StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

大学院生がプロとマンツーマンで製品を創出

「実学主義」のプログラムが開講したのは2013年。未来の科学技術アントレプレナー(起業家)の育成に取り組む産学連携本部の「e-square/吹田キャンパス」で、協力企業と密接に連携した独自講座が実施されている。産学連携本部は、科学技術アントレプレナーの育成を目指し、企業と共同研究や委託研究を進めてきた。「その実績を基盤に、主に大学院生を対象として誕生した全学的教育プログラムです」と濱田格雄特任講師。

業における製品開発の流れを強く意識した構成となっており、「製品企画」、「製品開発」、「製品評価」がプログラムの柱。「製品企画」では、発想の源やニーズを発掘するためのインタビューなど、情報収集のためのスキルやコミュニケーション力を身につける。「製品開発」では、アイデアを練りあげ、実際の販売をめざした商品開発や、ニーズ調査・発想法を学んだ上でのビジネスプラン作成にチャレンジする。そして最後の「製品評価」では、工場などから出る端材のアップサイクル に取り組み、実際のものづくりを体験する。「例えば製品評価の講座では、一人の受講生に一人のクリエイター(協力企業から派遣)が付き、プロと一対一の体制で商品を完成させていく。これは『実学主義』を象徴する特徴的な講座だと思います」

※アップサイクル…工場から出る端材にデザインを加えることで付加価値を与え、商品として蘇らせること。


▲「製品開発」講座の最終発表会では、企業の開発担当者の前で商品企画のプレゼンを行う


▲発表をみつめる企業の開発担当者の目は真剣で、質疑応答では鋭い質問がとぶ

異分野融合教育で 大学院生に「企業マインド」を

「実学主義」は、主専攻の教育課程以外の内容を学ぶ高度副プログラムとして位置づけられ、大学院課程の期間中に、開講されている6講座の中から4講座を履修すると、高度副プログラムの修了証が授与される。個別の講座のみの受講や、学部生の受講(単位取得は不可)も認められている。また「測定装置や計算機の基礎知識が求められるプログラミング系の講座以外は、文系大学院生も十分に理解でき楽しめる内容。製品開発などでは、むしろ文系の受講生がリードするケースが多い」と濱田講師は笑う。

受講生に期待することは、「社会に有益な科学技術を生み出そうとするマインド、何でもやってみようとトライする精神、より良いものを探求していく姿勢を身につけてほしい。e-squareは、3Dプリンターやレーザー加工機などの最新機器を備え、試作品が作れる環境も整っている。そのため、ものづくりに対するハードルが下がったという受講生も沢山います。また、所属するラボでの研究活動や行事と両立させるためのタイムマネジメントなどを通じて社会人基礎力を身につけ、社会で困難に見舞われた時にも自ら対処して前に進める突破力のある人材に育ってほしい」。自分の専門とは異なる多分野の大学院生との交流により刺激を受け、受講生同士のネットワークも広がりつつあるという。

「開発途上のプログラムなので、可能性はまだまだ広がっている。今後はラボの研究と融合できるような形を模索し、彼らの専門性も引き出したい。それがこのプログラムを実施する意味でもあると思います」

大学にも協力企業にも 意義のある講座として成熟を

協力企業とのさらなる連携も模索している 「企業の問題解決の一助となることを目指しています。講座を通じて受講生は、企業の内部にまで入りこみ その企業の問題点をしっかりと咀嚼したうえで解決案を提案する。実際に製品づくりの面で協力企業に貢献できた嬉しいケースもあります。『実学主義』はアントレプレナーシップ教育を通じた非常に密接な産学連携です。大学と企業、相互に意義のある講座として成熟させたい」

スタートから4年目を迎え、受講生の延べ人数は約200名。修了要件を満たして卒業式で修了証を授与された大学院生は8名。「今後はさらに多くの企業の協力を得て、講座の数を増やしたい。将来的には、講座で発案された優れたアイデアをうまく商品化して、受講生を実際の事業化のスキームに組み込みたい」と大きな目標を語った。

受講生インタビュー

起業に興味も 新しい自分を発見

川﨑 愛結美さん
(工学研究科 生命先端工学専攻 生物工学コース)

所属するラボでは、植物の遺伝子資源を有効活用するための研究・実験に携わっています。社会に役立つものを作りたいという思いが強く、実学主義のプログラムを知って、ぜひ受講したいと思いました。実際にものづくりを体験してみて、人と人のつながりの大事さを知ると同時に、専門が異なる人たちの意外な発想に驚くなど、さまざまな気づきがありました。また自分のアイデアが形になり評価された時は本当に嬉しかったです。

研究職志望でしたが、プログラムを受講して、生物工学系の知識を活かして起業してみたいとも考えるようになりました。大学院生にとってラボのスケジュールとの両立は大変ですが、受講することで世界が広がり、新しい自分を発見できると思います。

企業担当者の声

自ら考え行動を起こしゴールに到達できる人材に

小山 明男 課長
(株式会社サンプラテック企画開発部)

弊社は実験器具・機器のメーカーで、実学主義の講座では「製品開発」の講座を担当しています。大切にしているのは、自分のアイデアを商品化していく具体的プロセスを体験してもらうこと。それにより、自ら考え行動を起こしゴールに到達できる人材が育ってほしいですね。商品化に至るまでには様々な壁が立ちはだかりますが、受講生の皆さんは悩みながらも、最終報告会では製品の形態まで提案していて感心しました。今後、異なる知識・技術を持つ受講生同士のコミュニケーションがさらに密になれば、製品開発のアイデアもレベルアップしていくと思います。この講座から実際の新商品が誕生し、受講生の自信につながることを期待しています。


株式会社サンプラテック(大阪市北区同心2-1-3)

1960年創業。プラスチック製理化学機器の製造販売を行う。2012年に業界で初めて女性研究者向け実験器具カタログ「Platine(プラティーヌ)」を発刊。ここ数年はライフサイエンス系分野に本格参入しiPS細胞ライブ輸送システム「iP-TEC(アイピーテック)」をリリースし注目を集めている。
ホームページ https://www.sanplatec.co.jp/index.asp

(本記事の内容は、2016年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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