StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

次世代に期待の不揮発性メモリ

─不揮発性メモリとは、どのようなもので、なぜ世界で注目されているのでしょうか。

不揮発性メモリとは、電源を切っても記憶した情報が消えないメモリです。パソコンなどのメモリであるDRAM(揮発性メモリ)は基本的に、電源を切ると、記憶内容が除去されてしまいますから、ハードディスクなどに落として記憶させています。一方の不揮発性メモリは、DRAMとハードディスクを合わせたようなもので、一度書き込むと、電源を切っても記憶した内容を置いておいてくれます。また不揮発性メモリ自体が記憶している状態ですから、必要な情報をハードディスクまで呼びに行く必要がなく、起動も速くなりますし、待機電力も違ってきます。現在、揮発性メモリであるDRAMを置き換える低消費電力の次世代メモリ技術として、不揮発性メモリが注目されているのです。

長年の謎だった電気の伝わり方

─その不揮発性メモリ(消えないメモリ)開発の有望な素子とされるのが、抵抗変化不揮発性メモリ(ReRAM、メモリスタ)ですね。どのような特徴を持っている素子なのですか。

不揮発性メモリには多様な形式がありますが、最も一般的なものがフラッシュメモリで、実際に世の中で多く使われています。しかしモバイル機器用の小型化や記憶容量に限界があるため、産業界が注目しているのが、金属ではさんだサンドイッチのような構造をしている抵抗変化不揮発性メモリ(ReRAM メモリスタ)です しかしReRAM、メモリスタは、全く異なる動作特性である電界極性依存性が存在します。すなわち、プラスとマイナスの電界の極性反転が必要な「バイポーラ」と呼ばれるメモリ動作と、電界の反転を必要としない「ユニポーラ」と呼ばれるメモリ動作の二つの性質があり、どのような条件でそれらの性質を持つのか大きな謎だったんです。まず素子を作ってみて、その電気の伝わる性質がかわってからでないと製品開発ができませんでした。双極性と単極性では構造からすべてが異なるためです。今回の研究成果では、この二つの性質が現れる基本的な動作原理がわかったのです。

素子の大きさで動作特性が決まる

─どのような仮説を基に、メモリスタの動作特性の謎に取り組まれたのでしょうか。

従来はそんなに重要ではないと思われていた「素子の大きさ」に注目しました。全く同じ材料なのに、素子が小さいと電界が強くてもバイポーラとなり、素子が大きいと電界が弱くてもユニポーラが現れることがわかりました。これは非常に面白いなと思い、違う材料でも実験してみましたが、同様の現象が見られました。素子の大きさというものが、メモリスタの非常に重要な動作特性、「バイポーラ」「ユニポーラ」を決めているのだという原理的な部分が解明できたことで、今後の信頼性の高いメモリ設計に貢献できると思っています。「大きさで決まる」という結果だけをみたら、非常に簡単なことなのですが、この原理が長い間謎だったのです。

─柳田先生は材料科学の分野で、ナノ構造の研究に携わってこられました。それらの知見や技術が謎の解明につながったのでしょうか。

今回のアプローチは、他の研究者と比較して非常にユニークだったと思います。私はナノ材料の研究をしていて、自然の摂理に立脚した自己組織化現象により形成される極微サイズの「金属酸化物単結晶ナノワイヤ」を用いた実験を重ねました。大きい素子を作るのは比較的簡単なのですが、小さい素子を削って作るのは結構難しく、私たちは10 nmという極端に小さいナノワイヤ素子を材料とすることで、固体内部に隠れていて見えなかったメモリスタの動作起源を明らかにすることができました。それによって、大きさに基づく実験考察ができたと考えています。

究極のデバイスを開発したい

─なぜ素子の大きさが「バイポーラ」「ユニポーラ」を決めるのですか。

調べてみた結果、私たちが実験材料として使用した金属酸化物のイオン(金属イオンと酸素イオン)の きに関係するようです。酸素イオンは「O 2- 」という「−」ですが、金属イオンは「+」になります。そのO 2- のイオンが「+」の方に動こうとする事象が、どうやら大切なのだとわかりました。また、そもそも材料というものは不均質で、原子の並びに弱い部分があります。大きい素子ほど弱い部分が多く、その弱い部分がつながって電気が伝わってしまい、ユニポーラが出現します。そして小さい素子ほど弱い部分が少ないため、つながる確率が低く、電気が伝わりにくくなり、ユニポーラはなかなか出現しません。つまり大きい素子ほど、電気が伝わりやすい道筋が多いということです。

─メモリスタの動作原理の解明は、記憶媒体の小型化や大容量化だけでなく、今後どのような技術の可能性につながっていくのでしょうか。

論文を発表した時は予想以上の反響があり、世界中の半導体などの企業から「資料が欲しい」といった依頼をいただき、驚きました。私は、この研究には二つの役割があると思っています。一つは、メモリスタの優れた特性を明らかにする「チャンピオンデータ」としての役割。もう一つは、現在のように、貴重なエネルギーを使用し削って作成する多結晶デバイスではなく、自己組織化した単結晶そのものを使う、安定した究極のデバイスの開発です。そして単結晶の非常に丈夫で割れにくいという特性を生かし、私たちのカラダに近い、しなやかな電子デバイスなども将来的に開発できればと思います。衣服などに装着して、その人の健康や周辺環境をモニタリングし、採取したデータを本人や医療機関に伝えるような画期的なアプリケーションにつながる、基礎技術の開発にも取り組みたいですね。

(本記事の内容は、2013年12月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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