令和8年度入学式総長告辞(2026年4月2日)
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
本日ここに、3,450名の学部学生、3,054名の大学院生の皆さんが、晴れて大阪大学の一員となられました。大阪大学教職員一同、心から皆さんの入学・進学を歓迎いたします。また、これまで長年にわたり皆さんの成長を温かく見守り、勉学を支えてこられましたご家族・ご関係の皆様に、心よりお祝いと感謝を申し上げます。
さて、皆さんは数多くの選択肢の中から大阪大学を学びの場として選び、この日を迎えられました。それは大きな努力の成果であり、大いに誇るべきことです。しかし同時に、ここで一つ心に留めておいてほしいことがあります。
大学に入ること自体は、あくまで「目標」であって、決して「夢」ではない。
このことを、まず心に刻んでください。
皆さんはこれまで、受験という「物差しの世界」を生き抜いてきました。点数、順位、偏差値、正解か不正解か――同じ基準で測られ、比較され続ける世界です。正直なところ、苦しい思いもあったのではないでしょうか。
しかし、この先に「受験学」という学問は存在しません。同じ物差しで測られ、優劣を競い続ける世界も、大学の先にはありません。もちろん、そうした競争を自ら選ぶ道が否定されるわけではありません。
これから皆さんが向き合うのは、正解が一つではない世界です。答えは人の数だけ存在し、それぞれが異なる価値観と基準のもとで、自らの立ち位置と専門性を築いていく世界です。大学とは、そうした世界に初めて足を踏み入れる場所です。
ここでは、自ら問いを立て、多様な答えを探し出す力を養います。
そして、夢に出会い、これまで想像もしていなかった世界へと導かれていきます。
大阪大学には、基礎科学から人文社会科学に至るまで、多様な学問の地平が広がっています。
そして、それぞれの分野には、異なる問いがあります。
たとえば、
人文社会科学は「人はどう生きるべきか」を問い、
医学は「なぜ人は病むのか」を問い、
工学は「何をつくるべきか」を問い続けます。
大学とは、このような自らの問いのなかで自分の夢に出会う場所なのです。
目標は、自分がピンポイントで行き先を定めるものです。
一方で、夢には、無限の広がりがあります。
夢とは、未知の自分に出会い、想像を超える自分へと向かっていく、その道のりそのものです。
実は、私自身の受験生活も、決して余裕のあるものではありませんでした。必死で勉強し、ぎりぎりで大阪大学に入学しました。そして正直に言えば、入学後しばらくの間、私は大きくモチベーションを失ってしまいました。大阪大学に入ることは、私にとって「目標」ではあっても、「夢」ではなかったからです。
人の一生は全く偶然の糸にあやつられた、もののはずみ
人の一生は、ときに全く偶然の糸に導かれ、思いがけない出来事によって、大きく方向を変えることがあります。
ある日、友人に誘われて出席した講義で、私は一流の先生と出会いました。その立ち姿、議論の深さ、問いの立て方に、「こんな世界があるのか」と心から感じました。心が震えました。それまで自分を縛っていた物差しを、そっと手放すことができた瞬間でした。
今でも、そのときの感覚を鮮明に覚えています。
まさに「千日の勧学より一日の学匠」。一流の人との出会いが、その後の人生を大きく変える――そのことを実感した瞬間でした。
今はSNSの時代です。知識を得るだけなら、家にいながらでも手に入る時代です。しかし、大学に通う意味は、単に知識を得ることにあるのではありません。
その意味は、「何がわからないのか」を知ること、自分とは異なる個性や価値観を持つ人と出会うこと、そして自らの夢に出会うことにあるのです。
インターネットやSNSを通じてすでに知られているものは手に入りますが、未知のものは手に入りません。この世界には、まだ多くの未知が残されています。それは、自ら適切な問いを立てなければ見えてきません。
大阪大学の源流の一つである適塾には、医学者・緒方洪庵を慕い、蘭学を学ぶために全国から志ある若者が集まりました。彼らは、寝食を共にし、議論を重ね、切磋琢磨する中で、それぞれが自分自身の問いを見いだしていきました。
その中から、福澤諭吉は、慶應義塾を創設し、近代日本の思想・教育の礎を築きました。大村益次郎は天才軍略家として明治維新に貢献しました。橋本佐内は、若くして思想家・政治家として活躍しました。また、佐野常民は日本赤十字社を創設し、国際的な人道活動の先駆者となりました。
注目すべきは、彼らが、師との出会い、仲間や同志との交わりの中で、故郷を飛び出して適塾に入塾したときには想像だにしなかった自分に出会い、「蘭学」という枠を超えた、新たな夢を見つけ、生涯それを追い続けたという点です。
吉田松陰は、次のような言葉を残しています。
「志なき者に理想なし。理想なき者に計画なし。計画なき者に実行なし。実行なき者に成功なし。ゆえに志なき者に成功なし。」
どれほど美しいショッピングモールを訪れても、お店に足を踏み入れなければ、ただ通り過ぎるだけでは、何も得ることはできません。
夢への扉は、自動扉ではありません。自らノックし、自らの手で開いていくものです。
ぜひ大阪大学で、皆さん自身の夢に出会ってください。そして、どの分野であっても、自分だけの問いを見つけ、夢への第一歩を、この大学で踏み出してください。大阪大学は、その挑戦を全力で支えます。
新入生の皆さん一人ひとりが、大阪大学という自由で多様な学びの場の中で、自分の夢と出会い、想像を超える未来へと歩み出していかれることを、心から期待しています。
本日は、誠におめでとうございます。
令和8年4月2日
大阪大学総長
熊ノ郷 淳
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