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泳ぐ細菌の「べん毛モーター」の謎にせまる【理学研究科・教授・今田勝巳】

細菌の体から伸びるべん毛を動かす分子機械

「大腸菌やサルモネラ菌など多くの病原菌は、体から伸びたべん毛で、根元にあるモーターを船のスクリューのように高速回転させて泳ぎまわっています」と、今田勝巳教授。べん毛を回転させているのは、直径約45ナノ㍍のタンパク質でできた分子モーター。毎秒300回転というF1エンジン並みの速度で回り、逆回転もできる。「べん毛モーターは、生体内で初めて見つかった回転機構。あたかも機械のように動くため『分子機械』とも呼ばれています」

今田教授の専門は構造生物学。人間が作り出した電気モーターのような回転機構が、自然の生物のなかに存在していることを知って強い興味を持ち、以来、細菌べん毛モーターの構造と機能に関する研究に没頭している。「謎の機械が目の前にある時、まず部品に分解して形や構造を調べ、それらを再び組み立てて動かしてみて仕組みを理解しようとしますよね。私も同様のアプローチでべん毛モーターの仕組みを調べています」

イオン流をエネルギー源にモーターを駆動

極めて高性能なナノマシーンである「べん毛モーター」は、人工の電気モーターが電子の流れで駆動するように、細胞の外から内に流れるイオン流をエネルギー源として回転力を発生させている。しかし、船のような舵を持たないべん毛モーターが、どのように方向を制御し、感染先に到達するのか。「細菌には鼻や舌に相当するセンサーがあり、周囲の物質を感知して信号をモーターに伝達します。そして、ギアを変えるようにモーターを逆回転させるのです。船のスクリューと同様、逆回転すると停止して漂い、順回転した時にたまたま向いた方向へ再び泳ぎ始めます。逆回転の頻度を変えることで繰り返し方向を修正しながらフラフラ泳ぎ、最後は感染先に辿り着きます」

「最初の目撃者」になるべく地道に研究

このべん毛モーターの部品に関しては、分子レベルでの形や構造に未だ不明な部分が多く、今田教授はX線結晶構造解析法を駆使して検証に取り組んでいる。「試薬の種類や濃度など条件の異なる数百〜数千のスクリーニング(ふるい分け)を行い、分子の集合体である結晶を作成します。できた結晶を顕微鏡で観察しながら一個ずつ採取して液体窒素で凍結し、大型放射光施設SPring-8(兵庫県)に運び、実験データを収集・解析しています」。ただ、結晶ができないことも少なくなく、「試行錯誤を繰り返しながら数を試す」地道で苦しい作業の連続。しかし、「人類の歴史上、誰も見たことがない構造の『最初の目撃者』になれた時は本当に感動します」と目を輝かせる。

※X線結晶構造解析法:物質の結晶にX線を照射することで、物質の3次元構造を知る手法

毒針の配送を止め、体に優しい薬剤開発へ

一方、べん毛モーターの機能の研究では、細胞内で作ったべん毛の部品となるタンパク質を、外に送り出して組み立てる「配送センター」のような機能がべん毛の根元にあることが分かってきた。「感染症を引き起こす病原菌は、通称『毒針』を作っています。例えばO-157であれば、腸の細胞に針を刺して病原性タンパク質を送りこみ、感染した細胞を乗っ取って増殖します。その毒針の仕組みが、べん毛モーターの部品を送り出す仕組みとほぼ同じであることがわかりました。毒針からの病原性タンパク質の送り出しを止めることができれば、病原菌が目的の細胞に泳ぎ着いても感染できません」

抗生物質を投与すれば、病原菌だけでなく腸内の善玉菌なども死んでしまううえ、耐性菌の問題も引き起こす。しかし毒針の送り出しを止めることができれば「病原菌の武器を取り上げることになります」。この研究は副作用が少なく体に優しい薬剤の開発などにもつながり、今後の成果に注目が集まっている。

科学者は楽観的であることが大切

 研究の合間にはスキーや野球など、スポーツも楽しむ今田教授。一方で、高校時代はNASAが打ち上げた惑星探査機ボイジャーに刺激を受けるなど、元々理系の話が好きだった。「サイエンスはエンターテインメントだと思っています。わからないことを追究することが非常に面白い」

研究者にとって大切な資質について、「楽観的であること。研究はうまくいかないことの方が多いのですが、実験などで失敗したかなと思っても、『もしかしたら』と考えて検証してみることが大事。科学の世界では、何が正解か分からない状況で、こうと決めて真っ直ぐ進むことは非常に危険。細菌がべん毛モーターを何度も逆回転させてフラフラと進むようなスタイルで検証していかないと、正解にはたどり着けないと思っています」

●今田勝巳(いまだ かつみ)

1987年大阪大学理学部卒業。92年同理学研究科高分子学専攻修了、博士(理学)。松下電器産業国際研究所研究員、大阪大学生命機能研究科助教授、科学技術振興機構ICORP超分子ナノマシンプロジェクト・グループリーダー、大阪大学生命機能研究科准教授などを経て、2010年10月から現職。

 

(本記事の内容は、2016年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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