弓道部
▲的を背にそろう部員たち(中央が小嶋主将)
▲長野での夏合宿=2018年
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凛々しい道着姿で的に向かう弓道は、「最も礼を重んじる武道」とも言われています。大阪大学の弓道部は、1935年に完成した旧制浪速高等学校弓道場にルーツを持ち、正式には63年、大学公認サークルとして創部されました。全国的な弓道ブームにのり、歴代の先輩たちにも支えられながら現在も72人が、豊中と吹田の二つの道場を拠点にして稽古に励み、精神の鍛練を積んでいます。コロナ禍の苦しい時期も乗り越えてきました。中学時代から弓を握る小嶋海生(こじま・かいり)主将=工学部地球総合工学科船舶海洋工学専攻3年=に、その魅力や部運営の苦労などを語ってもらいました。
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吹田、豊中の2道場備え、平日も週末も
豊中キャンパス学生会館の坂を上がった歴史ある「知静堂」に続き、吹田キャンパスの体育館南側にも83年、新しい弓道場「志在館」が完成し、部員は平日の授業や研究の合間ほぼ毎日、どちらかの道場で自主練に励みます。各自がひたすら的に向かって反復練習する一方、仲間とも指導し合ったり、スマホの動画で自己研究したり、工夫も凝らします。
そして土曜日にはほぼ全員が吹田に午前8時半集合。同時に射ることができるのは10人程度なので、ローテーションを組んで午前中に約10本、午後に約20本を射ます。本数は少ないように思いますが、試合を想定して精神集中しながらの団体練習なので、その何倍も射ている平日より「精神的にも肉体的にもしんどい」といいます。全体練習が終わってから、さらに各自が自主練習。日曜日には多く試合が設定されているので、勉強を含めて連日朝から夜まで、まさに「文武両道」に費やし、遊ぶ時間などもほとんどありません。これまでずっとこんな生活だったので、身体に染みついています」と、小嶋さんは笑います。
▲厳しい練習の跡を物語る的
試合、練習で頭脳も重要 「中った時の爽快感」
生まれつき身体が弱くて運動を制限されていた小嶋さんですが、京都の中高一貫「洛星」に入学後、運動をしたくて医師の了解もとり弓道部に入部。すぐにその魅力にとりつかれ、実力を上げるとともに身体も鍛えられました。阪大でも迷わず弓道部に入部。3年生が運営の主体になる態勢のなか、昨秋に主将に就きました。
試合は、的への「中(あた)り」か「抜け」かの数で決まります。的のどの部分でも刺されば「中り」です。弓を引くほんのわずかのずれが大きなずれとなって中らなくなる繊細な面があり、明暗を分けます。体力強化とともに精神鍛錬が重要な要素となるゆえんです。
大学で弓道を始める初心者が多いですが、努力さえ重ねれば必ず上達でき、2級、1級、そして1年生で初段を取る部員もいます。小嶋さんは「筋トレなどで基礎を鍛え、ひたすら集中して射ることで必要な筋肉が備わり、精神力もアップします。さらに、練習中も頭を使うことが不可欠で、『これがだめなら、次はこうしよう』という自己工夫が、さらに上達につながるんです」と解説します。そして弓道の魅力を「最も美しく静かな武道。精神状態に大きく左右され、心技体のすべてを求められる厳しさが、さらに奥深さを感じさせてくれます。そして何といっても、的に中った時の爽快感に勝るものはありません」と微笑みます。
ブームも追い風、新入部員が増加
大阪市立大・府立大、名古屋大などとの対抗を含め、年間を通じて大会が展開されますが、メインは9~10月のリーグ戦、そして3~4月の新人戦にも照準を合わせます。近年では2015年に女子4部関西地区リーグ優勝→3部昇格▽16年女子3部リーグ優勝→2部昇格▽17年男子2部リーグ優勝▽19年大阪府学生弓道選手権大会で男子準優勝、全日本学生弓道選手権大会で女子ベスト8などの成績を挙げています。現在は男子2部、女子3部に位置していて、ここで優勝し上位リーグ昇格に挑戦するのが当面の目標です。
近年のドラマ、アニメ、CMなどによる弓道ブームの追い風もあって、新入部員は20年度25人、21年度28人を得て、部全体も活性化しています。コロナ禍で4~5月に活動自粛した時期には、全く弓を引けずに筋力も衰え、自粛明けに調子を崩す者もでました。
▲歴代の表彰状が飾られている
▲各大会のペナントの下に「目標」も掲げる
先輩、OBからの支援に感謝
でも、その苦しい時期も各自がZOOMを通じて練習し合ったり、筋トレなどで体力の維持・向上に務めました。そして何より、先輩やOBたちがこれまで以上にさまざまな支援をしてくださいます。今年から直接のコーチングを受けられるようになり、「OB―現役」対抗試合も設定していただきました。それへの感謝を忘れません。
部には「初代部長 清水潔先生▽二代目部長 難波善治先生▽三代目部長 碓井健夫先生▽四代目部長 田中敏宏先生」「初代師範 小関照久先生▽二代目師範 福嶋昇先生▽三代目師範 野中秀治先生」と、恩師のお名前も連綿と引き継がれています。
礼儀も重んじる弓道を通じ、部員たちは細やかな所作にも丁寧さが培われます。それが、社会人になっても役立っていくようです。
四代目の田中部長は現在、阪大の理事・副学長も務められます。自身も学生時代に弓道部で心身を鍛錬されました。田中先生は「日本で初めての東京オリンピックが開催された前年に体育会弓道部は活動をはじめ、昭和・平成・令和の時代を超えて、弓道の伝統と文化を維持しつつ、常に新たな時代に合った活動を展開してきました。時代の変化の荒波を乗り切る力強い人材が益々育つ場としても大切に応援したいと思っています。」と、後輩たちにエールを送ってくださいます。