StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

きっかけは「ご褒美カレー」

「スパイス研究家」のルーツは、小学校3年生くらいに家族で行き始めた大阪市北区の地下街・ホワイティ梅田にある「ピッコロカリー」だった。「成績が良かったりすると連れていってもらえる。すごくおいしくて、『良いことがあったらカレーを食べる』と、そんな風につながったのかもしれません」

今でこそテレビや雑誌でさまざまなカレー店を紹介する泉井さんだが、高校生まではピッコロ一筋。だが、高校を卒業する頃に友達に連れていかれた「カンティプール」(大阪市北区黒崎町)が、泉井さんを専門家へと導いた。それまでカレーと言えばピッコロの欧風カレーだったが、「カンティプール」のネパールカレーに出会い、「僕が知っていたのと全く違う世界」と衝撃を受け、各国のカレーを食べ歩くように。ピーク時で年365食にもなり、ブログでも発信するようになった。

その中で出会った「カシミール」(同市中央区東高麗橋)は、泉井さんにとって第3の衝撃だった。「日本人でもこんなスパイシーなカレーが作れるのか」と感銘を受け、自分で作るきっかけになったという。

音楽&カレー、ブームの火付け役に

高校では文系だった泉井さんだが、大学では医療を志したいと考えていた。ところが受験勉強中に、好きなことに熱中する性格が顔を出し、音楽にのめり込んだ。憧れていた音楽プロデューサーの影響を受けて洋服のユーズドショップも始めた。一方、「それで生きていくのは難しい」との自覚もあり、いったん、大阪外国語大学(当時)に入学(英語専攻)。ここでブラジル人留学生と知り合ったことでサンバ、ボサノバなどブラジル音楽に本格的に目覚め、レコードを輸入して洋服の店で販売するようにもなった。「もう勉強どころではなく、大学に行くのもブラジル人と会うため、みたいな感じでした」と笑う。

そんな20代はまた、泉井さんを形成する二大要素、カレーと音楽が融合した時期でもある。店舗経営の傍ら音楽イベントも開催したが、マイナーなブラジル音楽ではお客さんが呼べない。興味を引くためイベントで手作りのカレーを提供したところ、これが当たった。たまたま来場していた雑誌の担当者から「コラムを書いてみないか」と誘われ、メディアでも活動することに。単純に“客寄せ”だったカレーと音楽のコラボだが、今や音楽イベントでカレーを出すのは、日本中で大変なブームだという。意図せぬままその仕掛け人になり、メディアへと活躍の幅を広げた。

しかし、医療への思いは埋火のようにくすぶっていた。大阪外大に籍を置きながら再受験へ舵を切り、見事に歯学部に合格。「カレーを一生おいしく食べるにも歯が大事だな、と」。現在に至る予防歯科へのスタートを切った。2006年、28歳の時だった。

ターメリック研究が人気製品に結実

歯学部入学後も、カレーに関してはテレビに出たり、雑誌の特集に記事を書いたりと活動を継続。そのことが次のステップへとつながった。

実習の指導教官が、泉井さんの出演するテレビ番組を見て、カレーに使われるスパイス・ターメリック(ウコン)の抗菌作用研究をやってみないかと声をかけたのだ。ターメリックに含まれる成分・クルクミンが、歯周病を引き起こす「Pg菌」の増殖を劇的に抑制する抗菌効果を実証し、論文は米国の歯周病専門誌にも掲載された。

そして、泉井さんの研究成果は、実際の製品として結実する。歯科専売の歯磨き粉「PG STOP」(販売・ヨシダ)だ。昨年発売されたばかりだが、品切れになるなど「歯科界ではものすごくホットな話題になっている」と喜ぶ。同様の製品として阪大の予防歯科が協力した「クルクリンPGガード」(販売・サラヤ)があり、こちらはドラッグストアなどで市販されている。

歯周病は「ギネスブックで『世界で最も蔓延<ルビ:まん・えん>している感染症』に認定され、世界中の研究者が戦っているのに根本的な解決法は見つかっていない。歯磨きをしても歯茎に菌が残っていると増殖し、一定量を超えると病気が進行する。家庭のセルフケアでは補えない部分を、定期的なプロフェッショナルケアによってコントロールするのが私たちの役割です」と話す。

活動のエネルギーは「熱中」と「家族」

歯科医師としての治療や研究はもとより、カレーの食べ歩き、テレビ出演、DJなど、活動のどれを取っても片手間の域を超えるが、「興味のあるものに対しては熱中する方かな。自分の好きなものを多くの人に知ってもらい、みんなで楽しめたらいいな、と。その思いがちょっと強いのかもしれません」と活動のエネルギー源を自己分析する。

そして大切な家族の存在も。「周りを明るく照らし、カレーのようにみんなに愛されるように」という願いに加え、英語で書くと「a curry」となる愛娘のあかりちゃんと、花言葉に「幸せな家庭」「家族愛」などがあるスパイスのセージから名付けられた誠詞くん。好きなものを一緒に楽しむ家族も大きなエネルギー源だ。

探求を続けてきた多方面の「好きなこと」と予防歯科の分野での実績が結実し、「今までバラバラだったものが一つにまとまり始めた」と笑う泉井さんは、これからも好きなことへエネルギッシュに進んでいく。

● 泉井秀介(いずい しゅうすけ)

大阪府出身、歯学博士。大阪外国語大学を経て2006年、大阪大学歯学部に入学。2012年に卒業し、現在は大阪大学大学院歯学研究科の口腔分子免疫制御学講座予防歯科学教室に招へい教員として所属しながら、大阪市生野区巽東で医療法人あかり会「いずい歯科クリニック」を運営する。高校卒業前後からカレーを食べ歩き、スパイス研究家としてもテレビ、雑誌などで活躍中。

(本記事の内容は、2022年2月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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