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高齢者の健やかで幸せな老後のためにー認知科学や老年社会学で多面的アプローチ

 

新たな介護サービスの考案目指し

人口の4人に1人が65歳以上の日本。先進国では高齢化がさらに進むと予想されており、高齢者の健全な心の維持は共通の課題となっている。今回の共同研究は、脳科学、認知心理学、高齢者心理学、応用老年学の研究者らが、それぞれの立場から加齢に伴う認知機能の変化や自尊感情、幸福感にアプローチ。福祉や介護社会学の研究者らとも手をつなぎ、実証データに基づき、高齢者が健やかな心を保てるよう具体的な介護サービスの考案を目指す。

解決のカギはワーキングメモリ

苧阪教授の研究室では、人間の認知過程の解明を進め、特に脳の中の「心のメモ帳」といわれるワーキングメモリについて検討を行っている。人の記憶について、1950年代からの研究では短期記憶と長期記憶の二つを基本に考えられてきたが、それだけでは解決できない問題が多く、新たに着目されたのが、第3の記憶システム、ワーキングメモリの概念だ。普段の生活の中では、「記憶する」ということだけに専念する場面は少なく、例えば「夕飯の材料を覚えてスーパーへ買い物に行く」など、何かの行動をしながら記憶していることの方が圧倒的に多い。相手の話を記憶しながら会話をし、ストーリーを記憶しながら本を読み進むなど、しばらく覚えておかなければならない一時的な記憶がワーキングメモリだ。苧阪教授らは「リーディングスパンテスト」と呼ばれる方法で、幼児から高齢者まで幅広い人たちを対象にワーキングメモリ容量を測定、その形成や働きの仕組みを探っており、今回の共同研究にも、そうした経験や手法が生かされる。

「親が高齢になる40代くらいから国民の多くが不安を抱えています」と話す苧阪教授。高齢者のワーキングメモリの低下や認知症をもたらす神経基盤の研究により「記憶すべき重要な情報に注意を集め、重要でない情報を抑制する機能を強化すれば、高齢者がよりよい状態で記憶を維持することが可能」と考える。「できるだけ脳を健康に保ち、幸せを感じながら老年を過ごせるように」と、共同研究に込める願いを語る。

米国、北欧の研究者が参加

 海外からの研究参加者は3人。カリフォルニア州立大学のヒデヤ・コシノ(Hideya Koshino)教授は認知神経科学が専門で、苧阪教授とは2008年からワーキングメモリについて共同で研究を実施。スウェーデンのエルスタ・シェンダール大学のビクトール・ペストフ(Victor Pestoff)教授は北欧で著名な社会政策学者で、介護システムの開発や構築に詳しい。スイスのローザンヌ大学のダニエラ・ジョップ(Daniela Jopp)准教授は高齢者心理学の女性研究者。国際百寿者研究会(2014年度は5月に大阪大学で開催)等に加わり超高齢期高齢者の幸福感について研究を進める。大阪大学からは人間科学研究科の佐藤眞一教授(応用老年学)、斉藤弥生教授(介護社会学)、権藤恭之准教授(高齢者心理学)、言語文化研究科の石黒暢准教授(社会政策学)が参加する。

研究は大きく分けて三つの取り組みで行われる。脳科学の分野から認知神経発達の解明に迫り、心理学の立場からは幸福感に着目し、モデル化を図る。そしてそれらをもとに、認知能力の維持と幸福感の向上をもたらす介護サービスの開発、提案へとつなげる。

春以降、大学院生を含めた研究者が海外の共同研究先へ出向くなど、活発な国際間交流研究が始まっている。平成29年3月末にかけ、若手研究者交流、講演会、ワークショップ、介護施設での実践調査なども行う予定だ。海外の優れた技術や発想を取り入れながらの共同研究を通して、将来的には大阪大学を超高齢者に関する研究拠点にすることも展望している。

 

 

 国際共同研究促進プログラム

最先端の研究を展開している外国人研究者と大阪大学の研究者との共同研究を支援することにより、研究力を一層高め、大阪大学のグローバル化を促進することを目指す阪大独自のプログラム。海外の研究機関で主任研究者として最先端の研究を展開している外国人研究者が、年間1カ月以上大阪大学の研究室で共同研究することを条件にサポート。H25年度から開始し、22プログラムが進行中。2014年11月時点で、13カ国の22の大学や研究機関と国際ジョイントラボを設立。

 

●苧阪満里子(おさか まりこ)

京都大学教育学部卒、1979年同教育学研究科博士課程教育心理学専攻修了。教育学博士。専門は認知神経心理学。85年大阪外国語大学外国語学部助教授、2001年教授、07年より現職。大阪大学脳情報通信融合研究センター教授(兼任)。日本学術会議第一部会員。日本ワーキングメモリ学会理事。著書に「脳のメモ帳 ワーキングメモリ」(新曜社)など

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