StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

加納純子准教授は、染色体の末端部、細胞の老化タイミングを司り生命維持に重要なテロメアと、隣接するサブテロメアについて研究している。「サブテロメアのわずかな構造異常によって、多発奇形や精神遅滞などの遺伝性疾患が発症する。この仕組みを解明したい」と熱く語る。

解明の鍵は加納准教授が新機能を発見した蛋白質「シュゴシン」だ。この蛋白質は染色体の中央部(セントロメア)で細胞分裂するタイミングを制御することで知られている。しかし、セントロメアで働くべきシュゴシンがサブテロメア領域にしばしば出現することに注目し、シュゴシンがこの領域の遺伝子群の発現維持や、複製のタイミングをも制御していることを発見した。この研究を更に進め最終的には「自身の基礎研究を深めるだけでなく、臨床も含めた大きな枠組みで疾患の予防や治療に貢献したい」と目を輝かせる。

サブテロメアは未解明部分が多く「先天性疾患だけでなく、人間の進化の秘密が隠されているかもしれない」と加納准教授は考える。「人間とチンパンジーなどの類人猿はDNAが99%一致するというが、類人猿のサブテロメアとは全く違う。サブテロメアの違いによって人間が人間になった可能性がある」と話す。なお加納准教授をトップとする研究室にはおサルの「ボスざる」が鎮座している。

学生時代はテニスで活躍、近年はバイオリンに熱中するなど多趣味だが、殊にフィギュアスケート観戦は子どもの頃から親しみ、現在は羽生結弦選手に注目している。同選手の長期計画をもとにした練習姿勢は、加納准教授の研究姿勢とも通じる。「研究は短距離走ではなくマラソン。休まず走り続けるプレッシャーはあるが、またそれ自体も楽しみ」と力強く語る。

●加納純子(かのう じゅんこ)

1991年東京大学理学部生物化学科卒業。96年同大学院理学系研究科生物化学専攻修了、博士(理学)。同大学医科学研究所研究員、米スクリプス研究所研究員、東京工業大学生命理工学研究科助手、京都大学生命科学研究科助教を経て、2009年大阪大学蛋白質研究所特任准教授、13年同研究所准教授(細胞核ネットワーク研究室を主宰)。専門は分子生物学、生命維持活動における染色体制御機構の解明。

(本記事の内容は、2016年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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