■「絵本」「リード役」子供時代から片鱗
小学校時代から絵を描くのが大好きで、9歳で絵本を出版した。主人公のうさぎが、自分の大事なハンカチを、次々やってくる子鳥たちに分け与えるストーリー。「発展途上国の開発支援に関心がありますが、子どもの頃に既に、誰かと共有したり、支援したりということに興味があったのかも」と振り返る。中学、高校時代は、運動会の合同ダンスや文化祭の演劇の監督などを務めた。伊勢志摩サミットでも、関係省庁やG7諸国の意見や要望をとりまとめる役。「昔からしきるのが好きなのかな」と笑う。
■阪大で学んだ、提言する価値
阪大では国際公共政策研究科(OSIPP)に進学。「公共政策は、提言してこそ価値がある学問。現象を分析して解釈を述べるだけではなく、だからこそこう行動すべきとまで言えるところに魅力を感じました」と語る。OSIPPでは議論の場が多く、「意見を強く主張する人が議論をリードできるものと思っていましたが、人の意見を聞く力がすごく大事だと気づきました。いろいろな立場を踏まえて妥協案や折衷案を出せる人が、実は議論をリードできるのは、国際社会の議論と全く一緒」と指摘する。
■「アフリカの少女の言葉」が外交官を志すきっかけ
開発支援に関心をもつきっかけにもなった忘れられない言葉がある。イギリスに交換留学していた際、「将来何になりたい?」と問われたアフリカの少女が、「大人になりたい」と答えた。「日本の小学生が夢見るお花屋さん・先生・お医者さんなど、どんな職業に就きたいのかではなく、生きること自体が目標だと。ショックでした」
また、国際機関で働くキャリアを目指して、OSIPPの前期課程修了後に大学院留学したフランスにおいて、日本とフランスの大手企業の連携を円滑に進める仕事に携わった。開発支援だけではなく、二つの国の架け橋になる面白さも実感し、日本人として、国のため、そして国際社会のために仕事ができる外交官になりたいとの思いが募り、外務省に入った。
■失敗・成功、どれも無駄になっていない
好きな言葉は「意志あるところに道は開ける」。大阪大学の後輩たちには「大学院でたくさんの出会いがあった。そこから得られるアドバイスや、失敗や成功も含めた経験は、どれも無駄になっていない。すべての出会いや経験に、『ありがとう』と感謝しながら、前に進んでいくことが重要だと思います」とエールを送る。
●原 琴乃(はら ことの)氏
2002年大阪大学国際公共政策研究科修士課程、11年同博士課程修了、博士号取得。05年外務省入省。発展途上国のODAプロジェクトや東京五輪招致活動、欧州外交などの担当を経て、昨年8月から現職。03年パリ第1大学・第9大学でMBA取得。
■英語と世界史が「世界への興味」の原点
子どもの頃はやんちゃなサッカー少年だったが、中学、高校時代は「低迷期」だった。高校では意欲的に勉強する気にならず、サッカー部も辞めた。「勉強も楽しくなく、何をしたらいいのか分からなくて。自分探しでしたね」と、アルバイトをしながらCDやレコードを買いあさる生活を振り返る。ただ、英語と世界史は好きだった。世界への興味は芽生えていて、思い返せば外交官になろうとした原点だったのかもしれない。
■阪大で「考えの柱」を得る
国際関係学科がある神戸市外国語大学に進学。4年生の時、シンガポールに1年間留学した。留学で勉強の楽しさを知り、帰国後も勉強を続けたい意欲にかられ、国際公共政策研究科(OSIPP)に進学した。「OSIPPで勉強の場を与えてもらい、すごい吸収をした2年間でした。経済学的思考を身につけることができたと思います。物事を考える際の基になる柱ができて、すごく自信になりました。専門性を身につけることで、いろいろな面に応用できます」と語る。OSIPPを修了して研究者になった友人らと今も連絡を取っているといい、「研究者と話していると面白いですね。公務員とは違う世界の研究者と、今もつながっていられるのは財産です」
■外務省の職員に魅せられ
国家公務員試験に合格後、官庁訪問で出会った外務省の職員らに魅せられた。「日本の将来や夢を熱く語っている姿に感動しました」。入省後は、対中外交を中心に携わってきた。「政策を立案するに当たっては、立場によって様々な視点や考えがありますが、外務省としては『日本としては何が正しいのか』と考えます。特に最近は、国益を考え、実際の政策決定を行う資料にそれを盛り込めるようになり、やりがいを感じています」
■目標めがけ、学び走り続ける大切さ
好きな言葉は、江戸時代の儒学者、佐藤一斎の「くして学べば、即ち壮にして為すことあり。壮にして学べば、即ち老いて衰えず。老いて学べば、即ち死して朽ちず」
「ずっと学び続けることが、人生を豊かにする、という意味です」と説明する。大阪大学の後輩たちには、「私は学び始めるのが遅かったが、遅すぎることはない。人生は1回きり。結果として回り道でもそれも勉強、何か走る目標ができたら、躊躇せずに一生懸命走ればいいと思います」とアドバイスを送る。
●宮錦達史(みやき たつし)氏
2009年大阪大学国際公共政策研究科修士課程修了。同年外務省入省。
対中外交を担当し、在中国日本大使館で大使秘書などを歴任。今年1月から現職。
■外務省
(東京都千代田区霞が関2-2-1)
外務省は、東京霞が関にある外務本省と、世界各地に置かれている在外公館で構成されている。大臣官房及び全省的なとりまとめを行う事務局の総合外交政策局を除く局は、地域別担当の5つの地域局(アジア大洋州、北米、中南米、欧州、中東アフリカ)と事項別担当の4つの機能局(経済、国際協力、国際法、領事)に分かれており、また情報収集分析を行う国際情報統括官が置かれている。外務本省に約2,550人、在外公館に約3,450名の職員が働く(外務省ホームページより)。大阪大学卒業生は142人。
ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html
(本記事の内容は、2016年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)