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肺がん・胸腺腫  幅広く治療・研究 心肺同時移植にも貢献

呼吸器外科、心臓血管外科が密に連携

日本で初めての心肺同時移植が2009年1月、阪大病院で実施されてから5年。2例目のドナーは、愛知県で脳死と判定された30代の女性だった。移植を受けたのは、心室の筋肉が硬くなる拘束型心筋症によって心臓だけでなく肺の機能も著しく低下した20代の女性。8時間以上に及ぶ移植手術は成功し、患者さんは現在、リハビリなどを経て徐々に自立の方向に進んでいるという。

2013年末までに日本全体では脳死下の心移植が185例、脳死下の肺移植が195例、心肺同時移植が2例行われ、そのうち阪大病院では心臓移植が50例、肺移植が34例に施行されている。肺移植は生体肺移植も可能であり、阪大病院では11例施行されている。心肺移植の2例はともに阪大病院で成功した症例。

単独移植とは異なる心肺同時移植の難しさについて奥村教授は、「心肺同時移植は、非常に制約が大きい。ドナー病院で心臓と肺のグラフト(医療で、移植治療に用いる皮膚・血管・骨・筋肉などの組織片のこと)を摘出してから阪大病院に運搬し、人工心肺装置で体の循環や呼吸を維持しながら心臓と肺を移植し、封合を完了して血流を戻すまでを、移植臓器不全を起こさないよう4時間以内で終える必要がある」と語る。

そのような厳しい条件のなかで、2例目も成功させることができた要因を明言する。「移植手術において非常に重要な人工心肺装置など体外循環の技術が、多くの症例経験を持つ大阪大学の心臓血管外科教室は特に優れています。またそれにも増して、呼吸器外科と心臓血管外科が普段から密接にコラボレーションできていることが大きいと思います。心肺同時移植では、初めての経験に近いような場面もありますから、術者・助手を含むチーム全体が臨機応変に手術を進めていく必要があります。呼吸器外科と心臓血管外科はお互いの技術等普段から意思疎通をはかり、共同手術を数多くこなしている土壌があるため、初めての症例に対しても、チーム全体が迅速に最善の方法を見つけて柔軟に対応することができます。先輩たちから続く阪大病院の積み重ねてきた文化がなせる業だと思いますね。ちなみに阪大病院は脳死下臓器移植についての全臓器の認定を受けている施設で、胸部外科だけでなく、外科学講座全体の高い技術力も大阪大学の特筆すべきところです」

がんの転移メカニズムを解明し、再発防ぐ

奥村教授のライフワークは「胸腺」。胸腺腫、胸腺がんや、胸腺腫瘍と関わりのある重症筋無力症などの自己免疫疾患について、発症の原因や治療法などを探求していた。そして現在は、呼吸器外科教室のリーダーとして、肺がん転移などのメカニズムや、最近話題になっているがん幹細胞の研究なども意欲的に進めている。

その一環として「現在、上皮細胞から間葉細胞に移行するEMT(上皮間葉移行)を一つの大きな研究テーマとしています。EMTが起きると、がんが転移しやすくなります。がんの治療効果を高めるためにも、いかにしてEMTを抑えるかが課題です」と説明する。

また最近、がんと炎症の密接な関係がわかってきているという。「血管は、がん手術などで炎症が起きると、がん細胞がくっつきやすい状況になり、手術することで逆に転移が起きやすくなるのではないか。そのような現象を研究することで、転移を抑制する治療法を確立し、再発を防止して、手術成績をさらに向上させていけないかと考えています」。そして奥村教授は、利尿薬として使用されているANP(心房性ナトリウム利尿ホルモン)が持つ血管保護作用に注目。ANPが血管の炎症による活性化を止める働きをしてくれる可能性を、国立循環器病センターの研究室と共同研究し、すでに臨床応用を考える段階にまできている。

 

世界標準治療を阪大病院から発信

それらの研究の一方、奥村教授は、日本全国の肺がん患者の症例(外科・内科・放射線などの治療を含む)を登録する「肺癌登録合同委員会事務局」の事務局長を、5年ほど前から務めている。全国を網羅するデータを教室で集めて合同委員会に送り続けており、すでに5万〜6万例にものぼる巨大なデータベースが構築されている。またそれらのデータを解析した英語論文が、毎年のようにトップジャーナルに掲載され、日本、そして阪大の肺がん研究・治療の先進性を世界にアピールするとともに、世界レベルでその進歩にも大きく貢献している。

また肺がんだけでなく、自身の研究の原点である胸腺腫についても現在、グローバルデータベースの構築に取り組んでいる。「日本だけでなくヨーロッパ・アメリカ・韓国・中国など、世界20〜30カ国が協力して、すでに9000例ほどのデータベースを集計・解析中です。私は日本の代表として3000例ほどの胸腺腫を集計しました」という。このようなグローバルデータベースを構築する意義については「胸腺腫瘍は、未だ標準的な治療方針が定まっていません。データベースを解析して治療結果の優劣を調べ、最も有効な治療法は何かを追究し、世界標準治療を作っていきたい。データベースは、そのための第一歩だと考えています」。


広い視野もち、横の連携も

奥村教授が医師・研究者として心がけているのは、「広い視野を持ち、幅広い分野に取り組むこと」。そして「私は胸腺腫の研究においても、基礎的な研究だけでなく、臨床にどう結びつけていくかを一生懸命に考え続けてきました。基礎研究あるいは臨床研究だけに取り組むのではなく、その間をどう関連づけていくかが重要。例えば、がんと免疫という二つの研究をしていることで、どのように移植免疫を抑制するかといった知見が得られ、移植後の拒絶反応抑制にも応用できます。どのような領域においても何かの共通性を見つけて、つながりを作り、広い領域を網羅して治療と研究をレベルアップしていきたいですね」

 

奥村明之進(おくむら めいのしん)
 

1958年生まれ。84年大阪大学医学部医学科卒業。東大阪市立中央病院、大阪府立羽曳野病院で外科医員を経て93年から大阪大学医学部助手。その後米国ワシントン大学兼Howard Hughes Medical Institute にてPost-doctoral fellow、大阪大学医学系研究科講師、准教授を経て2007年から現職。

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