南海本線の羽衣駅で高師浜線に乗り換え、駅で下車。徒歩数分のところに南海電鉄の鉄道研修センターがある。車両、踏切、改札機などの実物を用いて本格的な係員養成を行う施設で、運転士免許の国家試験もここで実施される。山田健太郎所長以下5人の教師から、実際の操作もしながら「養成教育」を体験した。
厳しい養成教育、国家試験
まず概要説明。運転士になるには学科・技能あわせて約7か月の講習を受けなければならない。学科修了試験と技能修了試験に合格後、やっと国家資格である動力車操縦者運転免許証をもらえる。「追試は1回だけ。それに落ちたら元の職場に戻す」「視力は両眼 1.0 以上、片眼 0. 7以上」など厳しい条件を聞かされて、2人は目を丸くした。
さあ、現場へ。テニスコートほどのグラウンドの片隅にある「運転保安装置教材」には何と、本物の線路、踏切が設置されていた。ポイントの切り替えを目の前で見せてもらい、瀧本さんは「私も操作できますか」と申し出た。信号扱所からその操作をさせてもらい、さらに故障時を想定して手動でポイント切り替えも。その手順も安全機能が何重にも施されており、手順通りでないと操作ができない。瀧本さんはハンドルを手に、「重い! でも『安全第一』のプロセスが良くわかる!」とコメントした。
運転士・車掌の疑似体験
続いて、「車両教材」が設置された工場のような教室では、その迫力に歓声。最後尾車両を分断した本物車両の乗務員室でドアの開閉を体験した。特定の鍵を持っていなければ、関係者でもドアを操作できない仕組みになっている。「1両の長さ20㍍で、8両編成なら160㍍先まで目視。1両の片側に4か所のドアがあるので、計32のドアがきちんと閉まったことを確認しないと、出発できない」と教えられ、安全確認の徹底にうなった。
運転士教育では、実際の路線映像をもとにした運転シミュレータによる異常時訓練を行う。教師は別の場所から、「踏切事故」「地震発生」などの突発的な事象をモニター上に再現し、運転士が的確に対応できる技能を身に着けさせる。どのような状況下でも、冷静かつ確実に対応する能力が求められる。
自動改札機などの構造に感動
最後に「駅務機器教材」の部屋に入ると、「うわっ、駅だぁ」と思わず声が。自動改札機、駅係員窓口、券売機などがすべてそろっている。改札機の中をのぞかせてもらい、切符が瞬時に機械の中を流れる工程にびっくり。切符をどのように投入しても、取り出し口では表を上に縦向きになり、カードと切符2枚一緒に挿入しても見事な時間差で読み込む。また切符が詰まった場合に、お客さまをお待たせしないようにいかに早く応対するか、その苦労にもうなずいていた。
瀧本さんは「『お客さま第一』を念頭に本当に細部まで、ハード面もソフト面でも安心・安全を徹底されていることを実感できた」と、藤本さんは「平常運転が当たり前の前提。ずっと緊張感を保たれる姿勢はすごい」と、感服しきりだった。
INTERVIEW─ 先輩に聞く
自分で考えて動くことが大切

人間科学部を10年に卒業。入社後は本社勤務、駅係員、車掌、運転士、駅助役を経て、半年前に運輸指令に配属されました。ここでは列車の運行管理業務に携わっており、事故などが起こった際には、安全とお客様の利便を考慮したうえでダイヤの早期正常化に努めています。
─大変だったこと、(良い意味での)職業病のようなものはありますか。
今年4月の(13日早朝、淡路島付近を震源として近畿で震度6弱を観測した)地震で、多くの交通機関が乱れました。通常、事故はどこか一か所で発生するものですが、この時は全線の列車を緊急停止させ、対応・整理にあたりました。このような状況下で的確な判断を迫られ、職責の重みを改めて痛感しました。
駅係員や乗務員時代は、線路に異常がないか常に神経をとがらせて目視していたので、今も他社の鉄道で出勤する際につい線路の状態を気にしてしまいます。
─緊張感のある業務。心のオン・オフをどうしていますか。
トラブルがない時は、自身のために使える時間もあります。「今この時、この列車で事故が起こったらどうするか」というシミュレーションを、職場の人たちと議論し合って、異常時対応の能力を高めています。また非番・公休は海で釣りをするなどして、気分転換をしています。
─多くの命の重みを感じられながら、どんな目標を持っていますか。
そもそも事故は決して起こしてはいけません。そのためにどんなシステム・制度を構築すればいいかを考えていきたいです。またトラブル時、お客さまにできるだけ正確な情報を迅速にお伝えして、「どの列車に乗るのが早いか」を判断していただけるようにしていきたいです。
─阪大生にアドバイスをお願いします。
学生時代の空手道部では副将も務めて、「自分で考えて動くこと」を心がけました。それは社会でもとても重要。目標をもって物事に取り組まなければなりません。また人間関係も大切で、いざという時にそれが役立ちます。だから学生時代も今も、できるだけ人の輪を広げるように心がけています。
■ 南海電気鉄道株式会社
1885年12月27日創業、1925年3月26日設立。日本最初の純民間資本による鉄道会社で、阪堺鉄道を前身とする。難波─大和川間(7.6㌔)を小型蒸気機関車が走ったのが最初。難波─和歌山市間開通は1903年3月。本社・大阪市浪速区敷津東。資本金約637億円。企業グループは運輸31社、不動産4社、流通8社、レジャー・サービス23社、建設5社、その他4社で、連結従業員は約8300人。亘信二社長は大阪大学工学部OB。阪大卒業生は約40名が在籍。
(本記事の内容は、 2013 年 6 月大阪大学 NewsLetter に掲載されたものです)