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再生医療・移植医療などで 世界に貢献【医学部附属病院 未来医療開発部・部長・澤芳樹】【医学部附属病院 未来医療開発部・データセンター長・西田幸二】【外国語学部・部長・東 明彦】【保健センター長・瀧原圭子】

「未来医療」「国際医療」「データ」3センター

瀧原 大阪大学が目指す医療には、グローバル化と移植・再生医療の二つのキーワードが考えられます。これら両方を兼ね備えた新しい組織として発足した未来医療開発部について、まず部長の澤先生から構成や役割をご説明ください。

 未来医療開発部は、02年に阪大病院に設置された未来医療センターが前身です。その目的は基礎研究の成果を、臨床開発の初期段階へつなぐための「橋渡し研究」でした。発足当時は新しい医療のシーズ(種子)として遺伝子治療やロボット手術、移植などのチャレンジングな医療開発が進んでいました。これらの新しい医療を、世の中に普及させていくのが橋渡し研究です。以降10年間、再生医療では西田先生の角膜再生を始めとして、心筋再生なども開発してきました。現在は再生医療について日本最多の10テーマ、その他に機器開発なども含め36のプロトコルが動いています。

一方、企業が研究を行って最終的に効果と安全性を証明し国の承認を得るための臨床試験、すなわち治験についても整備が進み、臨床試験部を設置しました。日本屈指の治験数を誇ります。橋渡し研究と治験は互いに重なる部分もあり、合理化のため2012年に未来医療センターにおける臨床開発部門と臨床試験部門として再編改組しました。

同時に、09年からセンター内に置かれたデータ部門を、未来医療開発部「データセンター」として独立。臨床研究を客観的に評価し、得られたデータを総合的にマネージメントします。さらに、13年には国際医療を展開するための未来医療開発部「国際医療センター」を設立。その過程で、外国語学部、人間科学部、保健学科及びGLOCOL(グローバルコラボレーションセンター)などの参加により、国際医療人の育成について学内で議論を続け、その成果を形にできました。阪大ならではの強みを生かした文理融合の非常によいモデルケースだと思います。

瀧原 次にデータセンターの役割について西田先生からご説明ください。

西田 臨床研究や治験といった臨床試験を科学的に行うためには、いくつかの前提が必要です。しっかりとした手順、どんな計画で行うかという明確な計画書を作って、それに沿ってデータを集めること。そして、データを的確に解析することが重要です。また質を保つには、データマネージャーや生物統計家などの専門家が必要です。データセンターでは、これらの専門家が、研究者のプロトコル作成や試験物概要書の作成を手伝い、質が高く客観性あるデータを得るためのドキュメント作成を行います。さらに、得られたデータを解析し成果としてまとめる、そういった支援もします。

「明日の医療」を引き寄せ、一般診療につなぐ

瀧原 阪大病院の一般診療に、未来医療開発部はどのように関わることができますか。

 阪大病院は、高度先端医療機関として、市中病院ではできない進んだ医療を提供します。そういう今日の医療のさらにもう一つ向こう側、産声を上げたばかりの「明日の医療」を引き寄せるのが未来医療です。ファーストインマンの医療の試みをリスク管理し、綿密に評価しながら進め、世の中に橋渡しして普及させようということです。実はこれ、今に始まったことではなく、阪大のもとからの特色です。研究し臨床もするチャレンジングなドクターが、阪大にはたくさんいます。それがまとまって形になったのが未来医療開発部で、トップダウンではなくボトムアップで出来てきたというのが特徴です。

海外の患者さんも受け入れ

瀧原 未来医療を担う国際医療センターもスタートしました。海外から患者さんを受け入れることについてはいかがでしょう。

 日本、そして阪大病院への海外の期待感は非常に高いです。実際のニーズもあり、先だってサウジアラビアからの患者さんに心臓の再生医療を行いました。当時は受け入れの準備ができておらず、いくつか問題点が表れました。たとえば、院内には英語表記の案内や説明がない、外国人にしたらびっくりですよ(笑)。医療技術の高さが海外の患者さんから認められたということですが、こうした問題は今いろいろな診療科に求められています。

海外の患者さんの受け入れ、病棟の動線、手術や術後管理など、トータルな整備にとって何が必要かが明らかになってきました。こうしたニーズを受け入れるために国際性を高めようと、国際医療センターができました。学内に豊富な土壌があったからです。外国語学部やGLOCOL、人間科学部では中村安秀先生が医療通訳士協議会の会長であったり、各所に取り組みの芽がたくさん。皆さんから「インターンシップの場がない」という話を聞き、病院はその場を提供するし、双方助かるということで話が進みました。年間500人ほども外国人のケアをしている泉佐野市りんくう総合医療センター病院の南谷かおり先生から、取り組みなども教えていただきました。

西田 阪大に限らず、日本の病院ではアメニティー(快適さ)の整備が遅れていて、ハード・ソフト両面での改善が必要です。このほか広報活動にも力を入れています。適塾からひも解く英語の紹介ムービーを眼科学教室で制作し、ホームページに公開しました。

医療通訳育成には、社会での「キャリア化」が必須

瀧原 国際医療と言えば、言語の問題が出てきますね。

 外国語学部として一番に考えるのは、医療通訳についてです。まず社会が、医療通訳の「必要性」をいかに認識するか。阪大では学際融合教育研究センターの高度副プログラムとして、司法通訳や医療通訳の養成が何年か前から始まっています。しかし社会的には、プロフェッショナルとしての通訳のキャリア、職業化があいまいで、安直にボランティア的なものを期待するところがあります。

例えば、通訳に行って1回数千円の謝礼などというのでは、キャリアとして成り立ちません。通訳には極めて高度な力が求められます。奉仕の精神や個人の努力だけに頼るのではなく、社会的な制度を整えることが必要です。仮に、病院スタッフとして通訳が募集される事例が増えると、将来的に医療通訳になるというビジョンが描けます。こうして、優秀な学生がその道を目指して集まり、通訳者が充実するという良い循環になります。医療関係に限らず、司法関係、行政関係などの通訳者は高い志を持っています。しかし彼らに「献身性」を求めるだけでは、社会全体としては機能しません。各分野における専門的な通訳の「必要性」に関して正しい認識をもっていただくことが大切です。

 東先生のおっしゃる通り、キャリア化が大切です。先日、カタール人の患者さんに手術説明をしました。エジプト人通訳者を通すのですが、医療用語がわからない。たまたま本人が英語ができたので、事なきを得ました。医療通訳として医療のことを勉強し、インフォームドコンセントで合意を得るために、ニュアンスもうまく伝えてほしいです。そういう高いレベルのスキルに認定資格を設けたり、正当な報酬を支払ったりという条件整備が必要です。

阪大ならではの多様な国際医療人を育成

西田 実際の医療現場で役立つ医療通訳として実績を積む機会が乏しく、人材育成が進みません。こうした観点から将来を見据えて、国際医療センターを設置したのは阪大病院が唯一、初めてかもしれません。阪大にはさまざまな学部のバックグラウンドがあり、センターのもう一つの役割として人材育成をしていきたいです。

 学部の学生は自分の専攻語を社会で使いたいという気持ちはあっても、それが医療通訳として自然に具体化はしません。医療通訳には高度な語学力と幅広い知識が求められます。これらを身につけようと大学院に進む動機づけとして、インターンシップと言わないまでも学生が現場を見るプログラムが必要です。医療通訳士になろうという学生を待つのではなく、積極的につくり出していくことが大切です。

西田 阪大は文部科学省の未来医療人材養成拠点形成事業に選定され、学部学生と大学院生と2段階で人材育成を目指します。WHOなど国際機関や世界で活躍する薬学、保健学、外国語学、人間科学などの人材を輩出する素地をもつのが阪大の強み、アドバンテージです。こうした学生達が医学の基礎教育を受けて、やがてキャリアとして大学院に進むという体制をつくる教育プログラムをスタートさせました。文理融合で将来的には、通訳やコーディネーター、国際医療経済学・法学などの広がりを望んでいます。

国際共同研究や研修生受け入れ

瀧原 海外からの医療教育・医療研修の受け入れ、国際共同研究についてはいかがでしょう。

 アジアや中東の諸国からニーズがあります。一般的な医療レベルならば自国でも学べますが、日本の先進的医療やきめ細やかな強い臨床力には定評があります。例えば、細胞培養の事業を展開するために、その技術を学びたいというような要望に応えていこうとしています。

西田 眼科では韓国、中国、タイなどアジア諸国からの受け入れが多いです。一カ月間など短期も含めて、「先進医療の領域、再生医療などの現場を見たい」というものが多く、そのためのネットワークもできています。

 日本学術振興会(JSPS)先端研究拠点事業で「心機能再生について見せてほしい」と、フィンランドやドイツなどから来ています。国際共同研究では信頼関係を築くことが重要ですが、先ほどのJSPSの事業から発展し、我々の細胞シートとドイツの脱細胞技術をうまく組み合わせて進めています。ほかに、ヨーロッパの創薬プログラムや米スタンフォードの医工連携バイオデザインなどについて、積極的に取り入れる試みも進めています。いろいろな国と関わりをもつことで、医局員も啓発され国際化が進展していくと思います。

瀧原 アジア諸国とのつながりとして、言語面からはいかがでしょう。

 英語、中国語など話者が多いものと比べると、さまざまなマイナーな言語の受け皿が難しいですね。フィリピノ語やポルトガル語などを母語とする人の来訪が増えていますが、一つの病院であらゆる言語に対応するスタッフをそろえるのは難しい。医療など公共的な需要に応える仕組みを地域単位で整えるなど、社会全体で対応していく必要があります。

医療従事者の側も、通訳の限界を理解しておくことが大事です。もとの日本語の意味内容が不明であったり、複雑すぎれば、正しく外国語に移せません。通訳を利用する側も、どんな言語に翻訳しても意味の通る、わかりやすい論理で説明するように努力することが大切だと思います。

最先端医療イノベーションセンター棟には「未来が集う

瀧原 阪大は、全臓器についての脳死移植が可能な日本唯一の医療機関ですが、再生医療・移植医療についての取り組みについてお話しください。

 心臓については、実績・水準・態勢ともに非常に高いものとなっていますが、いくつかの限界が近づいてきています。だれもが人工臓器や再生医療などを受けられる治療としていくこと、そして重症心不全を克服することを目指しています。

西田 100年に及ぶ歴史を持つ角膜移植については、阪大病院に限った話ではなく、日本全体で言えることですが、やはりドナーの問題など解決できない部分があります。必然的に移植の発展としての再生医療が課題です。世界で最も進んだiPS細胞の研究などを基礎として、日本の医療が目指す道だと思います。

瀧原 産学の連携、最先端医療イノベーションセンター棟の役割や期待についてお聞かせください。

西田 最先端の医療を実用のものとして世の中に広げていくには、企業の力が必要です。そのためには、大学と企業が相互補完的に二人三脚で進んでいくことが大切です。ところが、日本では産学連携が弱い。日本で共同研究はするがその先に強い結びつきが望めないから、企業の投資が契約に基づく明確な関係が結ばれた海外に流れてしまうのです。そこで構想されたのが、4月オープンの「最先端医療イノベーションセンター棟」です。ここでは「共同」ではなく、企業の研究者も入って同じ研究室でunder one roofに連携研究を進めます。上層階の産学でシーズを育てて、中層階にある未来医療開発部に引き継ぐ、そして隣の病院で臨床研究を進めるという流れです。ちなみに、低層階には未来戦略機構や未来の人材を育てるべく学生の教育スペースを大きくとっています。ここに未来が結集し、もう「橋渡し」ではなく、階段だけで行き来が可能です(笑)。

「世界適塾」の実現に向けて

瀧原 阪大は2014年を「世界適塾」の元年として位置付け、創立100周年の2031年には世界トップ10の大学になることを目指しているわけですが、これに向けて皆さんから一言お願いします。

 外国語学部は、統合により単科大学時代とは大きく異なる教育環境を得ました。この新たな教育環境のもとで、医療通訳等の人材育成の分野でも、社会に貢献していきたいと考えています。

西田 世界をリードする国立大学病院として、発展させたいと思います。そのために世界的視野をもった人材育成、それを支える環境、研究レベルといった「世界環境」を充実させたいです。

 日本国内では日本語だけで一通りの用が足りました。これからは、それでは済まない時代がやってきます。グローバルという言葉がもう死語となるくらい、それがごく当たり前にならないといけません。そうした時代を担う、世界で競っていける人材を育てていきたいです。

瀧原 緒方洪庵の精神である「人のため、世のため、道のため」を継承していくということですね。本日はどうもありがとうございました。

 

●瀧原圭子(たきはら けいこ)

長崎大学医学部卒。大阪大学大学院医学系研究科修了。専門は循環器内科学。2008年保健センター教授。11年から総長補佐、12年から保健センター長を兼任。

●澤 芳樹(さわ よしき)

大阪大学医学部卒。専門は心臓血管外科学。2006年医学系研究科教授。心筋シートなど再生医療等の研究等に取り組む。医学系研究科副研究科長、附属病院ハートセンター長、未来医療開発部長等を兼任。

●西田幸二(にしだ こうじ)

大阪大学医学部卒。専門は眼科学。2010年医学系研究科教授。角膜の再生医療、組織工学、遺伝子治療等の研究等に取り組む。12年から最先端医療イノベーションセンター長、未来医療開発部データセンター長、13年から理事補佐等を兼任。

●東 明彦(あずま あきひこ)

大阪外国語大学外国語学部卒。専門はブラジル史。2007年大阪大学世界言語研究センター教授、12年言語文化研究科教授、13年から外国語学部長を兼任。

(本記事の内容は、2014年3月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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