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世界的な理論研究者との強力タッグで究極のナノデバイスを可能にする【工学研究科・准教授・杉本宜昭】

世界トップ研究者を招聘し学べる

 原子間力顕微鏡(AFM)は、原子1個1個を画像化し、単原子の物性を測定したり操作したりできる。ナノテクノロジーの最も先進的部分を担い、世界でも技術進歩の著しい分野だ。原子の位置関係だけでなく、それが何の原子(元素)なのかを調べる手法の開発が求められている。杉本准教授はこうした新技術の先鋭的な実験を進めている。そして、原子の種類の違いがどのように同定できるか、あるいは計測結果の違いは何なのかという理論研究、理論計算も同時に求められる。杉本准教授は「実験と理論は車の両輪だ」と語る。

 この分野での理論面の研究者は数少なく、いわば世界で奪い合いというのが実情。この理論面に強みを持つのが、パベル・ジェリネック氏(Pavel Jelinek)率いるチェコ科学アカデミーのグループだ。杉本准教授は「パベル先生を招聘教授として大阪大学に招き、集中して共同研究を行い活気をもたらす」と語る。また、英語でのセミナーやディスカッションを行い、阪大生の英語力、外国人に自身の英語で論理立てて説明する力、国際性を育成する。

 

「時間分解能、さまざまな物理量調べる技術を」

半導体デバイスの細密化や触媒化学の進展するなかで、何の原子がどこに何個あるのかというような計測が求められるようになった。この時代の切迫した要請に応えたのが、ローラー(Heinrich Rohrer:1986年ノーベル物理学賞受賞)らの走査型トンネル顕微鏡(STM)だ。探針を極限まで尖らせると、その先端は原子1個になる。これを試料表面1nmほどまで近づけると、量子効果により電流が流れる。この電流変化で試料表面の原子1個1個がわかるようになった。これを発展させて、電流ではなく原子間に働く力を測定して試料表面を調べるのが原子間力顕微鏡(AFM)だ。AFMならば電流が流れない絶縁体でも、その原子1個、単原子の様子を調べることができる。

杉本准教授は、この研究で世界の最先端を進んでいる。単原子の配置だけでなく、その元素の種類の判別、原子種同定に挑んでいる。「スズ、鉛、シリコンなどは、既に同定できている。現在は、酸素、窒素など典型元素を判別する技術が見えてきた」と目を輝かせる。さらに「顕微鏡の空間分解能だけでなく、時間分解能や原子レベルのさまざまな物理量を調べる技術を確立したい」。

 

ナノクラスターを組み立てる

AFMは「見る」だけではなく、探針の先端を使って原子を1個単位で動かす操作も可能だ。杉本准教授は、この操作を世界で初めて室温(25℃)下条件で成功させた。これを組み合わせれば、原子1個のレベルで必要な種類の原子を、目的の位置に並べることができる。文字通り究極のナノデバイスをつくることが可能になる。この操作を拡張して、1個の原子を目的の場所に埋め込んで並べていく「原子ペン」も開発している。

2014年7月には、複数の元素からなるナノクラスターを自由に創製する方法をも確立、ネイチャーコミュニケーション誌Nature Communications, vol.5, (2014) 10.1038に掲載された。探針と単原子との間に働く化学結合力によって、ナノ空間をまたぐ原子移動を起こさせる手法だ。シリコン表面の格子のような空間に、金・銀・鉛などの単原子を1個、2個と数えながら入れていく。たとえば、金と鉛の原子を1個ずつ詰め込めば、完全に物理限界に達したこの世の中で最小サイズの「合金」となるわけだ。

この成果は、原子の個数と組成を予め設計した通りに、ナノクラスターを創製することを意味する。ファインマン(Feynman)が提唱したような原子単位の究極のナノテクノロジーの完成に、人類はあと1歩のところまで達したわけだ。この操作で創製したナノクラスターを使えば、その電子的、化学的性質が、サイズや組成によって、どのように変化するのかを詳細に調べることができる。これからの時代を拓く新しい材料やデバイスの開発に結びつくと、期待されている。

 

●杉本宜昭(すぎもと よしあき)

2001年大阪大学理学部物理学科卒、06年同工学研究科電子工学専攻博士課程修了。博士(工学)。同研究科原子分子イオン制御理工学センター特任助手から同附属フロンティア研究センターグローバル若手研究者フロンティア研究拠点特任講師を経て、11年から現職。12年からはナノサイエンスデザイン教育研究センター教員も兼任。受賞は09年に文部科学大臣表彰科学技術賞研究部門、Foresight Institute Feynman Prize、10年に「原子間力顕微鏡を用いた室温原子操作と元素同定の研究」により第11回日本顕微鏡学会奨励賞、14年11月にはThe Heinrich Rohrer Medal (Rising Medal)を受賞予定。

(本記事の内容は、2014年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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