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グローバルに生きる:己を知ることが基本 —中国蘇州シンポジウムに参加して (2012年9月10日)

 

9月6日に中国蘇州市にて、日中8大学の学長による「グローバル人材育成に向けた国際化戦略」と題したシンポジウムが開催された。復旦大学、上海交通大学、蘇州大学、同済大学、浙江大学と神戸大学、京都大学、大阪大学のそれぞれの大学の学長が参加・講演を行った。

同済大学学長は、日中国交正常化40周年を迎えた今年、孔子の言う「40にして惑わず」の不惑の年に、この蘇州シンポジウムを開催することの意義を強調された。さらに現在の日中間にある多少の問題は必ず超えなければならないものであり、後戻りは許されない。何が起こっても最善の解決策を見出す必要があり、過去の歴史を絶対に繰り返してはいけない。知識や文化を超えた相互理解が必要であり、両国の交流が歴史的に確認されてから約1700年に渡る長い歴史の流れのなかで今後ますます日中間の人的交流を深めなければならない旨を強調された。

また、その後に開催されたパネルディスカッションでは、8大学の学長に加えて日立製作所執行役常務中国総代表の北山氏や池田泉州銀行相談役の服部氏らの企業代表も参加して熱心な意見交換が行なわれた。共通認識として、異文化の相互理解と相互尊重、それに専門性に加えて、物事を様々な角度から観る能力が重要視された。

席上、私は「物事の本質を見極める能力」を重要な要素として挙げた。そのうえで、「恕、寛容、共生」の重要性を指摘した。

 

メソポタミア文明、インダス文明や黄河文明など特定の地域に端を発した人類の歩みは、長い歴史を経て今やその活動を地球規模に広げている。この結果「均一性」から「多様性」の世界へと人間の活躍の場は急激に変化を遂げている。地球温暖化、エネルギー問題、食料問題や人口問題、そして感染症問題など、全ての問題は単一要因的事象から複雑要因的事象へと変化している。このような時代において、「均一性」から「多様性」への変化に対しては、異文化の相互理解と相互尊重なくして、人類の未来は無いと思われる。さらにエネルギー問題などの地球規模での新たな複雑要因的事象に対しては、単なる「専門性」から、専門性に根ざしつつも、様々な角度から問題解決ができる「複眼的に物事をみる」能力が重要となる。

さらに、物事を高い次元で観ることがますます求められている。「木を観て森を観ず」という言葉がある。一本の木にとって都合の良いことが、必ずしも森全体にとって最善の策とは限らない。短期的にはその木にとって最善の策であっても森全体にとって悪影響があれば、結局はその木にとっても長期的には命取りとなる。つまり物事を判断する時に、「何が物事の本質であるかを見極める能力」が最も重要であり、その実践のためには複眼的視点と俯瞰的視点を兼ね備えていなければならない。

また、孔子の言葉である「恕」の心なくしては人類の平和な社会の実現は困難である。相手の心、相手の立場を鑑みて物事を判断する必要がある。すなわち「寛容の心」である。免疫学の現象にも「免疫寛容」という現象が存在する。通常、免疫反応は病原微生物等の異物を排除するが、時として異物を受け入れることもある。これを免疫学的寛容という。まさに自己と異物が渾然となりお互いが共存する関係である。この共存、すなわち「共に生きる」共生の心がこれからのグローバル人材育成には欠かすことができない。

異文化を理解し、それを尊重する、そして共生する。グローバル社会における基本的な心である。この根底には己を知る、自分自身の出自を知る、自国の文化を知ることが必須である。免疫における異物認識は、まず自分、自己を知ることから始まる。無限に存在する異物に反応できる免疫応答においては、「自己とは何か」を知らずして自己と、無限ともいえる他者を識別することは不可能である。

この地球上にある様々な国、様々な文化や宗教を異にする人類が共存共栄していくためには、まず己を知り自国の文化を理解し、かつ尊重することが必要である。自分自身を、自国を愛することができなくて、それらを誇りに思うことができなくて、どうして他人や他国を理解し尊重することができるであろうか?

私は、会議の席上、このようなことを強く感じていた。

 

今回の蘇州滞在中にダイキンの蘇州工場を見学する機会を得た。ダイキン工業はごく最近空調分野で世界一のグローバル企業へと急成長した企業である。そこで出会ったダイキン工業の中国総代表の田谷野氏の言葉が今でも脳裏に残る。企業がグローバル競争に勝ち抜く為には、1)コストカットを図り市場シェアを限りなく独占する、2)ひと味異なる技術を獲得するなどの方策が必要だが、3)最も重要なのは企業文化である。と話された。「最後に残るのは文化である」、文化を有しない企業は滅びる。また文化を有する企業はその文化とともに周辺の産業をも拡張していくことができる。文化は力である。その異なる文化を受け入れ、それらの多様な文化が共存共生しているのが中国という国である。その広大な蘇州市の特別工業区に林立するグローバル企業の工場にはその国籍に応じて、中国国旗、国旗、社旗の3つが並んで掲揚されていた。ダイキン蘇州工場には中国国旗、日本国旗、ダイキンの社旗が天空にはためいていたのは、印象的な光景であった。

この20年間、中国は目覚ましい経済発展を遂げている。今やGDPは日本を抜き世界2位にまで成長した。スポーツや科学・技術の面でも飛躍的な発展を遂げている。中国の大学も世界ランキング順位を上げるとともに、国際学術雑誌における論文の量や質においても国際的な存在感を増している。中国のスピード感を伴った量的・質的な科学・技術の発展を目の前にして、日本の大学も更なる努力をしなければならないことを実感した。そして、この多様性に富む地球上で、日本が、日本人がグローバルに活躍し世界人類の平和と福祉に貢献する為には、まず日本の経済、文化、学術が発展し国が栄えること、そして、日本人が日本文化を理解し誇りに思うこと、そのうえで、他国を理解し、尊重する心を育てることこそが、最も基本的かつ重要であることを改めて認識した中国訪問となった。

 

 

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