■ 大学時代で育んだヒンディー語とインドへの愛
子どもの頃の夢はバレリーナ。高校卒業後はバレエ留学を考えていた。しかし、「高校2年で『自分より上手い人がいっぱいいる』と気づいてしまって。バレエをやめて、大学進学に目標を切り替えました」。夢破れた悲しみに浸る間もなく、急いで進学先を選ばないといけない。海外に行きたい、異文化に触れたいという思いから大阪大学外国語学部を志望。専攻言語を決めるにあたって基準にしたのは「ニッチであること、話者が多いこと、経済成長が見込める国の言語であること、の3つ。その基準に当てはまっていたのがヒンディー語だったんです」と当時を振り返る。
ロジカルにヒンディー語を選んだがそれゆえに、ヒンディー語へのモチベーションが続くのか?という不安もあった。その不安を乗り越えるために心がけたのが、「ヒンディー語を楽しむ努力」。大学の授業はもちろん、インド映画を見たり、インド人が経営するレストランでバイトに励んだり。インドの人や文化に触れ続けるうちに、心からヒンディー語が好きになった。そんなヒンディー語・インド愛を胸に、初めてインドを訪れたのは大学3年生のとき。1年間のデリー留学に心ときめかせての渡印だった。「実はこの留学が本当にきつくて。人も語学も好きだったけど、ハードな住環境や厳しい暑さは楽しめませんでした」。この経験から、卒業後は日本で暮らすことを決断。インドの厳しい環境で生き抜いた経験や、大学での学びを大きな糧として、外資系コンサルティング会社に就職した。
■ これまでの経験を生かして歩む、YouTuberとしての現在
YouTube配信を始めたのは就職して1年目の時。働きながらのデビューだった。ヒンディー語を忘れないようにしたいと、日本人向けの語学レッスン動画を投稿していたところ、ある日ヒンディー語のコメントがついた。「インド人向けに、日本語のレッスン動画を配信してくれない?」。これが、インド人向けにヒンディー語での発信を始める出発点になった。
「最初は日本語の解説動画にしようと思ったんですが、これが難しくて。結局、日本の文化をヒンディー語で紹介する方向に切り替えていきました」。会社員としての仕事もこなしながらこつこつと動画の投稿を続ける日々に転機が訪れたのは2019年。東京の西葛西で行われた「ホーリー祭(インドを代表するヒンドゥー教の祭り)」を紹介する動画で、初めて“バズ”が起きたのだ。「色とりどりの粉を掛け合う異国情緒あふれる光景なのに、場所が東京。その大きなインパクトが、多くの人の注目を集めたんだと思います」。会社を辞め、YouTube1本で生活するようになった後もチャンネルは成長を続け、現在のメインチャンネルの登録者数は340万人を超える。
YouTuberという一見華やかな仕事の根幹には、これまでの経験がしっかりと生きる。「まず、バレエをやってきたこと。人前でパフォーマンスをすることが好きだからこそ、今の仕事を心から楽しめています。またインフルエンサーとして生きていくためには、企業や行政とのコラボレーションが欠かせません。そこで役立っているのが、会社員時代に学んだ社会人としてのマナーや心構え。“mayoさんなら安心して任せられる”と思っていただけるのは、これらの経験があってこそ。そう思うと、無駄になった経験はひとつもないなと感じます」。そして、大学で育んだ価値観も背中を押す。「阪大の外国語学部って、自由人が多くて。何年も休学して留学することも、ニッチな言語を極めることもごく普通のこと。人と違っていたとしても、やりたいことはやるべき!というマインドで走っています」。
■ 「民間外交」を通じて、日印のギャップを0に近づけたい
「日印つなぐインフルエンサー」として情報発信を行う際に大切にしているのが、 “民間外交”という考え方だ。「私自身、まだまだ理解できていないインド特有の文化や考え方がたくさんあります。自分の何気ない一言が、インドと日本の関係を悪くしてしまうかもしれない。自分の発言やふるまいは民間外交なんだ、という意識と緊張感を常に持つようにしています」。
安易なバズを目指しているわけではない。実際、今後も自身がインフルエンサーであり続けることにこだわりはなく、「ゆくゆくはPR会社を立ち上げて、インフルエンサーを起用し、自分はマネジメントに関わってもいいかもしれない」とも考えている。あくまで目標は、“日本とインドの間にあるギャップを限りなく0にすること”だ。
「まだまだお互いの国に誤解はあると思っています。日本から見たインドは「汚い、貧しい」というようなネガティブなイメージも多く、逆にインド人は日本に対し良いところを見すぎている部分がある。それぞれの生活や文化、エンタメなどを紹介しながら、今の日本、今のインドを伝えていきたいです」。
お気に入りのヒンディー語の格言がある。「koshish karne walon ki kabhi haar nahin hoti.(努力する人は、決して負けない)」。画面のはじけるような笑顔の中に、地道で冷静な努力が垣間見えた。
■ mayo(まよ) プロフィール
2017年大阪大学外国語学部ヒンディー語専攻卒業。卒業後、外資系コンサルティング会社で働く傍らYouTuberとしての活動を開始。「日印つなぐインフルエンサー」を合言葉に活動を続け、YouTube、Instagram、TikTokなど各種SNSの合計登録者数は400万人以上。日本が誇るグローバルYouTuberとして多岐にわたるフィールドで活躍中。
(本記事は、2025年2月発行の大阪大学NewsLetterに掲載されたものです。)