大阪大学漕艇部の淀川での早朝練習は、4時半に始まる。交通機関もない時間帯のため、部員は日々合宿生活を送りながら練習に備える。艇庫に隣接した合宿所で約40人が寝食を共にする。岡崎さんは「大家族に囲まれて暮らすような感じ」と語る。
1年生の春、水面ぎりぎりを滑るように進むボートの魅力と、大勢の人が生み出すアットホームな雰囲気に惹かれて入部した。川べりの合宿所は、気が休まる場所だ。
コックスは「舵取り」。漕手に声を掛けてリズムを作り、他の艇との駆け引きを行うのが役目だ。中学・高校ではハンドベル部で活動していた岡崎さん。本格的なスポーツ経験はなかったが、入部後すぐに戦略面でのボート競技の面白さに気づき、コックスを志望した。闘い方の研究はもちろん、解剖学の専門書を読み、筋肉の動きなどについての知見を深め、選手の健康管理や戦略に活かしている。学んだことを漕手に伝え、普段からできる限り意見交換に努める。強いチームを作る要は、漕手とのコミュニケーションだと感じているからだ。
そんな岡崎さんに、社会人の強豪・デンソーから声がかかった。コックスを他チームから招へいして競技に臨むのはデンソーボート部の伝統だそうだ。現在、デンソーボート部の部長は漕艇部のOB。先輩からのオファーはうれしかったが、日本代表クラスの選手と一緒に闘うのは「正直、緊張の連続でした」と振り返る。「漕手と意思疎通をするときに、少しでもあいまいな表現をすると容赦なく突っ込まれる。いつも真剣勝負でした」
しかし、高い技術を持つ選手たちとの交流は 、 いい経験になった 。 「『今すべきこと 』 だけに集中していったら 、 自然にチームに溶け込んでいました。優勝メダルをいただけて 、 本当に光栄です」
学業とクラブ活動の向こうに、将来の自身を見すえる。目標は、高校の理科の先生になること。そして、着任した学校にボート部を創ること。「日本ボート協会が高校での指導員を養成するというメッセージを掲げているので、私も協力できたら楽しいかなと思います」と話す岡崎さんの横顔に、川面の朝日が輝いた。
(本記事の内容は、 2012 年 12 月大阪大学 NewsLetter に掲載されたものです)