StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

■ 葛藤しながら、自分で引いたレール

「跡取りは勉強しなくていいからな」――そんな周囲の声に10代の國枝さんは反発した。「実力で評価してほしい、と。ずいぶんひねくれた考えでした」と自虐気味に振り返るが、反骨精神だけではなく落ち着いた判断を重ねたことで、経営者としての土台を築いている。幼少期からの「よーじやの息子」のイメージから逃れようと京都を離れ、東京の私立大学に一度は進学したが、翌年大阪大学経済学部に入り直した。「努力を認めてもらうことを願っていました。かつ、将来自分が会社を継ぐ可能性も考えて、京都に近い大阪を選びました」と当時を振り返る言葉に、複雑な想いがにじむ。入学後は会計学のゼミに所属し、目指したのは公認会計士。受験にバックグラウンドを問われない平等性と、勉強の過程で得られる企業や経営についてのインプットの多さを重視した選択だ。難関の公認会計士試験を突破後、大阪で大手監査法人に就職。様々なクライアント企業のビジネスを財務・会計の専門家として支える経験を積んでいった。

しかし、よーじやの社長であった父の病の報せが、想定よりも早く國枝さんを京都に呼び戻した。2019年8月、弱冠29歳でよーじやに入社、同時に弱冠29歳で代表取締役に就任し、 若くして老舗企業の舵取りを担うこととなった。

■ このままでは未来はない

1904年に創業した國枝商店は、当時の主力商品の楊枝(現在の歯ブラシ)から「ようじやさん」と地元で親しまれていたが、1990年代にテレビドラマをきっかけにあぶらとり紙ブームが起きたことで、京都みやげの定番「あぶらとり紙のよーじや」として急成長。店舗も一挙に増えた。

跡取りとはいえ、家業そのものとは距離をおいて育った國枝さんが社の内実を知ったのは入社してからだ。「あぶらとり紙を出せば売れる」という過去の成功に囚われ、社内はぬるま湯体質となっていた。社員の8割が原価率の数字も知らず、ブームの去ったあぶらとり紙の売り上げはピーク時の4分の1以下。大手から中小まで多くの企業を見てきた國枝さんは危機的状況をはっきりと認識した。「情報開示も内部統制もなく、このままでは会社の未来はない」。無責任で非合理な経営からの脱却を誓い、大胆なコストカットに着手。販売管理費を半年で3億円削減するという成果をあげた。

■ コロナ禍から見えた活路

改革が順調に始動し、銀行からの信頼も取り戻し始めていた矢先の2020年、コロナ禍が直撃。観光地店舗での壊滅的な売上げの減少以上に、ショッキングな現実が突きつけられた。「よーじやの商品がなくて困る人が多ければオンラインで売れるはずなのに、送料無料にしてもオンラインの売上げは微増。ほとんどの人には必需品でなかったということです」。國枝さんはよーじやの存在意義を考え直した。そこで掲げたのが「脱・観光依存」と「脱・あぶらとり紙依存」。ひとつの理想としてイメージするのは、学生時代から大阪のあちこちの街で見かけた「551の蓬莱」だ。「繁華街で観光客に購入されるだけでなく、地元の人が自分の街で買って食卓に並べている。業種は違うが、観光と日常生活の共存が目指すべきところと思った」と語る國枝さん。

よーじやはあぶらとり紙ブームと引き換えに地元のお客さんを失っていた。インバウンドの観光客に頼らなくても、京都の人々に愛されていれば強い。『おみやげの店』から創業時の『おなじみの店』に立ち返る必要を社員らに訴えた。

その後は、若い社員たちと共に、ベンチャー企業のような勢いで新商品や新事業に挑戦していく。ほどなく、売り上げ1位の商品はハンドクリームになった。「よーじや」のカフェではオリジナルのチョコミントスイーツが大ヒット。新業態の「十割蕎麦専門店 10そば」は、あえて「よーじや」の名前を冠さずに地域のお客に愛される店を目指したところ、好調で2号店が大阪にもできた。地元・京都とよーじやの価値を客観的に見つめたからこそ、得られた手ごたえだ。

■ よーじやの描く「みんなが喜ぶ京都」

2025年春、國枝さんはよーじや全体のメッセージやイメージを刷新するリブランディングを実施。60年間親しまれてきた「手鏡に映る女性」のロゴをリニューアルし、シンプルでモダンなブランドロゴを導入。さらに、手鏡に映る女性が鏡から飛び出したという新コーポレートキャラクター「よじこ」を発表。あぶらとり紙のパッケージには従来のデザインを残すなどバランスを保ちつつも「本気で『おなじみの店』に生まれ変わることを示すためには、現状維持はありえませんでした」と気を引き締める。

リブランディングで明確化したよーじやのビジョンは、「みんなが喜ぶ京都にする」こと。

先立って2023年から実践していのが、京都サンガF.C.などスポーツチームのスポンサー活動だ。「自分がサンガ大好きだから資金提供しよう、というわけではなくて」と笑う。大きな目的が、チームを応援するサポーターとの交流だ。キッチンカーの出動などのひと手間を惜しまず、勝利の喜びをスタジアムで共有する。こうしてよーじやは「京都を盛り上げる一員」となっていく。

スポーツの魅力は「結果が見えなくても、挑戦すること」だと國枝さんは言う。自身もその精神を胸に、新たな『おなじみの店』というフィールドへと踏み出した。地元・京都に寄り添い、巻き込みながら、未来をつくる経営者として駆け続けている。


國枝 昂(くにえだ こう)
 プロフィール


よーじやグループ代表取締役。2015年度大阪大学経済学部卒業。卒業後に公認会計士試験に合格し、19年よーじやグループに入社し、代表取締役に就任。「脱・観光依存」を掲げ、25年「手鏡に映る女性」のロゴをリニューアルし企業改革を進める。地元スポーツチームであるサッカーの「京都サンガF.C.」やバスケの「京都ハンナ
リーズ」のスポンサーとなること
で京都を盛り上げる。











(本記事は、2025年10月発行の大阪大学NewsLetter93号に掲載されたものです。)


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