StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

笹井美和助教は免疫学の専門家。「ヒトにも感染する寄生虫のトキソプラズマ原虫が、免疫細胞に、『トロイの木馬』さながらに潜り込み体内に拡散する」ことをつきとめた。

小学校時代は理科の自由研究が大好きで、カビの発生や切り花を長持ちさせる方法などについて調べた。研究の道に入ったきっかけは、高校時代に診断された自己免疫疾患の疑い。「本来なら生体内に入り込んだ異物を排除し、からだを守るはずの免疫機構が自分自身を攻撃するという理不尽なメカニズムに、持ち前の研究心が湧き立ちました」

以来研究者を志すが、平坦な道ではなかった。大学で在籍した生物科学科は免疫を学ぶ環境ではなかったうえに、卒業研究では指導教員から、細胞培養の基礎を徹底的に厳しく指導された。「スパルタ教育で辛い毎日でしたが、今にして有り難みがわかる」としみじみ語る。

これから研究の道に進む後輩には「10年先をイメージして、好きなことを突き詰めて」とアドバイスする。「振り返れば何度も岐路がありましたが、大好きな研究に生きたいという志を大切にしてきた」からこそ、今がある。

趣味は、料理やランニングなど多彩。「美味しいものを食べて、健康でいたいから…。全部実益重視なんです」と笑う。女性研究者の仲間とも「モツ鍋や焼き鳥をつまみながら、日常生活の実益談義で盛り上がる」という。「ひょっとすると、これがリケジョ(理系女性研究者)の嗜好の核心かもね」とお茶目に笑う。

今後は、妊娠初期におけるトキソプラズマ初感染時の胎児感染防止のためのワクチン開発や、免疫細胞に乗り込み広がる特性を生物媒体として逆用したり、免疫活性化を図る研究につなげていく。「人々の未来に役立つ研究をしたい」。大きな抱負を屈託のない笑顔で語った。

●笹井美和(ささい みわ)

2002年奈良女子大学理学部生物科学科卒業。奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科に進み、07年博士(理学)。同年、日本学術振興会海外特別研究員として米国・イェール大学に5年間勤務、12年大阪大学微生物病研究所感染病態分野助教。

(本記事の内容は、2016年3月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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