年間70万人が訪れる体験型食育施設
阪急池田駅から徒歩5分、閑静な住宅地に溶け込むように、延べ床面積3423平方㍍の記念館がある。「子どもたちに発明・発見の大切さを伝えたい」という安藤百福さんの思いを形にと1999年に開館。体験型食育ミュージアムとして人気を得、年間約70万人が訪れる。外国語学部3年の内田汐美さんと同2年の川越紫乃さんが訪ねた日も、平日にもかかわらず小中学生の団体や海外からの観光客らでにぎわっていた。
入館してまず目を引くのが「インスタントラーメン・トンネル」。これまでに同社が発売した商品のうち、約800種を壁面から天井にかけて展示している。「これはほんの一部で、年間300種類以上の新商品が発売されています」と話す日清食品ホールディングス広報部、村上瑛子さんの言葉に、内田さんも川越さんもびっくり。
「ひらめきは執念から生まれる」
─世界初のインスタントラーメン誕生─
世界初のインスタントラーメンは、安藤さんが「お湯さえあれば家庭ですぐ食べられるラーメン」を目指して生み出した。戦後の食糧難の時代、大阪駅近くの闇市で、一杯のラーメンを求めて列を作る人々の姿を目にしたのがきっかけだった。1年間、平均睡眠時間4時間で研究に打ち込んだという。
開発の舞台となった小屋を館内に再現。「難しかったのは麺を長期保存させる方法で、安藤百福の奥さんが天ぷらを揚げているのを見てひらめいたのが、麺を油で揚げて乾燥させる瞬間油熱乾燥法。チキンラーメンが生まれるカギとなりました」と村上さん。鍋釜や計量器などが並ぶ小屋を見学し、内田さんらは「身近なものからでも発想と工夫で発明ができるのですね」と感心。普及し始めたテレビでのCM展開による新しい宣伝方法(60年代)、爆発的なヒット商品となった世界初のカップ麺「カップヌードル」(71年)、安藤さんが95歳にして夢が形となった世界初の宇宙食ラーメン……。「ひらめきは執念から生まれる」と信じる安藤さんのベンチャー精神と同社の歩みの展示を、2人は興味深そうに見つめていた。
阪大生もチキンラーメン作りに挑戦
「チキンラーメンファクトリー」では、小麦粉をこねたり製麺機で延ばしたりといった1時間半の工程を体験。日ごろの料理とは勝手が違う作業に初めはとまどいながらも、楽しく参加。手描きの袋に詰められた〝自作〟のチキンラーメンを手にした2人は「賞味期限いっぱいまで飾っておいて自分で食べます」と笑顔だった。
「マイカップヌードルファクトリー」では、外国語学部2年の堀井新平さんがアルバイトスタッフとして勤務。好みのスープと具材を選んでオリジナルのカップヌードルを作れる工房で来館者の案内をしていた堀井さんに、内田さんと川越さんは「働く中で勉強になることはありますか」と質問。アルバイト歴1カ月半の堀井さんは「商品開発の際の常識を覆す〝逆転の発想〟など、社史に学ぶことがたくさんあります。来館者には外国の方も多く、皆さんに気持ちよく過ごしてもらえるよう対応するのは勉強になります」と話していた。
INTERVIEW─ 先輩に聞く
海外に日本の食品をもっと広めたい
─今はどのような仕事をされているのですか?
中川
日清食品グループの損益を管理するのが主な仕事です。入社前は営業をすると思っていたので、財務部の配属になり驚きました。大学時代に経済の勉強はしていなかったのですが、仕事を通して鍛えられました。
山崎
広島エリアの営業をしています。小売店や卸店の販売計画を策定、売れ行きなども考慮しながら、どういった商品を陳列するかなどの提案もします。
─入社の動機を教えてください。
中川
3年の時にトルコに留学しました。トルコには日本の電機、自動車メーカーが進出していて日本企業の力のすごさを感じ、日本の食品ももっと世界に広められればと思ったのが動機です。
山崎
池田市出身で、幼い頃から日清の商品になじみがありました。海外に行った時に日清の商品が現地の人たちに親しまれているのを見て、国境を超えて愛される商品を提供する会社に行きたいと思いました。外国語学部でタイ語を学んでいたので、外国で仕事がしたかったのも大きな理由です。
─今まで一番大変だった仕事は。
中川
入社3年目で「アメリカ日清」へ1年間研修に行かせていただきました。留学経験もあり、異文化交流には自信があったのですが、「働く」ことを前提とすると違う緊張感があって、最初の2、3カ月は精神的にとてもきつかったですね。
山崎
スーパーマーケットで自社の商品を陳列するなど力仕事も多いのですが、どうすればお客さまにとって魅力的に見えるのかが難しく、何時間もかかってしまいます。先日も上司や先輩に店へ駆けつけて来てもらい、助けていただきました。
─学生時代に何か夢中になっていたことは? 今も役立っていますか?
中川
野球(キャッチャー)に熱中していました。スポーツを通じて先輩や後輩への礼儀を学んだことが、社会人になって年齢の離れた方と接するときに生かされていると思います。
山崎
タイにはまっていて、留学とインターンシップにそれぞれ1年行きました。学内では、タイを紹介するサークルを作ったのですが、みんなに喜んでもらうにはどういう活動をしたらいいかを考えた経験が、相手の気持ちになって提案することに役立っています。
─後輩へのアドバイスをお願いします。
中川
大学時代は、目的地に向かう高速道路のサービスエリアだと思います。入ったことが目的ではなく、卒業したら何をするかを考える大切な時期。いろいろな人やきっかけに出会えるように動き続けることが大事です。
山崎
阪大は学びたいことを学べる環境がそろっているので、好奇心を持ってチャレンジしていってほしいですね。学生時代の経験と人脈は、社会に出てからもきっと役に立ちます。
■ 日清食品株式会社
1958年世界初の即席袋麺「チキンラーメン」発売。71年世界初のカップ麺「カップヌードル」発売。「日清焼そばU.F.O」「日清のどん兵衛」「日清ラ王」など人気商品多数。2005年には世界初の宇宙食ラーメン「スペース・ラム」がスペースシャトルに搭載された。日清食品ホールディングス㈱が運営する大阪府池田市のインスタントラーメン発明記念館は9時半〜16時開館、火曜定休。入館無料(体験は有料)。日清食品に勤務する大阪大学卒業生は国内に十数名いる。
(本記事の内容は、 2015 年 6 月大阪大学 NewsLetter に掲載されたものです)