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「見る」という脳機能の不思議に  ドイツの研究グループとともに挑む【生命機能研究科・教授・藤田一郎】

 

アクティブビジョンの解明をめざして

藤田教授は眼球運動と視覚の関連性に着目。「人の眼球は、静止した物を見る時でも、じっとしていないのですよ」という。「眼球をつねに積極的に動かすことで、人は外界から効率的に情報を得て、網膜から視神経を介して脳へ信号を伝え、視覚世界を脳内に再構成しています。このプロセスをアクティブビジョンといいます」。

アクティブビジョンの機能を解明するため、藤田教授と同研究室の田村弘准教授は、眼球運動や、さまざまな部位で測定した神経活動などについて、動物を用いて実験を進めている。時々刻々と変化していく多数の神経細胞の活動の様子を同時に観測し、膨大な測定データを取得して解析する。この手法を採っている研究グループは少なく、藤田教授たちのこのデータの存在は以前から世界の研究者の間に知られていた。

そのため、統計解析の手法を用いて脳科学を研究しているグリュン教授からは、今回の国際共同研究促進プログラムが始動する前にすでに共同研究のオファーがあった。「グリュン教授はデータに基づいた数理的アプローチによって脳の秘密を明らかにしたいと考え、私たちが持っている膨大なデータを活用したいと言ってこられました」。藤田教授にとっても共同研究には大きなメリットがあった。「何よりもデータ解析のスピードです。私たちが1年がかりで進めるような解析も、彼女たちのグループなら、わずか数週間」。その速さに圧倒された。

眠っている研究の宝を掘り出す

グリュン教授のグループが行った数理的な解析の結果、今まで解明されていなかった脳の部分同士の関連性が見えてきた。ドイツ側から「ここをもっと調べてみては」と提案を受けることもあり、2つのグループが補完し合い、研究は急速に進んでいる。

両グループは現在、2週間ごとにテレビ会議を行っている。「採取したばかりの実験データをドイツ側に託すと、次の会議の時にはもう有用な解析結果ができあがっていて、そこから議論が始まる。そういう時、私たちの実験データには、まだ掘り起こされていない宝の山が眠っていると気づきます」と藤田教授は笑顔で語る。

また、国際共同研究促進プログラムとなったことで、共同作業は研究そのものだけでなく、人材育成の面にも効果が広がっている。プログラムによるグリュン教授の来日に合わせて、大学院生向けに「理論脳科学入門」の集中講義を開講し、また生命機能研究科と脳情報通信融合研究センターではグリュン教授との共同で国際シンポジウムやセミナーを開催している。

「大阪大学には、実験系脳科学に比べ理論系脳科学の授業が少ないと感じています。学生がグリュン教授の専門知識を吸収できる機会ができたことは、すばらしいと思います」。

 

ハードルは高いほどやりがいを感じる

ただ、両教授の専門領域やアプローチの違いもあり、共同研究を進める過程では、戸惑いや意見のぶつかり合いが起きることがある。藤田教授は「無理難題と思えることを要求されることもあります」というが、「ハードルが高ければ、その要求に応えるべく努力する」ときっぱり。「難しければ難しいほど、自分たちだけでは到達できない、すごいことにチャレンジしていると感じるのです」。

最後に共同研究で優れた結果をおさめるための秘訣を聞くと、藤田教授からは「大切なのは、話し合うこと。互いに何を求めているか、何を伝えたいかを、顔をつきあわせてとことん議論することです」という答えが返ってきた。本気で語り合うことから、新しいステージが見えてくる。視覚の脳内情報処理過程の解明を目指し、日本とドイツのメンバーたちの挑戦は続く。

 

国際共同研究促進プログラム

最先端の研究を展開している外国人研究者と大阪大学の研究者との共同研究を支援することにより、研究力を一層高め、大阪大学のグローバル化を促進することを目指す阪大独自のプログラム。海外の研究機関で主任研究者として最先端の研究を展開している外国人研究者が、年間1カ月以上大阪大学の研究室で共同研究することを条件にサポート。2013年度から開始し、34プログラムが進行中。2015年5月時点で、16カ国42の大学や研究機関と国際ジョイントラボを設立。

 

●藤田 一郎(ふじた いちろう)

1984年、東京大学理学系研究科動物学課程修了、理学博士。岡崎国立共同研究機構生理学研究所、カリフォルニア工科大学、理化学研究所、新技術事業団を経て、94年大阪大学医学部教授。02年同生命機能研究科、13年脳情報通信融合研究センター教授。専門は認知脳科学。著書に「『見る』とはどういうことか〜脳と心の関係をさぐる」(化学同人)、「脳がつくる3D世界〜立体視のなぞとしくみ」(化学同人)、「脳ブームの迷信」(飛鳥新社)、「脳の風景」(筑摩書房)など。

(本記事の内容は、2015年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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