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疑うがゆえに知り 知るがゆえに疑う

世界一細い蜘蛛の糸

今年4月28日付Nature Communication誌は、極めて細く均質なタンパク質でできた「世界一細い蜘蛛の糸─カンダタはのぼれない」というナノワイヤー作製を報じた。タンパク質薄膜に粒子線(イオンビーム)を撃ち込み、粒子の軌跡にある分子に橋を架ける反応で糸を作る。これまでとは一線を画するシンプルな方法で、太さ数ナノ㍍、長さ数マイクロ㍍(長さが太さの1000倍)の分子の糸が「紡ぎ」だされる。この糸を髪の毛のように基板に多数植えこむと、広い表面積の構造体ができる。その表面に酵素を固定し、検査薬を運ばせるなどの利用が期待される。関教授の幅広い高分子材料研究の産物として、巧まずして生まれた新しいナノ材料だ。

 

光電池の素材としても期待

有機半導体は、シリコンにとって代わる新たな半導体素材として注目されている。有機ELは折り曲げられるディスプレイなど、スマートフォンでもすでに利用が始まった。昨今のエネルギー環境の変化から、光電池の素材としても活躍が期待される。プリンターで印刷するような方法で安価に、柔軟で軽量な太陽電池ができる。そうすれば、設置までのコストが大きく削減され、太陽光発電の実用的価値が飛躍的に高まる。

シリコン半導体は、70年近い歴史により広く活用されている。その一方、炭素骨格をもとにする「電気を流すプラスチック」の歴史はまだ浅い。「アモルファスシリコンに置き換わる革新的な素材としたい」と話す関教授は、その研究の最先端を担う1人だ。

 

スピーディな測定技術を確立

有機半導体の研究では世界中で毎日、数十個も「最新」の材料が発表される。このスピードを支える上で欠かせないのが、素材の特性を的確かつスピーディに測定する方法。関教授はこれに取り組み、13年にマイクロ波を使って材料に非接触で測定する技術を確立した。半導体は物質表面の電子の動きの軽さ、電荷移動度で特性を評価する。かつては、材料に電極などを組み上げないと測定できなかった。関教授は「組み上げや測定によって生じる影響が排除され、材料の本来のピュアな性能評価ができる。それだけでなく、材料を基板に塗布するだけですぐ計測でき、およそ100倍という桁違いの速さで測定できる」と話す。

同じラボで「つくる」「はかる」体制を

 有機半導体の材料開発は、米国や日本そして中国などが競い合い、一般的意味での国際共同研究は当たり前の分野だ。しかし、日進月歩ゆえの障壁もある。研究には材料の現物そのものが欠かせない。関教授の方法ならば1日に何回も測定できるが、材料が届くには大きなタイムラグがある。「飛行機で行き来したり通関に1週間かかったりの環境では、開発のスピードが追い付かない。同じラボで『つくる』『はかる』をタイムリーに繰り返せば、飛躍的な向上が望める」という。

大阪大学では、ダイナミックなグローバル化を担う実を伴った外国人研究者との国際共同研究を全学的な規模で進展させるため「国際共同研究促進プログラム」を展開している。関研究室はこのプログラムで「有機半導体材料の特異的電子機能発現と本質的特性評価法による機能追求」をテーマに、米国の先端的研究者を2014年度から招へいする。こうした体制が整えば、間違いない確実なデータが迅速に出せる。その積み重ねは、日本の、そして大阪大学の研究の信頼性を大きく向上させるだろう。

人材を送ったり招いたりという交流には、二つの側面があるという。「研究者個人にフォーカスすれば、派遣先の研究風土や行動様式、論理構成などを深く体験できる。招へいすれば、受け入れたラボ全体が学べて、波及効果が期待できる。この両側面を組み合わせ、国際的にも説得力あるロジックで構成した、世界に通用する研究として編成することが大切だ」

捨てるという前向きな判断

「研究に継続が大切なのは間違いないが、材料開発では捨てる判断も非常に重要だ」とも。長年温めた研究を捨てるのは忍びないが、見込みのない素材にこだわっていては研究そのものが破綻する。「材料や研究成果は日々生まれるが、発展するものは多くない。どこで見切りをつけるかは難しい決断だが、日延ばしはできない。捨てる・やめるという判断を的確かつスピーディに進めることが大切だ」と語る。

そうしてこそ、捨てられた素材に命を与えることができる。古木が倒れて新しい森が再生するように、その上に新しい素材・試み・研究が息づく。有機薄膜太陽電池材料研究も峠を越え、関教授のミッションはほぼ終了したという。「材料としてのゴールが見え、今後は実用化の技術開発に移行する」

夢のカメラで秩父を撮影したい

新たな課題は、関教授のモットー「疑うがゆえに知り、知るがゆえに疑う」ことで生まれる。高い圧力をかけると、既知の材料の素材特性が飛躍的に向上する。数万気圧でつぶしたり引き伸ばしたりして、わずかに生じた分子構造のゆらぎや分子間距離の変化などが要因と考えられる。高圧下では関教授の電極不要の測定法が活躍する。このときの構造と挙動を探究すれば、新しい有機半導体の分子設計に結びつく。「素材ありきで始まったアモルファスシリコン材料に対し、分子構造から意図して有機半導体材料をつくる」という新たな地平が、その先に広がっている。

いつの日か「オールプラスチックの半導体による撮像素子でできたカメラで、学生時代に初めて登った思い出深い奥秩父の山々を撮影してみたい」と夢を語る。

 

●関 修平(せき しゅうへい)

1991年東京大学工学部卒、93年東京大学工学系研究科修了。93年米国アルゴンヌ国立研究所、95年大阪大学産業科学研究所助手などを経て、2007年に工学研究科応用化学専攻准教授、09年から同教授。01年大阪大学で博士号(工学)を取得。専門は高分子物性。共役骨格を有する高分子材料の反応と物性、イオンビームによる物理化学反応、電子線パルスラジオリシス法による物理化学反応の追跡、量子ビームによる超微細加工を専門とし、「シリコンにとって代わる新たな半導体素材」など、生活につながる開発を多分野で手がけている。06年高分子学会日立化成賞、00年応用物理学会講演奨励賞などを受賞。カメラが趣味で登山、山岳写真などで息を抜く。

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