令和7年度入学式総長告辞(2025年4月8日)

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

本日、ここに3,459名の学部学生、2,971名の大学院生の皆さんが、晴れて大阪大学の一員となりました。大阪大学教職員一同、心から皆さんの入学・進学を歓迎いたします。
また、これまで長年にわたり、成長を温かく見守り、勉学を支えてこられましたご家族の皆さまに、心よりお慶びとお祝いを申し上げます。これからの大学生活は単なる学びの場ではなく、これからの人生を形作るかけがえのない時期となります。学問を深め、仲間と切磋琢磨しながら、自らの道を切り拓いていく場となります。

 大阪大学の源流の一つである適塾には、かの緒方洪庵を慕い、幕末から明治維新にかけて福澤諭吉、大村益次郎、佐野常民、高峰譲吉など、日本中から志ある若者が集いました。そこでは、単に師から知識を授かるのではなく、それこそ床に机を各々が並べ、あるいは雑魚寝をしながら、共に学び、高め合う文化が息づいていました。「師を目指すなかれ、師が目指すものを目指せ」という言葉があります。これは、師の模倣にとどまらず、その志を受け継ぎ、さらに新しい道を切り拓くことを意味します。適塾はまさに自由闊達な学風・塾風の中でこの言葉を実践していたのです。皆さんもぜひ、阪大生として、知識を得ることに留まらず、それを活かし、未来を創造する力を養ってほしいと願っています。

 皆さんはこれまで、中学、高校、そして大学と受験を経験し、見事合格を勝ち取りました。つまり受験を乗り越えてきたわけです。しかし、「受験学」という学問はこの先存在しません。大学に入ってからの学問の世界は、広大な海のようなものです。一人の天才ですら、その生涯をかけても到達できないほど奥深く、だからこそ、触れる価値、学ぶ価値があるのです。今日からは、正解のある問題を解くだけではなく、未知の問いに向き合い、自ら答えを見つけていく学びが始まります。

 私は医学を専門としていますが、医学もまた決して完成された学問ではありません。未だに解明されていない病気が殆どであり、世界中の患者さんやそのご家族が苦しんでいます。新型コロナウイルス感染症の流行では、誰もが教科書やガイドラインのない未知の現場に直面しましたが、その中で私たちは、それぞれの持ち場で試行錯誤を重ねながら、新たな治療法や予防策、対処法を生み出してきました。「なぜなのか?」「どうすれば解決できるのか?」という問いを持ち続けることが、医学を含め学問を前進させる原動力・ドライビングフォースとなるのです。

 さて、これからの大学での学びについて、是非皆さんに提案したいちょっとした「コツ」があります。それは「オンリーワン」というキーワードです。これからの大学生活では、ぜひ学びの中で「自分にとってのこだわりの分野・領域」を持つことを意識してみてください。何か一つの分野を好きになり、自分なりの得意分野を持つことで、見える世界が大きく変わります。最初は小さな興味からでも構いません。大切なのは、何かこだわりの学問領域への興味を抱き、その扉をたたくことです。

 そして、そのためには「人との出会い」、特に「先生、師との出会い」が重要です。「三年学ばんより、三年師を選ぶべし」という言葉があります。「千日の勧学より一日の学匠」という言葉もあります。入学したての皆さんにいきなり教えたい言葉ではありませんが、前者は、3年遊んでいてもいいが、そのかわり、その間、自分の指針・role modelとなる師、先生を探しなさいという意味ですし、後者は、千日独学するより、たった一日の本当の一流の師、先生との出会いがその後の運命を変えるという意味です。私自身も、学生時代の師との出会いが、その後の人生の道を定めるきっかけとなりました。今日ここにご出席の先生方も皆、一期一会、「一会による一期の決心」とも言える出会いを経て、人生の節目節目において、それぞれのプロフェッショナル、専門の道を定めてこられました。

 大阪大学には、皆さんの人生の指針、role modelとなる素晴らしい先生方が数多くいらっしゃいます。先生方の言葉や生き方、その立ち姿に触れ、自分の未来を考えるきっかけを得てください。また、大阪大学は総合大学であり、異なる分野を学ぶ多様な仲間と出会える場でもあります。自分とは異なる考え方や価値観に触れ、その輪の中に飛び込む勇気を持つことが、皆さんの学びをより豊かなものにしてくれるはずです。

 今、世界は急速に変化しています。AIが進化し、グローバル化が進む中で、求められる能力も変わりつつあります。しかし、今重宝されている知識は5年後には当たり前の知識になります。流行をキャッチアップすることは大切ですが、流行に流されてはいけません。どの時代でも変わらないのは、自ら考え、行動する力を持つ人が、新しい未来を築いていくということです。皆さんには、ぜひ大阪大学という環境を存分に活かし、自らの可能性を最大限に広げていっていただきたいと思っています。

 人生の節目節目、人は夢見る思いで人生の選択をするものです。今はまだ漠然とした夢でも構いません。手探りでもいいので、ぼんやりとでもいいので、「この先の自分の道となる何か、somethingをつかみたい」という思いを抱いて、それを大切にし、大阪大学での学びの中で磨き上げてください。

 扉をたたかなければ、飛び込まなければ、何もせずに大学生活を送るのであれば、おしゃれで魅力的なショッピングモールに行ってただそこを通過するだけのように、別にどこの大学に行っても同じことです。大阪大学という場をどう活かすか、今日この日の出会いを価値あるものにするかどうかを決めるのは皆さん自身なのです。

皆さんのこれからの大学生活が実り多きものとなるよう、心より祈っておりますし、大いに期待しています。

 大阪大学はこの4月より、国際的なプレゼンスを一層高めるべく、公式英語名称を「The University of Osaka」へと改称いたしました。この新たな一歩を契機として、かつての適塾のように、世界中から志高き若者が集い、異なる価値観や考え方に触れながら、共に学び、切磋琢磨できる「真の知の拠点=学問の府」となることを大阪大学は目指しています。
 皆さん一人ひとりが、そのような多様で刺激的な環境の中で自らの可能性を大きく広げ、それぞれの得意とする分野において、国際社会の中でも果敢に挑戦していける人材へと成長されることを、私は心から期待しています。
 これをもちまして、私からの告辞とさせていただきます。

令和7年4月8日
大阪大学総長
熊ノ郷 淳

■告辞全文PDFはこちら

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