大阪大学債は覚悟の一歩_サスティナビリティボンド300億円起債のインパクト

大阪大学債は覚悟の一歩_サスティナビリティボンド300億円起債のインパクト

大阪大学債は覚悟の一歩_サスティナビリティボンド300億円起債のインパクト

教育研究施設などの充実の加速を目的として、大阪大学は2022年4月28日、300億円に上る大学債(大阪大学 生きがいを育む社会創造債)を初めて発行した。国立大学法人としては東京大学に続いて2例目。環境的課題、社会的課題の両方に取り組む事業資金を調達するための債券「サスティナビリティボンド」としての発行であり、これは国内の大学では初めてとなる。従来、国の予算が付かなければ前進しなかった施設整備計画が、自前の資金調達により最速・最短での実現が可能となった。一方、金利負担は1日あたり96万円に上り、40年後には300億円の一括償還が必要だ。営利組織ではない大学が負うには、過大なリスクにも見える。この2年間、投資家への説明など起債の準備に努めた中谷和彦理事・副学長(財務・施設担当)に展望を聞いた。

■35社が手を挙げ完売

- どのような経緯で、大学債の発行に至ったのですか?

2年ほど前、東大総長(当時)の五神真先生のエッセーを読む機会がありました。「資金の裏付けのない大学改革は無意味だ」という趣旨のことが書かれていて、財務担当理事の私としては「困ったな」と思ったのを覚えています。大学を良くしていくには改革が必要。でも、原資がないなあ、と。ちょうど同じ頃、「東大が大学債を発行する」という話を聞いたので、我々も起債についての勉強を始めました。

- これまでの国立大学では債券の発行はできなかったのでしょうか?

これまでは、プロジェクトファイナンス型の大学債、すなわち債券発行によって調達した資金で実施する事業が生む利益で償還原資が用意できる場合に発行が限定されていました。例えば、大学病院の再開発などです。研究棟など直接利益に結びつかない施設だとできなかった。でも、国立大学法人法が改められ、コーポレートファイナンス型が認められました。つまり、大学が持つ寄付金などの業務上の余裕金を償還原資に充てられるようになりました。東大が2020年10月に大学債を発行し、「我々も資金調達をすべきではないか」という思いが一層強まりました。

- 具体的にどのように進められたのでしょうか?

本格的に準備が始まったのが21年夏。まずは執行部で「本当に債券を発行するのか」という意思統一を図るのに時間をかけました。大学を発展させるのに必要な事業規模を調べると1300億円の資金需要がありました。ただ、1300億円は巨額すぎる。一部だけでも資金を調達していこうと、発行額300億円の規模感が見えてきました。学内に向けても丁寧に説明を進め、22年3月に役員会等を経て正式に発行が決まりました。

- 今回の大学債発行には大きな反響があったとお聞きしました。

はい。文部科学大臣の認可を得て4月に大学債を販売したところ、35の企業・団体から計2400億円分の購入申し込みをいただき完売しました。ありがたいのと同時に、ご期待をいただいていること、事業体として新たな一歩を踏み出したことに身の引き締まる思いです。

■投資家の期待大きく

- 投資家の方からはどのような声がありましたか?

発行を決めた3月から4月にかけて、IRとして私や財務担当者で、投資家向け説明会を56回設けました。反応は非常に良かったです。例えば生命保険会社などに好意的に受け入れてもらいました。東大に続く大学がなかった中、300億円規模での発行であったことで、今後、大学債という新しいマーケットができていくのではないかというのも好感の理由だと思います。

- サスティナビリティボンドである点が東大債との大きな違いですね。

はい。サスティナビリティボンドであったことも大きく評価されました。当初は、東京大学と同じくソーシャルボンド(社会的課題を解消する事業のための債券)での計画も考えましたが、大阪大学では省エネ大賞の受賞や、箕面キャンパスでのLEED-Gold認証取得、新築する全ての建物をZEB化する方針決定など、以前から環境に配慮した取組で十分な実績があるので、環境と社会問題に資する事業計画にすることにしました。社会的責任投資と言って、投資家からすると、大阪大学の債券を買うことでSDGs(持続可能な開発目標)等の社会課題解決に向けた取り組みへの支援を表明することができます。この点も大きな成功要因だったと思います。

- 大学債は債券ですので、どのように償還するかは重要な課題です。どのように計画されていますか?

償還計画については、業務上の余裕金を積み立てていきます。まず大阪大学独自の基金は150億円を年1.8%で運用して2.7億円を得る。それから、産学官連携推進活動経費の本部分で6億円、所有する土地などを運用することで1億円、1年間で計9.7億円を用意できます。このうち3.5億円を利払いに回し、残り6.2億円を積み立てると同時に、運用することで40年後には350億円程度となる見込みです。

- 改めて大学債の発行の意義を教えてください。

概算要求等で国に予算を要求する方法が主流ですが、国の財政状況では、満額認められることはほぼない。例えば、認められた予算が7割だったら「人を減らそう」「追加で予算要求しよう」となります。大学債は、「本当に必要な事業ならお金を自前で調達してやってみようよ」という姿勢の表れとも言えます。現在の制度では、大学債の使途は固定資産にひも付いたプロジェクトに限定されているので、人件費やソフトな予算には使えません。ただ、企業なら当たり前のように社債を発行して資金を調達していますから、大学債発行は「国立大学もある意味で同じフェーズに入った」と捉えています。

- 最後に感想と、今後の展望を教えてください。

今回、大学債を発行したことは非常に良かったです。一つは「大阪大学は新しいことに挑戦するんだ」という姿勢を改めて示せたこと。二つ目はIR活動を通じて、投資家に大阪大学について知ってもらう契機にできたことです。今回の大学債は5年以内に使うという決まりです。だから、早く使って資金を回収するステージに入る必要があります。大阪大学が生き残るには、世界に伍する大学になっていかないといけない。国内はもとより、アジアをはじめ世界中の多様な学生や研究者に大阪大学を選んでいただきたい。生きがいを育む社会を創造できる大阪大学へと発展できるように、今回の大学債による事業を進めていきます。

■ 生きがいを育む社会創造債 特設Webサイト

https://www.osaka-u.ac.jp/ja/guide/publications/bond

(※ この記事は、2022/9/30発行の大阪大学NewsLetter87号に掲載したものです)

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