケットの中には人間10人は楽々入れる巨大さ。普通自動車の重量を約1.5㌧と考えたら、この機械の大きさがわかる。地上約6メートルのオペレーター席でこの巨体を操作する小野さんの姿を、四條さんのカメラが追う。社員指導のもと、バケットを上げるだけでなく、360度の旋回までやってのけた。
「小さい(146㌢)私が、こんな大きな機械を動かせるなんて感激」と顔をほころばせる小野さん。「1週間の練習で操縦できるようになるらしい」としっかり取材した四條さん。
「社会人として責任、誇りを実感」
最後は、同社の“中枢頭脳”である大阪テクニカルセンターへ。ただし、カメラ撮影は一切禁止だ。試作品考案など、設計・製造それぞれの意見を取り入れやすく工夫されたオフィスで多くのプロジェクトが進行する。そのうち、最先端技術を取り入れた部屋に、特別に入れてもらった。「バーチャル・リアリティ・ルーム」で、4面に囲まれた空間のなか、パソコンではじき出した1/1スケールの試作車CG映像を立体表示。3Dめがねのセンサと連動して、身を仰け反ってしまうほどのリアリティを体験できる。技術者たちが修正箇所などを示しながら完成品に導いていく、まさにその現場だ。
すべての取材を終えても、2人は熱が冷めやらぬよう。「通常なら体験できないことをたくさん学ばせてもらった」と四條さん。「社員の人が生き生き働いて、この会社が大好きなんだという思いが伝わってきた」と小野さん。「社会人としての責任感」「仕事への誇り」を実感する大きな収穫となった。
先輩に聞く
学生時代の時間を有意義に
コマツ大阪工場には、大阪大学出身者が約100人いて、「強力な戦力」になっているという。工学研究科を02年卒業の内丸雅俊さん(建機第一開発センタ)、09年卒業の畑健太郎さん(生産技術開発センタ)が、インタビューに応じてくれた。
学生時代にやって良かったことは。
内丸さん 米国を1カ月かけて西から東まで、一人旅しました。とても度胸がついた。社会人になると時間の制約がある。だから学生時代にこんな一見無駄な時間もたっぷり経験するのがいいですね。
畑さん 修士論文を終えて入社するまでの間、スキーを1週間以上、1人でずっと滑り続けました。しかも、自分の車に寝泊まりしながら。趣味というのは、社会に出てからの気持ちの切り替えにとても大事になります。
製造業の魅力、建機を作る喜びを。
内丸さん 設計をやっていると、「この部分は自分が作ったんだ」という自負を持てます。
畑さん 建機って、かわいいでしょ? 溶接が専門の僕は、「こんな巨大な物を溶接する業界って、ほかにない」と胸を張れます。
これから社会人を目指す後輩にメッセージを。
内丸さん
自分が本当にやりたい一生の仕事は何なのか、じっくり考えてください。先輩のつてで、企業などを事前に訪問するのも大事です。
畑さん 会社選びには、事前の情報集めが重要。でも、最後にエイヤッと決めるのは自分。後で後悔しないよう、言い訳をしないで済むようにしっかり自分と向き合ってください。
(本記事の内容は、 2012 年 9 月大阪大学 NewsLetter に掲載されたものです)
◆コマツ(株式会社小松製作所)
小松製作所として1921年、石川県で設立。建設機械メーカとして世界をけん引する。全世界の同社機械約17万5000台に、位置情報システム・各種センサを取り付け、情報を通信回線で結ぶ遠隔機械管理システムKOMTRAXは運行状況や燃費などの一元管理が可能となり、サービスの枠が飛躍的に拡大した。 2008年には、鉱山業界で長年の夢であった無人大型ダンプトラックの運行システム「AHS」を世界に先駆けて実用化。同年には建設機械で世界初となるハイブリッド油圧ショベル「PC200-8E0ハイブリッド」を発表するなど、ユーザーや環境に考慮した製品づくりを進める。本社・東京。野路國夫社長は大阪大学出身。連結従業員数は約4万1000人。
大阪工場ではグループ全体で約2300人が就業。岩崎章夫工場長も大阪大学出身。地域貢献として毎年、地元枚方市の小学5年生約1500人を工場見学に招いたり、周辺住民を対象に開放イベントを開いたりしている。
大阪大学とは、工学研究科に共同研究講座を設けるなど、産学連携でも密接な関わりがある。