世界に新しいエネルギーソリューションを 大阪発!世界屈指のレーザー技術で挑む核融合発電

世界に新しいエネルギーソリューションを 大阪発!世界屈指のレーザー技術で挑む核融合発電

「永遠に30年後の技術」と言われ続けてきた核融合発電を巡り、世界で実用化に向けた開発競争が活発化している。エネルギー需要の高まりと脱炭素が地球規模の課題となる中、その両方を解消するポテンシャルを秘めた技術であることが大きな理由だ。核融合関連スタートアップ「EX-Fusion」代表取締役、松尾一輝さんもこの「無尽蔵のエネルギー」に夢を託した一人。大阪大学で研究を積み重ねたレーザー技術を駆使して実用炉の開発に挑む。



「核融合」と「核分裂」はまったく異なるエネルギー

核融合とはどんな技術なのか。核分裂反応を利用する現行の原子力発電のように、高レベル放射性廃棄物の処理が問題とならないのか。あるいは、東京電力福島第1原発事故(2011年)のようにいったん制御不能になると、暴走し続けるのではないか。「核」という字が付くだけに、こうした疑問がわいてくる。

核分裂を用いる原子力発電は、制御棒を使って適切な速度で核分裂反応が起こるように調整されている。しかし、その調整する機構がもし万が一壊れると、制御できなくなる恐れは拭いきれない。一方、核融合についてはどうか。松尾さんはこう説明する。「核融合は原子核同士をぶつけた時に出る膨大なエネルギーを利用します。原子核は同じプラスの電荷を帯びているので、外部から圧力をかけてぶつけ、温度や密度を上げプラズマ状態をつくり出す必要があります。例えば自然災害などの要因で、もしプラズマ状態を維持する装置が壊れれば、反応自体が止まってしまうので、原理的に暴発しません」

レーザーに高まる期待

核融合の利点の一つには、プルトニウムなど半減期が長く、高レベルの放射性物質を排出しないことも挙げられる。使用燃料は重水素など海水中に豊富に含まれているため、「無尽蔵のエネルギー」と呼ばれる。理論的には、燃料1グラムで石油8トン分に相当するエネルギーを生み出すという。

核融合反応を起こすため、プラズマを閉じ込めたり圧縮したりする方法は大きく二つに分かれる。一つは強力な磁石を使うもの(磁場閉じ込め方式)。そして、松尾さんが取り組むレーザー核融合だ。「これまでは、古くから研究されていたことや、ITERなどのプロジェクトにより、磁場閉じ込め方式の方が注目されていました。ところが、22年に米国での実験で、レーザー核融合が好成績を残しました。投入したエネルギーの1.5倍のエネルギーが得られたのです。発電装置もレーザーの方がコンパクトになる可能性があります」と松尾さんは言う。

無尽蔵のエネルギーに懸ける

大阪大学でレーザー技術を学んだ松尾さんは博士号取得後、米国の大学で勤務し、研究を続けた。「人類に必要な技術であると考え、無尽蔵のエネルギーである核融合を研究テーマにしました、日本は資源が乏しく、エネルギー自給率はわずか11%です。国としての自立を守るためにも必要な技術であるうえ、化石燃料と違って燃料が地球上に平等に分布していて、資源を巡る争いが起きないという点でも理想的な技術だと考えました。」と振り返る。

米国での研究生活で目にしたのは、大学や研究機関だけでなく、大企業やスタートアップが核融合の社会実装に向けて具体的に動き始めたその取り組みだった。また、ChatGPTを開発した「Open AI」創業者、サム・アルトマンが核融合スタートアップに500億円規模の投資をした動きを目の当たりにした。「500億円の投資と聞いて信じられませんでしたが、実際に投資されました。この経験により、国立の研究所ではなく、民間企業やスタートアップで核融合の開発研究を推進していく可能性もあるのだと思いました」。同じ頃、大阪大学の藤岡教授を通じてディープテック・ベンチャーへの投資を検討しているファンドの話が持ち込まれたことも、国内でもそのような動きがあるということで、起業を決断する後押しとなった。

阪大レーザー研と組めるからこそ

並行して大学との共同研究にも力を入れる。その一つが大阪大学レーザー科学研究所だ。商用炉では、10m先を秒速100mで飛ぶターゲットにレーザーを高精度で連続照射する技術が必要となる。「国内では、大阪大学を中心としてレーザー核融合の研究が行われており、レーザー科学研究所は、世界でも三指に入る実績を上げている。大学は、教育・研究に強みをもつ一方で、開発となると人員増加が容易には難しいという面がある。そこを企業として補完できれば、社会実装にも近づくと考えています」と語る。

レーザー核融合発電は29年に技術実証し、35年の実用化を目指している。「電気料金の設定など実際の運用にかかる課題はまだまだあるが、発電できるという技術実証ができれば、あとは規模を拡大するだけで実用化に道筋がつきます。いかに効率よく核融合を起こせるか。その技術を大学とともに追究したい」と熱を込める。


レーザー核融合商用炉の概念図



■松尾一輝(まつお かずき)

岐阜市出身。2020年大阪大学大学院理学研究科修了。博士(物理学)。在学中に同大レーザー科学研究所の藤岡慎介教授の指導の下、高速点火方式の核融合プラズマ加熱の研究に取り組む。カリフォルニア大学サンディエゴ校での勤務を経て、帰国後の2021年に株式会社EX-Fusion(エクス・フュージョン)を設立。高校時代は、自給自足をする「仙人」になろうと考えていたといい、「仕事が趣味みたいなもの」と笑う。


■[株式会社EX-Fusion Webサイト] https://ex-fusion.com/



■ 大阪大学×SDGs 大阪・関西万博
大阪大学では、2025年大阪・関西万博に向けたビジョン「Contribution to All Lives beyond 2025」を設定し、大阪・関西万博に貢献していきます。
https://sdgs.osaka-u.ac.jp/expo2025/

(※  本記事は、2024年2月発行の大阪大学NewsLetter90号に掲載されたものです。 )

share !