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歯周病から全身の疾患をみすえる【歯学研究科・教授・天野敦雄】

菌は加齢とともに 20歳代が要注意

─歯周病はなぜ起こるのですか?

歯周病菌は、外部からの唾液感染が原因。幼児にお母さんが口にしたスプーン、おはしでそのまま食べさせることや、幼稚園などでコップを回し使いすることで、感染の可能性が増えます。ただし、そのころ感染する菌は歯ぐきにはあまり悪さをしません。そして20歳前後は、異性との接触などで唾液感染の機会が増えるところに、悪性の菌種が感染するといわれています。 学生たちには「恋人とキスをする前に、歯周病菌の検査をしてもらいなさい」と指導しています。「そうでなければ、(食品保存の)ラップ越しにしなさい」と(笑)。

─菌の種類が加齢とともに増加するんですね。

さまざまな種類の歯周病菌は、リスクに高低差があり、低い物を底辺としてピラミッドにたとえることができます(図1)。成長段階で、底辺から徐々に危険度の高いものが構成されます。なかでも「P.gingivalis Ⅱ型」は危険な菌で、重篤な歯周病になったり、糖尿病や心血管病などを強力に誘因したりすることが、疫学データとして分かっています。これを防げるかどうかによって、人生の歯周病の行方が大きく左右されます。

─歯周病の現状はどうでしょうか。

人類の誕生以来、史上最大の感染症であるにもかかわらず、完璧な治療法はありません。むしろ研究が進むとともに、そのさまざまな弊害が分かってきました。日本人は、虫歯は減っているのに、歯周病の有病率は上昇しています(左表)。例えば日本人は、相手の口臭を感じても気づかないふりをしますが、歯の健康志向が進んでいる北欧の人は「もっとオーラル(口内)ケアをしないと、あなたが損をする」と注意してあげる。こんな環境の違いも、歯周病の世界地図に反映されます。

菌が血管を通じて全身に回る

─歯周病菌とさまざまな病気のかかわりは?

すべての歯に厚さ5㍉の歯周ポケットができているとすると、潰瘍の面積は約72平方㌢、手のひら大になります。歯磨きや歯石除去などの刺激があるたびに潰瘍面に露出した血管を通じて菌が全身に回り、さまざまな疾患を引き起こします(図2)。循環器疾患などの手術で、血管組織から歯周病菌が見つかることもあります。歯周病に肥満が加わると、危険度は急増します(図3)。また、たばこの煙は、歯ぐきの治癒力を直接阻害します。さらに、ストレスは体の免疫作用を抑制してしまうので、発病の相乗効果に。ストレスの中でも、ねたみ、そねみ、うらみが体に最も悪いので、それを伴わないよう、心がけてほしいです。

─歯学部附属病院では、歯周病菌検査を行っていますね?

患者さんたちに協力をいただいて歯垢の細菌遺伝子を研究した結果、全国初の細菌リスク検査(囲み記事参照)が確立しました。約700種類もある細菌のうち最も悪質な遺伝子の有無を調べ、歯周病の進行予測、予防に役立てることができます。歯周病になりやすくなるかどうか、分かれ道にいる20歳代の人にぜひ受けてほしいですね。「予防歯科」という言葉は知られるようになっていますが、さらに一歩先をみすえて、「予測歯科医学」に力を入れているのです。

歯科医の予防処置、丁寧な歯磨きを

─歯周病の対策で大切なことは?

定期的に歯科医のメンテナンスを受けてください。健康な人は年1回、歯石の除去だけでも効果があります。日本人は我慢強いので、歯が痛くなって初めて歯医者に行きますが、それでは手遅れ。定期的にケアを受けてほしい。歯磨きしていて出血すれば、警告サインと思ってすぐ歯医者へ。歯磨き指導も受けられます。「菌を取っているんだ」とイメージしながら歯への愛情を込めて磨くと、効果が上がりますよ。

─口臭予防についても教えてください。

舌についているたくさんの菌が原因です。市販の器具で舌の掃除ができますし、唾液が多いと繁殖を防げるので、あごや耳の下などの唾液腺マッサージも効果的です。自分で袋に息を吹き込み、そのにおいがするかどうかで口臭を判断できますが、気になる方は口臭外来も活用してください。

─歯周病は予防が最大ということですね。

火が出てからでは遅いのですが、今やっと「燃えやすいかどうか」が分かってきました。私たちも、オーラルケアの将来的プランを患者さんに提供できるよう、研究を進めて行きます。

増える有病率、50歳以上は85%

歯周病は、歯を取り囲む歯周組織の慢性炎症で、歯の脱落を引き起こす慢性感染症である。歯ぐきと歯の間にできる歯周ポケットは、歯垢が原因。日本では、有病率が増える傾向にある。 天野教授は、口から食道、胃、腸などの人間の器官を「土管」と呼んで、「体内を通る土管内はまさに外界で、バクテリアのすみかとなっている」と表現する。菌の数は口の歯垢1㌘あたりに約1000億個もあり、直腸の便と同じくらいだ。 「細菌リスク検査」は、予防歯科外来で受け付ける。歯垢、唾液を採取して検査し、その結果をもとに歯周病の細菌リスクを説明する。保険適用外であるため、検査料は1万2400円。これ以外にも、五つの生活習慣病のリスクを判定する「体質遺伝子検査」、歯周病や口臭に影響を与えるレベルを測定する「ストレスマーカー検査」「タバコ曝露レベル検査」なども行っている。

(本記事の内容は、2012年12月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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