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さぶいぼ たってる?大阪大学の最先端研究 さぶいぼ たってる?大阪大学の最先端研究

「その先の最先端へ。」ってなに!?

知を拓く人。新しい探求と挑戦。
大阪大学には、医学・工学をはじめ、数多くの学術分野で世界的に活躍する研究者の方々がいらっしゃいます。
ここでは、すばらしい研究成果を発表し、さらに新しいアプローチにも積極的に取り組み続けている
研究者の一部をご紹介!ぜひ、その最先端の研究に読んで触れてみてください。ちなみに、ワタシもドクターの端くれですっ!

vol.04

“異方性”を基軸に、材料科学の未来を切り開く。 金属材料と生体骨。一見、つながりがないように思えるこの2つを結ぶキーワードが“異方性”です。
金属材料の高機能化に必要な性質であり、一方で、その性質を備えた組織が生体骨。
中野教授は、材料科学の手法を生命科学の分野に応用することで、骨疾患の治療や新しい生体材料の開発など、社会に貢献する研究を推進。とくに、金属3Dプリンタによる最先端研究が注目を集めています。

中野 貴由(なかの たかよし)

工学研究科 教授

ARTICLES

金属の高機能化と生体骨の研究を結ぶ「異方性」。

「“金属材料”と“生体骨”の研究とは、どういった統一性があるのですか?」
と、初対面の方からしばしば聞かれます。簡単に説明する場合は、「私の持つ
『知的好奇心』のままに研究を進めています」と答えます。これは決して間違った答えではありません。しかし、本質を理解してもらう必要がある場合には、「“異方性”というキーワードで一貫していて、“異方性の材料科学の構築”
が私の目指すところです」と答えます。異方性とは、方向によって異なる機能を発揮する性質のこと。異方性の逆は等方性ですが、人工物の多くはさまざまな方向にまんべんなく機能を示す等方性に近い性質を持つことがほとんどです。一方、自然界の創成物の大部分、例えば植物や生体組織は、異方性を発揮するようにできています。つまり、必要な方向に必要なだけの機能を発揮する、無駄のない構造を持っているのです。もっと言うと、特定方向に極限的に優れた機能性を発揮させるためには異方性が不可欠であり、材料の高機能化のためには異方性を制御することが一番の近道であると考えています。

材料科学の分野では、マクロな材料の機能を原子や分子、さらには電子分布といったミクロな世界と結びつけて理解しようとします。つまりマクロな物体の機能は、自らの眼で直接見ることなど到底できないような、非常に小さな世界で決定づけられているのです。そのうえ、異方性機能を発揮させるには、異方性のミクロ構造が必要となります。例えば原子が、立方体よりも六角柱を基準に配置されたほうが異方性機能をより強く発揮できるのもそのためです。つまり、材料科学的手法を駆使すれば、金属材料だけでなく、生体骨の異方性組織や生体材料の開発も可能になるのです。

生体骨の性質を備えた金属基生体材料の開発を目指して。

金属材料における私の研究テーマのひとつ、極限状態で利用される航空・宇宙材料でも異方性は重要になってきます。高温耐熱材料として開発されたTiA(l チタンアルミ)や、さらに高温での耐熱性を目指して開発されているシリサイドは、六角柱を基軸とする場合には特定方向へ強い高温強度や異常強化現象※1を発現するようになり、またそれをコントロールすることさえ可能になります。

一方、生体骨は典型的な異方性組織です。骨はアパタイトとコラーゲンが大部分を占めますが、アパタイトは六角柱をベースとするナノオーダーサイズのセラミックス粒子。その六角柱の長軸方向はコラーゲン線維の並びと大まかには一致します。図1に示すように、生体骨は部位に応じてアパタイトの配列度合い(異方性)が異なり、部位に応じて最適な機能を発揮します。骨微細構造の異方性は、骨疾患の進行度合いや骨再生過程などによっても大きく変化することを私たちのグループでは見出しており、新しい骨診断法として期待しています。さらに、骨再生時になるべく早く元の正常な異方性組織を取り戻すために、私たちは骨系細胞を制御する手法や新しい生体材料を開発するとともに、骨異方性組織の形成の本質を明らかにするための研究も進めています。最終的には、あたかも異方性骨組織としてふるまうような金属基生体材料の開発を目指しています。

そのひとつの手段に、金属3Dプリンタ(AM:Additive Manufacturing)があります(図2)。3Dプリンタが今ほど注目されるずいぶん前から、私たちのグループでは阪大整形外科グループや医用機器メーカーとタッグを組んで、金属3Dプリンタを用いたカスタム人工関節の臨床応用を目指してきました。金属3Dプリンタは、出発粉末に基づき電子ビームもしくはレーザビームで金属の溶解・凝固を繰り返すことで、患者さんの骨に合った3次元形状にするだけでなく、骨として生体内で認識されるような異方性を生かした仕組みを持たせることができます。また、金属材料には材料そのものの特性(材質特性)に対しても異方性を持たせることができるため、形状と材質パラメータを同時に制御する金属3Dプリンタは無限の可能性を秘めているのです。金属3Dプリンタは医療のみならず、航空宇宙・エネルギー分野、自動車・ロ
ボット分野、家電分野といった幅広い分野において、基礎と応用の両面から脚光を浴びています。本学では他大学に先駆けて、2014年12月に工学研究科を中心とした「異方性カスタム設計・AM研究開発センター」を設置。SIP※2
 
国家プロジェクトの拠点として、最先端のものづくり研究を推進しています。最先端の材料科学は、物理・化学・生物の融合分野ともいえ、異方性を基軸にした分野融合が加速度的に進むものと期待しています。本学には、“木”だけでも、“森”だけでもなく、“木も森も見る”研究や教育者が育つ環境があります。そうした風土のもと、次世代を担う学生の皆さんとぜひとも新しい工学・材料科学の未来を切り開いていきたいと願っています。

※1 通常の材料は温度の上昇とともに強度が低下するが、これに反して温度の上昇に伴い強度が上昇する現象。
※2 戦略的イノベーション創造プログラム

(図1) 生体骨は部位に依存したアパタイト/コラーゲンの異方性配列を持つことで、異方性力学機能を発揮できる。

(図2) 3次元形状と材質を同時に制御できる金属3Dプリンタは、生体模倣をはじめ、さまざまな機能発現を可能とする夢のプリンタ。

PROFILE

中野 貴由

工学研究科 教授

1967年、岡山県生まれ。
1990年に大阪大学工学部卒業。卒論で航空エンジン用TiAl基化合物の層状組織制御、同大学院で層状組織の方向制御化と力学特性の発現機構の解明を行い、1992年に修士課程を修了。
同年、同大学工学部材料物性工学科助手に着任。TiAl基化合物内にわずか10%しか含まれない六方晶系の原子配置が異方性発現の源であることを発見し、博士の学位を取得。その後、生体内外の材料に対し、原子・ナノレベルの構造異方性や規則性、周期性に基づく機能発現に注目し、新材料の開発と機能発現機構の解明、機能制御を行っている。
2008年より現職。同時に、阪大の医工連携の象徴である臨床医工学研究教育センター教授を兼任。2014年からは工学研究科附属異方性カスタム設計・AM研究開発センター副センター長を兼務。
2011年、若手研究者の登竜門とされる第8回日本学術振興会賞をはじめ受賞多数。また、Biomaterials誌など生体材料学、結晶塑性学、骨代謝・形態計測学に関するトップジャーナルに多数掲載がある。