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さぶいぼ たってる?大阪大学の最先端研究 さぶいぼ たってる?大阪大学の最先端研究

「その先の最先端へ。」ってなに!?

知を拓く人。新しい探求と挑戦。
大阪大学には、医学・工学をはじめ、数多くの学術分野で世界的に活躍する研究者の方々がいらっしゃいます。
ここでは、すばらしい研究成果を発表し、さらに新しいアプローチにも積極的に取り組み続けている
研究者の一部をご紹介!ぜひ、その最先端の研究に読んで触れてみてください。ちなみに、ワタシもドクターの端くれですっ!

vol.01

世界の動向を読み解く、
“新しい世界史”の研究。
ヨーロッパ中心だった世界史をアジアから見直してみると、どんな歴史像が浮かび上がってくるのか。
秋田教授の研究テーマは、一国史といった従来の枠組みを超え、国や地域、集団同士のつながりといった地球規模で歴史をとらえ直す「グローバルヒストリー」です。グローバル化が急速に進む現在、経済をはじめ世界の動きを理解するために必要な“新しい世界史”像を構築しようとしています。

秋田 茂(あきた しげる)

文学研究科世界史講座 教授

ARTICLES

地球規模で考える新たな世界史、グローバルヒストリー。

グローバル化が急速に進展する現在、国境を越えてヒト・モノ・カネ・情報・技術・文化などが緊密に行き交い、毎日の生活も世界の動きと密接につながっています。また、東アジアが中国を中心に高度経済成長を実現することで、世界経済の重心はかつての欧米を中心とした大西洋経済圏から、アメリカ合衆国の太平洋岸やインドを含めたアジア太平洋経済圏に大きくシフトしています。こうした世界経済の地殻変動を十分に理解するためには、従来の国民国家や国民経済の枠組みを前提にした一国の歴史だけを考える枠組みは不十分です。国境を越える広域史、諸地域相互の関係史など、新たな理解の枠組みを創り出す必要があります。その一つの実践例として、私は「グローバルヒストリー(global history)」と呼ばれる新たな世界史を研究しています。

それは、世界のいろいろな地域の相互連関を通じて、地球的規模で新たな世界史を考えようとする試みです。そのグローバルヒストリーでは、従来の一国史の枠組みを超えて、ユーラシア大陸や南北アメリカなどの大陸規模、あるいは東アジア・海域アジアなど広域の地域(region)を考察の単位として、下記①~⑤の諸問題などについて議論されています。
①古代から現代までの諸文明の興亡
②明・清時代の中華帝国、南アジアのムガル帝国、中東のオスマン帝国
など近世アジアの大帝国やヨーロッパ諸国の海洋帝国など、帝国支配をめぐる諸問題
③華僑や印僑(インド人商人)などのアジア商人のネットワークや奴隷貿易・契約移民労働者など、移民・労働力の移動にともなう諸問題
④ヨーロッパの新大陸への海外膨張にともなう植生・生態系・環境の変容や、天然痘やコレラなど疾病・感染症の拡大など、生態学・環境史に関する諸問題
⑤近現代の国際政治経済秩序の形成と変容

秋田教授が執筆・編集した、グローバルヒストリーについて学べる書籍。

各国・地域の交流の歴史から見えた、東アジア経済発展の理由。

私が研究するイギリス帝国は、かつて19世紀の世界を支配した最大のヨーロッパの帝国でした。その影響力は、カナダ、オーストラリアなどの白人が移住した植民地(定住植民地)や、現在のインドに代表されるアジア・アフリカ諸地域、軍事力による征服によって支配下に置かれた植民地(従属領・直轄植民地)、さらには貿易や投資を通じた経済関係によって影響下に置かれた諸地域(非公式帝国informal empire)といったように、じつに多様な形態をとり、地球的規模で行使されていました。
その具体例を近代日本・大阪を事例に考えてみましょう。日清戦争直前の1893年、横浜に本拠を置く海運会社である日本郵船(NYK)は、神戸と英領インドのボンベイを結ぶ航路を、日本で最初の国際定期航路として開設しました。このボンベイ航路の最大の積み荷は、インド内陸部で栽培され、イギリス資本で建設された鉄道を通じて港市ボンベイに運ばれたインド棉花。当時大阪を中心に発展しつつあった近代紡績業の原料として輸入されていました。日本郵船に協力したのが、現地の有力な棉花商人・タタ商会(パールシー教徒)で、彼らにとっても日本航路の開設と日本棉花商との直接取引は、イギリスの植民地支配に批判的なナショナリズムが形成されてくるなかで実利を伴うものでした。インド棉輸出の6割近くが日本の大阪に向けて積み出されていたのです。さらにボンベイ航路では、大阪や神戸周辺で製造されたマッチ、石けん、洋傘、ランプなど日用の生活雑貨品が、神戸在住の華僑や印僑により香港、東南アジアや英領インドに向けて大量に輸出されていました。
こうしてアジアでは、対欧米貿易の拡大と並行して、英領インド(南アジア)、海峡植民地や蘭領東インド(現・インドネシア)を含む東南アジア諸地域、中国(香港を含む)および日本(東アジア)をつなぐ地域間貿易である「アジア間貿易(intra-Asian trade)」が形成・発展したのです。イギリス帝国も、自由貿易港、決済通貨としてのポンド、通信手段としての海底電信網(19世紀のインターネット)を提供することで、アジア間貿易の発展から多大な利益を得ていました。
このように、従来はばらばらに語られてきた各国・地域の歴史を相互につなぎ合わせることで、初めて現代にまでつながる東アジアの経済発展の理由を理解できるのです。大阪大学では、こうした面白い、現代に役立つ新たな世界史を研究しています。実学としてのグローバルヒストリーを、いっしょに探究してみませんか。

19世紀末のアジア間貿易(出典:第一学習社『高等学校 世界史A』教科書153頁)

ボンベイ航路の棉花積取契約書
1905(明治38)年日本郵船と大日本紡績連合会(棉花の輸入団体)は、ボンベイ航路(棉花の輸送航路)における安定輸送を目的とし、外国船社の船腹を利用することについて契約を取り交わした。

PROFILE

秋田 茂

文学研究科世界史講座 教授

1958年、広島県生まれ。
81年に広島大学文学部を卒業。同大学院文学研究科を経て、2003年に大阪大学で学位を取得。専門はイギリス帝国史、グローバルヒストリー(世界史)。旧大阪外国語大学助手・講師・助教授を経て、2003年10月より現職。
2000~2001年ロンドン大学LSE客員教授、2013年テキサス大学オースティン校歴史学部客員研究員。2004年、アジア国際経済秩序を論じた著書『イギリス帝国とアジア国際秩序』(名古屋大学出版会)で第20回大平正芳記念賞を受賞。
2013年、アジアから考えるイギリス帝国史『イギリス帝国の歴史』で第14回読売・吉野作造賞(2013年)を受賞。
編著にGentlemanly Capitalism, Imperialism and Global History (Palgrave-Macmillan, 2002); The International Order of Asia in the 1930s and 1950s (Ashgate, 2010) などがある。
大阪大学グローバルヒストリー研究会主宰 http://www.globalhistoryonline.com