大阪・関西万博で「いのち宣言」


未来志向の最たる催し2025年大阪・関西万博では、着実に未来に向けたプロジェクトが進む。SDGsの目標期限である2030年およびそれ以降の世界、人類はどうあるべきかを考える「いのち会議」事業もそのひとつ。大阪大学と関西経済3団体(関西経済連合会、大阪商工会議所、関西経済同友会)の代表者が発起人となり、産学官民の様々なメンバーとともに進めている。誰一人取り残さない社会の実現のため、さまざまな声を聞き合い、考え、話し、人類の目標を示そうとするものだ。

このプロジェクトを進める万博・SDGs担当の大阪大学総長補佐で、社会ソリューションイニシアティブ(SSI)長でもある堂目卓生教授に未来につながる話を聞いた。

誰もが弱者になりうることを知った今だからこそ

2023年3月、大阪大学の西尾章治郎総長は上述の三団体の発起人と、いのち会議事業に関する趣意書を出した。

―――近代以降、科学と技術の発展により、産業は発展をとげ、一人あたりのGDPは継続的に増加し、人々の寿命は延び、消費生活は便利で豊かなものになりました。しかしながら、物質的な豊かさの追求は、人類やその他の生命体、あるいは地球そのものの「いのち」を脅かす様々な課題を生みました。19世紀の半ばに10億に達した人口は爆発的に増加し、2050年には90億を超えると言われています。他方、日本のように少子化による人口減少の中で高齢化が進む国もあります。
このような中、国連において2030年をターゲットに「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められ、「誰一人取り残さない」をスローガンに、人類が協働して地球環境の破壊、自然資源の枯渇、エネルギーや食糧の不足、伝染病の蔓延、経済の停滞、格差や貧困、紛争や戦争など、様々な課題に立ち向かうことが約束されました。
2020年代に入ってから、人類は、コロナウイルス感染症の経験によって、またウクライナでの戦禍によって、誰もが「助けを必要とする人」になり得ることを学びました。この経験を活かし、私たちはSDGsが掲げる「誰一人取り残さない」精神のもと、互いの「いのち」を尊重し、助け合うとともに、すべての「いのち」を輝かせる活動を展開していかなくてはなりません。(以下、略)―――

助け合う社会の実現は、いまは取り残されずに済んでいる私たちにとっても決して他人事ではない。いのち会議の節目のひとつは、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に呼応して万博会期中に「いのち宣言」をまとめ発信すること。「万博は、世界中が未来について考えるまたとない機会」と堂目教授。これまでも「いのち」をテーマにしてきた大阪大学。特にSSIでは、いのちを『まもる』『はぐくむ』『つなぐ』を掲げ活動してきた。「いのち宣言では、SSIの視点に『いのちをかんじる』『いのちをしる』という大学だからこその視点を加えてはどうか」と堂目教授はいう。

「真善美」の追究


人類全体に向けた「いのち宣言」。そのまとめ方も、人類の叡智に則ったものがよいのではと堂目教授。いのちを「まもる」「はぐくむ」「つなぐ」「かんじる」「しる」の5つの観点で集積するアイデアの基となったのは、人間が生きるうえでの普遍的で理想的価値である「真善美」。真善美は、古代ギリシアのプラトンやカントの哲学が由来となった考え方で、仏教の教えなどとも関連がある。「真」は、うそ・偽りでないこと、「善」とはよいこと、道徳的に正しいこと、「美」とは、美しさ、心揺さぶるもの、また調和の状態を表すとされる。いのちを「まもる」「はぐくむ」「つなぐ」ことが「善」へとつながり、芸術や音楽、自然の「美」の背後にあるものを感じることが、いのちを「かんじる」ことにつながる。そして生命の成り立ちや仕組み、究極の「真」を極める自然科学や人文学・社会科学の学問そのものが、いのちを「しる」ことにつながる。いのちを輝かせる宣言は「真善美」という理想の追究でもあり、これこそが大学が中心となり宣言を出そうとする意義でもある。

言葉を編み出す過程の繋がりも大事に

「いのち会議」事業は企業、NPO・NGO、政府・自治体に若者を中心にしたユースチームも加え、「いのち輝く未来社会」に向けての諸課題を熟議し、解決策を探る。堂目教授は「SSIがこれまで築いてきた百を超える方々や組織とのネットワークも核にして広げていきます。大阪大学が連携する米国や中国、オランダなどの海外有力大学にも参加してもらいます」と規模と多彩さに手応えを感じている。また、防災、エネルギー、ジェンダー、貧困など各課題の具体的な議論も深めていく。未来を語る上で重要な若者やこどもの声は、幅広い層から「共創ボイス」として集積・分析し、おとなの声とともに集約する。「言葉のレガシーとして『いのち宣言』を発信しますが、それを編み出していく過程で多くの人たちに関わってもらい、ネットワークも作ります。これを『共創ネットワーク』と呼んでいますが、宣言とこのネットワークがレガシーの両輪になるのです」。 

世界の誰もが助けを必要とする立場にいつなるか分からない時代。「誰一人取り残さない」社会とは互いのいのちを尊重できる社会。いのち宣言は、そうした社会に向け、声を聞き合い、考え、話し、編んでいく。「2025年10月13日が万博のゴールですが、その後もいのち会議は続きます。2025年が新たなスタートとなるのです」。

万博のずっと先のよりよい未来のため、歩みは続く。 


■ 大阪大学×SDGs 大阪・関西万博
大阪大学では、2025年大阪・関西万博に向けたビジョン「Contribution to All Lives beyond 2025」を設定し、大阪・関西万博に貢献していきます。

https://sdgs.osaka-u.ac.jp/expo2025/

(※ この記事は、2023/9/29発行の大阪大学NewsLetter89号に掲載したものです)

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