StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

新たな オープンイノベーションを展開

カネカと大阪大学の共同研究がスタートしたのは2008年4月。カネカの重点戦略分野の一つである環境・エネルギー分野における共同研究を強化するため、「カネカ・エネルギーソリューション共同研究部門」が大阪大学内に設置された。その後、共同研究部門から規模を大きくした「協働研究所」制度の新設を機に、新たなオープンイノベーションの仕組みを構築。カネカ基盤技術協働研究所を阪大内にスタートさせた。「カネカは従来からオープンイノベーションに積極的な企業。大学や他企業の技術を導入・活用する手腕に長けています」と話す。

2045年問題にも挑戦

カネカ協働研のビジョンは、「エネルギ ー・基盤技術・融合領域への挑戦」。エネルギー分野では、「有機ELの高効率化、長寿命化技術」と「高効率新型太陽電池の開発」に取り組む。「有機ELに関しては、LEDの光学特性に並ぶ照明用材料の開発をめざしています。さらには、壁面など薄いところでも設置できる薄型照明や、人に優しい光などの新しい光の文化を創造したい」。また太陽電池に関しては、「薄膜太陽電池関連技術を生かした、(新型太陽電池と呼ばれる)ペロブスカイト太陽電池・材料の研究に、工学研究科と取り組んでいます」

「基盤技術、融合領域」では、情報科学研究科、接合科学研究所、産業科学研究所などと連携。「コンピュータの性能が人間の脳を超えると言われる2045年に、カネカが100年企業として生き残るためにも、化学・バイオ反応シミュレーションやインフォマティクスなど、ICT・情報通信分野とのつながりを深めていきたい」と力を込める。

大阪大 学COIと協働した技術開発も

大阪大学センター・オブ・イノベーション(COI)における協働プログラムも進んでいる。例えば「パッチ式ウエアラブルセンサー」。産業科学研究所の関谷毅教授を中心に開発が進められている。額に貼って脳波を測定しようとするもので、「頭にいくつもの電極を装着するなどのストレスが無く、子どもや高齢者にも負担が少ない。カネカはセンサーと人体をつなぐための粘着剤を開発し(右図)、提供しています」。貼っていても蒸れない・かぶれないよう、からだとの親和性が必要で、さらなる改良に向けた技術開発が行われている。

また現在、化学材料の開発期間が長期にわたることが、日本の化学メーカーで大きな課題となっており、「情報科学研究科や基礎工学研究科などと連携し、開発期間を短縮するプロジェクトにも本格的に取り組んでいきたい」と話す。

距離が近 くフレキシブル

企業の研究部門が大阪大学内にあることについて、「日本で最もイノベーティブな大学と組めるのは大きなメリット。コミュニケーション密度は距離の二乗に反比例すると言われますが、先生方が驚くほどフレキシブルで付き合いやすく、気軽に一生懸命相談に乗ってくれます。またカネカ協働研のメンバーが、専門技術の高度化をめざして接合科学研究所や情報科学研究科で学び、博士号取得に取り組んでいます」という福井所長自身も大阪大学工学部出身だ。

「ものづくり」&「ことづくり」ができるリーダー育成へ

カネカ協働研は将来を見据えた人材育成にも力を入れている。「会社の組織図とは異なるバーチャルなチームを作らせ、リーダーシップを発揮する訓練を行っています。これは、大学・会社・研究所・事業部に横串を通す協働研究所内の独自システムで、メンバーのマネジメント能力育成などが目標。会社という大きな組織では人が歯車の一つになってしまうケースもありますが、ここではリーダーになれる。やりがいに関しては、どこの研究所にも負けないと思っています」

現代は「ものづくり」だけでなく、「ことづくり」やソリューションへの取り組みも求められる。「ものづくりとことづくりの両方ができる人材、化学も情報通信もわかる人材を、大阪大学の環境と資源を活用して育成していきたい」と期待を込める。

阪大の資 源に着目

福井所長は、大阪大学工学研究科修士課程を修了後、カネカに就職、大阪本社のR&D(研究開発)企画部で活躍し、2015年5月から、カネカ協働研所長として、研究活動を先導している。

今後については、「今、IoT 、人工知能、ビッグデータの活用などが重要なキーワードとなってきています。しかし化学会社であるカネカが、そのような分野に単独で取り組むことは難しく、大阪大学の持つ知的・技術的資源に着目しています」

※IoT:モノのインターネット(Internet of Things)

ビジネスモデル変革の起点に

テクノアライアン ス棟には現在7社が協働研究所として入居している。「交流会などを通じて企業同士の交流も深まりつつあります。今後、協働研究所同士の共同研究なども実現すればさらに大きな成果が期待できると思います」

カネカ協働研がめざしているのは、R&Dや、ビジネスモデル変革の起点になること。さらに「テクノアライアンス棟を、そして母校である大阪大学を産学イノベーションの世界的な拠点にしたいと考えています」と締めくくった。

(本記事の内容は、2015年12月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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