2025年は、“量子100年!” 阪大QIQBがつくる、次の100年。

2025年は、“量子100年!” 阪大QIQBがつくる、次の100年。

2025年に大阪大学がつくる「未来」は、万博だけじゃない! ハイゼンベルクによる行列力学の提唱など、量子力学の“はじまり”から100年。国連総会がユネスコの「国際量子科学技術年(IYQ)」と定めた2025年は、量子研究の最先端を走る阪大にとっても重要な1年だ。IYQ公式サポーティングパートナーに就任した大阪大学 量子情報・量子生命研究センター(QIQB)はこの一年、量子科学を盛り上げる多彩な取組みを展開している。


「純国産」量子コンピュータ稼働!&大阪・関西万博会場と接続!

この夏、主要部品・ソフトウェアが全て日本製の「純国産」超伝導量子コンピュータがQIQBで稼働開始!

8月14〜20日には大阪・関西万博 EXPOメッセ「WASSE」で企画展に出展し、延べ62,360名が来場。操作体験や量子もつれを使ったアート展示などを通じて、量子の世界を身近に感じる機会となった。展示エリアには、実機実行ジョブ数をリアルタイムでカウントする「エンタングル・カウンタ」も設置され、7日間で20,417件を記録。一般来場者だけでなく研究者にとっても意義を持つ成果となった。


世界中の量子研究者が大阪に集結!Quantum Innovation 2025

7月29日〜8月2日、国際シンポジウム「Quantum Innovation 2025」がIYQ Global Eventとして大阪で開催され、QIQBがホストを務めた。

世界各国から専門家や企業、学生など過去最多の総勢約1,000名が集まり、最先端の知見が活発に共有された。IYQ、大阪・関西万博の年に大阪で行われた本会議は、国内の量子国際会議史上最大規模となり、日本が世界の量子研究・人材育成を牽引する可能性を強く印象づけた。ここで生まれた交流と成果は、今後の発展につながると期待される。



あべ俊子文部科学大臣来訪時に撮影 右後ろにあるのがQIQBの「純国産」量子コンピュータ

「一家に1枚」科学技術週間ポスターを監修

文部科学省発行の学習資料「一家に1枚 量子と量子技術 〜量子コンピュータまでの100年!~」の企画・監修を担当。全国の量子の専門家と協力しながら、中高生向けに量子の世界の奥深さを発信している。

※閲覧・ダウンロードは こちら




大阪大学 量子情報・量子生命研究センター Quantum Cross Talk

学術を融合・深化させる、量子研究の「ワクワク」を語り尽くす

▶「QIQB」とは、どんな組織?

北川:大阪大学QIQBは量子コンピュータを中心に、量子センシング、量子通信、量子生命科学など量子分野の研究開発に幅広く取り組んでいる、日本ではまだ少ない研究組織です。
根来:2018年の発足から徐々に輪を広げ、現在は専任・兼任合わせて86名(2025年5月現在)のメンバーが活躍中。量子の専門家だけでなくエレクトロニクス、化学、AI、生物学、エンジニアリングなど、幅広い分野の人材が集まっている点が組織の強みです。

北川:量子力学は信頼性の高い理論でありながら不思議な性質を合わせ持ちます。量子コンピュータではこの不思議な性質が力を発揮。それを社会実装するには量子とはこれまで縁遠かった異分野の力が必要です。QIQBでは分野や立場を超えた共創を当たり前に行うことで、世の中にまだない量子イノベーションの実現に取り組んでいます。

▶「量子」という研究テーマの魅力とは?

根来:「世界を変えられる技術」であると同時に「実現がとにかく難しい」という点に魅力を感じています。一見不可能に見える道のりだからこそ、ゴールに辿り着いた時に得られるインパクトも絶大。現代社会の課題を一気に解決してしまう可能性の大きさに、夢中になっています。

北川:量子コンピュータの性能が進化すれば、スーパーコンピュータでも手に負えない問題が計算可能に。酵素反応など生物の営みを解明・模倣してエネルギー・温暖化・食料問題を同時に解決するなど、人類が持つ科学技術力を一段上のフェーズに押し上げることにつながっていきます。


▶阪大量子研究の現在地について、教えてください!

北川:2023年に実現した日本で3番目となる量子コンピュータに続き、この夏、主要部品・パーツやソフトウェアが全て国産で作られた新たな量子コンピュータの稼働に成功しました。

根来:量子コンピュータを開発し始めた際、海外から部品の供給を断られることがあり、優れた理論や技術があっても、海外に頼らないとコンピュータを組み上げられないようでは、日本の純粋な競争力を高められないぞ、と感じたんです。そこから全国の技術者や工場の方々の力を借りて、部品の生産に着手し純国産の量子コンピュータ実現に至りました。

北川:純国産量子コンピュータは、万博で開催された企画展「エンタングル・モーメント [量子・海・宇宙]×芸術」でお披露目。来場者はクラウドを通じてこのコンピュータに接続し、操作を実際に体験いただきました。

根来:企画展では、量子コンピュータをアートと結びつけることにも挑戦。“量子もつれ”を用いたアート作品を展示することで、科学以外の切口から量子に興味を持つ人を増やすことが狙いです。

北川:小学生の頃、70年万博に20回以上足繁く通って最先端の科学技術に触れたことは、私が研究者を志したきっかけのひとつです。だからこそ、今回の万博への出展は、子どもたちが楽しめることを重要視して企画を立案しました。展示を見て「量子ってワクワクする」と思ってもらい、数十年後に活躍する量子物理学者が誕生すると嬉しいですね。

▶IYQを経たQIQBがめざす今後の目標は?

北川:IYQのイベントを大阪で行えたこと自体が、大きな成果だったと感じています。万博イヤーであることも相まって、世界中から量子界の巨人たちが大阪に集結。QIQBがホストを務める「量子科学・技術・イノベーション国際シンポジウム(Quantum Innovation 2025)」には、約1,000名の専門家、各国政府関係者、学生に参加いただきました。量子関連でこの数字は異例です。

根来:シンポジウムや万博に人が集まることの意義は、そこから出会いが生まれる、という所にあります。専門家や学生、量子ビジネスを検討する産業界の方々。イベントを通じて多くの人が知り合うことで、思いがけない共創が生まれ、未知のイノベーションにつながっていくことを期待しています。

北川:量子研究はまだまだ発展途上。継続的な進歩のためには、これからを支える人材の育成や思いがけない発見を生む出会いなど、「人」という側面の強化が必要不可欠です。海外で量子研究を牽引しているのはGoogleやIBMといった巨大民間企業ですが、QIQBは阪大に属する組織。「教育機関である」という特色を生かし、2025年以降も量子という概念の普及に取り組んでいき、人材育成、産学連携に向けた出会いと機会づくりに力を入れていきたいと考えています。



(※この記事は、2025年10月発行の 大阪大学NewsLetter 93号 に掲載したものです)


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