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阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

菅原由美准教授はインドネシア近代史の専門家。これまで、見逃されてきたアラビア文字で書かれた文献にスポットライトをあてた斬新な研究で知られる。「中学のころにキリスト教に興味を持ち、新・旧約聖書を読み終えました。イスラム教の歴史観や世界観にも惹かれ、その分野の研究者に進みました」と話す。

「インドネシア植民地時代の史料は、宗主国のオランダ語のほか、現地語で貴族階級が使っていたジャワ文字、そしてイスラム教集団が使うアラビア文字で書かれた文献がある」という。

それぞれ、当時の異なる立場や階層を代表する文献の研究は、「文字も言語も多岐にわたるため、これまではオランダ側からの視点のみに止まっていました。ジャワ文書を読み解き、立場の異なる複数の観点から見た多義的解釈を採用し、時代の姿を立体的に浮かび上がらせました」と語る。

学生とともに、現地で歴史性や文化などを実感できるフィールドワークにも力を入れる。「地域・文化の『今』を通して歴史をさかのぼります。学生はすぐに現地に溶け込み、帰国後もSNSなどで親交が継続できるいい時代。それだけに情報や感覚だけに流されず、正しい言語を習得し、自ら思考・判断できる次世代を育てたい」

今後は「植民地時代からさらに遡り、現地語文書から前近代のジャワ・イスラーム史を解明したい」と抱負を語る。近代化の中でインドネシアでは、地域文化や歴史的文献が急速に失われつつあるという。文書が神聖視されるあまり死蔵され、津波など自然災害が追い打ちをかける。「日本の文化財保護機関の力も借りて、現地の地域文化や歴史的文献を守り、再生する活動にも力を入れています。ジャワの文化・歴史を分断させないため、次世代に研究材料を残していきたい」と目を輝かせる。

●菅原由美(すがはら ゆみ)

1992年東京外国語大学外国語学部インドネシア・マレーシア語学科卒業。2002年同大学院地域文化研究科単位取得、学術博士。05年天理大学講師を経て、10年大阪大学世界言語研究センター講師、12年言語文化研究科准教授。専門はインドネシア近代史。14年東南アジア史学会賞を受賞。

(本記事の内容は、2015年12月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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